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古本屋さんに行こう(行ってきた話)

 先日、久しぶりに街を少し歩いていて、古本屋を見つけた。入口の外に並べられている本の中に人文社会科学系の岩波文庫がたくさんあり、これは中にも関係する本があるだろうと期待して入店した。

 店内には歴史学を中心に哲学、文学など人文系の本が山のように積まれていた。嬉しくなり本棚を眺めると、人文地理学の本も数冊あった。検索で本を見つけられる時代でも、やはり本棚を眺めて初めて知る本も多い。次にいつ来られるか分からないので、気になる本はまとめて買うことにした。

 途中、店内の岩波文庫のところを眺めていると、西田幾多郎の『善の研究』があった。哲学は和辻哲郎など地理学とも関わってくるので、一度きちんと勉強したいと思っている。哲学で論じられる空間と、地理学に関わる私たちが考える空間の一致と不一致は、詳しく検討できなくても自分なりに何かしらのイメージを持ちたい。そんなことを考えながら店内を歩く。

 しばらくして、50代くらいの男性が入ってきて、店主さんに「西田幾多郎の本が読みたい、『善の研究』とかあるといいんだけど。」と声をかけた。店主の方は、「どこかにあったかもしれないけど、最近はあんまり皆さん読まないんでね…」と場所が分からない様子だった。こういう時におせっかいをしてしまうのが私の性分である。「ここにありますよ」と声をかけると、男性はとても喜んで「いやあ良かった、ありがとう」とお礼を言って購入して行った。

 その後、気になる本をまとめて会計に持って行き、店主さんと少しお話をした。ご高齢でもうすぐ店を閉める予定だという。「インターネットには出品していますか」とたずねると、「たまに友人に少し出してもらうけど、なかなかできなくてね」とのことだった。このお店に集まった貴重な本たちが無事にどこか行く先を確保できるのを願いつつ、「また来ますね」と話して店を出た。

 私たちが過去の本と出会うことができるのは、図書館やアーカイブ技術、そしてこうした古本屋さんたちのおかげである。新しい本も大切にしたいけれど、古い本も大切にしたい。また今度あの店に行こう。


◆買った本のかんたんな紹介(一部)
・山口貞夫(1944)『地理と民俗』生活社。:離島研究などを行った山口氏の遺稿を集めた書籍で、柳田國男が序文を書いている。和辻哲郎の『風土』にも言及があり、当時の人文地理学が人文学の幅広い文脈の中で展開していたことが分かる。日本民俗の地域的性格を、柳田の言葉を借りて「近所の不一致と遠方の一致」とした説明は、現代の文化を理解する際も有効だろう。詳しくはまたしっかり読んでから。

・伊藤秀三(1966)『ガラパゴス諸島―「進化論」のふるさと―』中公新書。:ガラパゴス諸島に国際探検隊として調査に赴いた経験のある著者が、ダーウィンをはじめとした研究者によって明らかにされてきたガラパゴス諸島の不思議な特徴を分かりやすく解説している。ダーウィンの著作を読む際の副読本としても良いかもしれない。

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