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アートを見ることを科学する

美術館に行ってアートを見ると、写実的な絵の方が「上手だなー」と思ったりしませんか?一方で有名な現代アートなどはすごく抽象的でこれが美術館になかったら落書きにも見えてしまう、なんて思ってしまうかもしれません。

アートを見るという行為自体を科学的に理解しようとするアプローチは、これまで一般的ではなかったかもしれません。しかし近年アート思考のようなキーワードがあちこちで聞くようになってきたこともあり、改めて「この違いはなんでだろう?」と思ったときに出会った書籍がエリック・カンデルの「なぜ脳はアートがわかるのかー現代美術史から学ぶ脳科学入門」でした。

抽象的なアートは、作者が作品を作り上げた際の思いやメッセージなどが色や形、時には光の表現などへ極端に抽象化された作品であることが大きな特徴です。だからこそ解説などを聞かなければ、その作品が表す内容を推し量ることは難しく、ただ見るだけでは「何を表しているのか」わからないのも当然なのでしょう。しかし本当に重要な点はその抽象的な情報から「自分が何を感じ取ったか」になのです。

例えば作者は、戦争の記憶に鮮明に残っている爆弾の光を表現したのかもしれません。一方で鑑賞者は流れ星のように見えるかもしれません。これは作者と鑑賞者の間には時代背景や性格などその人を形作る要素によって異なってくるからです。そうなると作者の意図はそのまま鑑賞者には伝わりません。しかしそれでも楽しみ方としては間違っていないとも言えます。

抽象的な作品は、鑑賞者の想像力をかき立てこれまでとは違う視点を授けてくれるかもしれません。もしかしたら流れ星のような絵を見た後に、いつもの景色が少し違って見え、ありふれた景色から見たことのない視点に気づくこともあるかもしれません。カンデルはこうしたアートと脳科学に共通する視点を「還元する」と表しています。この考え方は事象を一旦抽象化することで、別の視点を見出す「アナロジー(類推)」に通ずるところがあります。

アイデアはまったく新しい考え、というよりも既存の考え方の結合といわれますが一旦抽象化することで異なる視点を見出す考え方もそのうちの1つなのでしょう。こう考えると、これまでなんだかよくわからなかった抽象的なアートを鑑賞するということにも「別の視点」とも言えそうです。改めて新しい視点でアートを鑑賞しに行くのはいかがでしょうか?

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