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【短編創作】磁石(私の彼より)

私の彼は工芸職人の仕事をしている。
木や石、ガラス、煉瓦、粘土を使って色んな物を作る。
家もログハウスのコテージで彼が作ったの。
部屋は爽やかな木の香りで包まれており、窓を開けると風が木々を揺らす音や、小鳥のさえずりが聞こえてくる。
そんな彼の作品の中で、私のお気に入りは「丸底のガラス瓶」だ。
庭で採れたリンゴやアンズ、スモモを使ってジュースを作り、このガラス瓶に入れて蓋を閉める。数日後に瓶を開けると、酸味と甘みが絶妙なバランスに変わっていて、まろやかで香りも味も両方楽しめる。
「丸底のガラス瓶」は形も丸みを帯びていて、愛嬌を感じる。

私は想像力が豊かで、音楽や理想の世界をイメージするのが好きだ。
そんな私が閃いたものを彼は形にするのが得意で、仕事の空き時間に頼んだものを黙々と作ってくれる。

私の色々な過去の事情を伝えると、彼はいつも気にしなくて良いと言い、
過去は過去だから、今を生きればいいよ、と優しく伝えてくれる。

そんな彼は、大らかで優しくて、物作りが得意な性格だ。
私はそんな彼と出会い、結婚して本当に幸せだ。

彼は素朴で口数は少ないが、私の話はよく聞いてくれる。
力が強く、腕も太い。
私は彼が物を作っている姿を見るのが好きだ。

そういえば、彼が家の本棚の隣にある磁石を取ってこう言ったことがある。
「僕たちはまるで磁石のような関係だね。」

お互いマイペースで足りない部分を補う。
まさに、私たち2人はN極とS極がくっつき合う磁石のような関係で、これからも一緒にいたいと思った瞬間だった。


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