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『ミッシング・リンク』英国紳士と秘密の相棒(感想)_多様性をテーマに人とビッグフットの友情を描く

『コララインとボタンの魔女』『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』スタジオライカによる5作目の映画で、2020年11/13(金)日本公開の映画。
これまでのライカ作品同様ストップモーションによる制作のため、気の遠くなるような作業を想像させる細部まで作り込まれた映像はひたすら美しいし、動きのコミカルさは観ていて飽きない。
そのせいか、最初はMr.リンクのことを異様なビッグフットだと思って観ていたのに、徐々にその容姿が可愛らしく見えてくるから不思議だ。

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以下に、ネタバレを含む感想など。

<Story>
ヴィクトリア朝時代のロンドン。孤独な探検家のライオネル卿は、伝説の生物の存在を探し求めて、アメリカ北西部へと旅立つ。そこで発見したのは、巨体で全身毛むくじゃら、人間の言葉を話す少しおっちょこちょいの生きた化石だった!ひとりぼっちで仲間に会いたいと願う—その名も“Mr.リンク”と野心家のライオネルは地球の裏側にある伝説の谷シャングリラを目指す。超ユニークな凸凹バディが、壮大な旅路の果てに発見する、世界の常識を覆す“驚くべき真実”とは—?

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各々がそれぞれの目的のためにヒマラヤへ向かう

探検家のライオネル・フロスト卿は世紀の大発見をし、貴族クラブに認めてもらいたくて旅に出る。野心家だが自己中心的な性格なためで雇っていた部下に逃げられている。
一方、貴族クラブを仕切るピゴット・ダンスビー卿は旧態依然とした人間で、ライオネル卿が新たな発見することによって自分の地位が脅かされることを恐れている。

ライオネルは、自分宛てに届いていた手紙を頼りにはるばるイギリスからアメリカ、ワシントン州へ赴き珍獣ビッグフットの「Mr.リンク」と出会う。
Mr.リンクは仲間が一人もいない状況のため孤独に耐えられないから、ライオネルへ手紙を書いて呼び寄せていた。
そのため、仲間が存在するといわれるヒマラヤまで自分を連れて行ってもらうようにライオネルへ懇願する。ライオネルとしても、Mr.リンクとヒマラヤにいる未確認生物の両方を発見したことを認めてもらいたいがため、その依頼を引き受けることにする。
しかしこの状況を面白く思わないピゴットは、ライオネルを亡き者にしようと画策する。

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こうしてMr.リンク、ライオネル、ピゴットの3者がそれぞれの目的を叶えるためにストーリーが展開し、途中ヒマラヤの奥地へと向かう地図を持っていたアデリーナ(ライオネルの元恋人)や、ピゴットに雇われた殺し屋、ステンクを巻き込み、ヒマラヤの奥地シャングリラへと向かう。

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ライオネルが成長する物語

ライオネル、Mr.リンク、アデリーナの一行はシャングリラへと辿り着いたが、美しいシャングリラを守る長老は外部からやってきたMr.リンクを仲間とは認めてくれずに幽閉する。

Mr.リンクは最後の希望を失われ、この世界で独りきりであることを突きつけられるわけだが、世界の半周以上を一緒に旅してきたライオネルは伴に探検するパートナーとして受け入れてくれる。
つまり、人間とビッグフットという種族の違いがあっても友情が成立するというわけだが、ライオネル自身も貴族クラブから拒絶されているからこそ、Mr.リンクの抱える孤独を理解出来るのだ。

ライオネルという男の生き様はハッキリしており、とにかく自分の名誉の優先順位が高く、そのために他者を利用するようなところがある。アデリーナとの再会シーンでもシャングリラへの地図を拒絶されたのはライオネルの自己中心的な性格への嫌悪もある。

そんなライオネルがMr.リンクのことを友人として認めるまでに成長したのだ。
これは自分の名誉こそが最優先と考えていたライオネルにとって大きな変化だし、ライオネル自身も貴族クラブへのこだわりを捨てることで救われることになる。まさしく「情けは人のためならず」というだ。
また、構造的に自分たちとは異なる存在の他者を拒絶するシャングリラの住人や、貴族クラブとは対照的に描くことで多様性をテーマとして訴えているのかもしれない。

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酒場にライオネルとMr.リンクが入った際、敵意とまではいかないまでも酒場の人間たちが警戒した視線を二人に投げかけてくるシーンでもそうだが、とにかくこの二人はどこへ行っても異質な存在として他者から拒絶されてきた。(ライオネルの場合、自己中心的な性格も原因なワケだが)

そうならないように、的確な助言で二人を導いたアデリーナの存在が大きいわけだが、その助言は損得勘定から出てくるものではなく、他者へ共感出来る能力だ。相手のことを理解するというのはおこがましい話しだが、相手の気持ちに寄り添って共感することは出来る。もし共感出来なかったとしてもまずは、相手の立場を考えてあげたら良い。
多様性の話しをするときに、自分と異なる価値観の他者をどうやって受け容れるのかというと、必要以上に干渉せずに丁度よい距離感で他者へ共感することが大事なのだ。
一般的に共感する能力は男性よりも女性の方が優れているということもあり、本作品でのアデリーナの存在感は大きい。

日本のSNSでは世代間の格差による投稿がされ、米国でも大統領選挙で経済格差による分断が改めて話題になった。だけど他者を拒絶しているだけでは話しが進展しない。そういう事実を説教臭くなく、ユーモアたっぷりに伝えてくれる映画となっていると思う。

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大波で傾く船の中で壁を蹴りながら走ったり、揺れる象の上での会話などとにかく細かい演出がよく出来ていて、エンドロールにもMr.リンクの手によって、紙をめくったり拡大鏡を使ってクレジットが紹介されたりと、とにかく映像が凝っている。
ストーリーの深みというでは、家族愛を描いた『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』の方が好みだが笑えるシーンは圧倒的に本作の方が多い。
また、最後のLAIKAのロゴにも歴代キャラクターのシルエットが登場したりと、本当に細部まで作り込まれていて、手を抜いているところが見つけられないほど。久しぶりにライカの過去作品を観たくなった。


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