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大切な本をひらいて 〜 小川洋子『猫を抱いて象と泳ぐ 』〜

何を思ったのか 珍しく本棚へ向かう
そして迷うことなく一冊の背表紙を引き出す
小川洋子さんの小説『猫を抱いて象と泳ぐ』


一番好きな作家を聞かれたら、小川洋子さんと答えるし
一番好きな小説を聞かれたら、この本を答えると思う
『博士の愛した数式』のほうが有名かもしれないしもちろん大好きな感動作で
他にも素晴らしい作品があるのだけれど
わたしが選ぶのはこちらの本なのです

初めてこの物語を読み終えた時、小川洋子さんにファンレターを出そうかと本気で考えるほどに 胸が熱くなりました
本を読んでそんなことを思ったのはこの一度きりです
けれども、その時の思いを言葉で表すことなんて わたしには到底できなくて
大切な一冊となって静かに本棚におさまりました


どうして今になってまた急に読みたくなったのかはよくわからなくて
この前の うっかりこぼれた涙のついでみたいな気もするし
何かこの先に必要となる暗示なのかもしれないし
ただの気まぐれなのかもしれないし
とにかく、随分と久しぶりに 大切にしまってあった物語を開いて読み始めたのです

一週間近くかけて 少しずつ少しずつ再読しました

2009年 第1刷…
そっか、読んだのはもっとずっと前だったような気がしていたけれど 13年しか経っていませんでした

あんなにも強く心を掴まれたはずだったけど、細かい展開や どこが好きだったのかということは、もうぼんやりと 輪郭だけしか思い出せなくなっていました

けれど、大好きで大切な物語であることには変わりはなくて
これまで少しも揺らぐことはありませんでした


雑誌をめくる時のような 音楽や飲み物は必要ありません
しんと静かなひとりの部屋で読むことが相応しいような感覚は残っていて
そんな読書の時間を毎日少しつくりました
これはわたしにとって非日常的な時間であって、
なんだか少し特別でした

たびたび胸がギュンとなって涙がこぼれる
あぁ、そうだったな
こうだったな
こんなこともあったんだっけ…

説明も感想もうまくは書けないけれど、
ここに登場する主人公の少年も、象のインディラも、祖母も、祖父も、弟も、マスターも、猫のポーンも、ミイラも、令嬢も、総婦長さんも…
少年リトル・アリョーヒンを包む人々は
正直で、姑息なごまかしや へつらいなどしない
決してでしゃばるようなことも 押し付けるようなこともせず
いつでも思慮深く 慈愛に満ちていて
ただ静かにまっすぐにやさしい

ヨクハナク
決シテイカラズ
イツモシヅカニワラッテヰル
宮沢賢治 『雨ニモマケズ』より

この一節が ふと浮かんでくるような人々です


、、また宮沢賢治のこの詩がでてきちゃった
去年の6月の梅雨の時期に書いた記事の中にも
『雨ニモマケズ』がありました
学校の国語の授業で習っただけなのだけど
実はすごく好きだったのかなぁ?
雨の季節だから?
いやいやいや たまたまだとは思うけど


読むのを終わりにしようとするころには
いつも温かい飲み物がほしくなりました

チェスの物語です
チェスのことを知らなくても大丈夫
私もまったく知らなかったから

プラスチックのおもちゃのチェスを買って
それから何度もやってみたりしたっけ^^




わたしは本をほとんど読みません

これまでにちゃんと読んだ本の数は 明らかに極端に少ないと思います
なので、有名な作家さんや作品のことすらもあまり知らないようなありさまです
そのことは 実はずっと恥ずかしいことだと感じてて…
でも本当のことだからしょうがないとも思っています

本がキライというのとは違って…
苦手というか 弱いというか 何というか…(ゴニョゴニョ…)

本の魅力も理解しているし、実感もあるし、憧れもとても強いのだけど
とにかく読むのに時間がかかります
エッセイでも詩でも歌集でもマンガでも同じです
雑誌みたいにもっとサラッと読めたらいいのにといつも思います

時間的にも精神的にもよほどの余裕がないと本を開くことができないんです
わたしにとっては少し重いとびら…

小説は読めば感動して、そのたびに小説家って天才だと本気で思うし、ものすごい芸術だと思います
隅から隅まで風景や人物像、空気感や匂いや温度までも浮かび上がらせる細やかな描写
最後まで尽くされた巧妙なストーリー
選び抜かれたことばには 少しの無駄も矛盾も見当たらなくて
いろんな世界に連れて行ってくれる
一冊ならまだしも、全く違う物語を 世界を 次々と生み出すなんて、天才だとしか思えない


こんなふうに、毎日少しずつでも本を開くようにしてみたいな、してみようかな、いや できるかな…
やっぱり弱気になってしまう今日このごろ

いろんなことを知りたいとは思うし、いろんなことを感じたい
数々の感動的な世界を知らずにいるのはもったいないことだなぁとは思うんです
わたしの知らない物語や世界が数えきれないほどあるはずで
本はすてきなものだから

でも 無理して頑張るようなことでもない気もするので
ぼちぼちぼちとまいります


こんなわたしにも 大切にしている小説がいくつかあって
そんなお話もまたいつか 別の機会に

どうぞよい一日を、よい一週間を




#77.  『 小説 』

⭐︎カーテンか通りすがりの草花か ページの奥のエキストラとなる

⭐︎本を読む 雨音だけのする部屋の重い扉をあけるみたいに

        ー ちる ー

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