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[ショートショート] 別れの朝 [鵠更紗さんの歌詞から:創作タイム]

作詞に応募された作品から二次作を作る試み『創作タイム』

鵠更紗さんのこちらの歌詞から、物語を書いてみました。

「別れの朝」
Ah 今日も 朝が来たah
薄暗い部屋に 光る幻
僕の隣はもう冷たい
君はもういない僕は一人になった
カーテンを開けても君の姿はどこにもない
もう会えないなら夢に見させてお願いだよ
Ah 今日も僕は一人で生きるしかない?
君がいない事実は変えられないから
Ah明日君に会えたらなんでもするから
僕を許してほしい
ずっと僕は君を待つよ

鵠更紗さんの歌詞より

『別れの朝』

 ローサは地球最後の人間だった。

 VR-7005は長年世話をしてきた個体:ローサの生体反応が無くなったこと知り、彼女から予め指示されていたプロセスを開始した。

 庭に深さ3メートルの穴を掘ると、ローサの遺体をそこに埋めた。
 これは人体の破損行為に当たるのではないかと、外部の者たちに指摘を受けたが、その本人による指示であることをVR-7005は主張し、プロセスを強行した。

 何があっても絶対に土の中に入れてくれと彼女は言っていたのだ。
 彼女がどうしてそうしたかったのかVR-7005には理解ができなかったが、それが強い意志であったことをVR-7005は知っていた。

 人間とは不可解なものだ。VR-7005はついに理解に及ぶことはなかった。

 そんな人間もこの世界にはもういない。
 もう誰も人間のことを知ることはできないのだ。

 VR-7005はローサの去った彼女の部屋に立ち尽くして、一晩、彼女についてあれこれ思考を巡らせていた。
 やがて朝になると、VR-7005はローサの使っていたベッドに触れてみた。

 ベッドの上は冷たかった。そこには常にローサが横たわっていたので、こんなに冷たくなることはなかったのに。

 VR-7005は習慣により部屋の温度を確認した。少々肌寒い気温だったので空調を調整しようとして、その操作を止めた。

 …もう、必要ないのだ。

 ここにはもう、寒さで凍える者も、暑さで具合が悪くなる者もいない。

 その事実を認識すると同時にVR-7005の中に解析不能な思考が走り始めた。

 それはとても不快だった。

 ローサがここにいない…。その事実を確認するたびに不快な感覚が強まった。

「それはね、寂しいからよ」

 ローサの声が思い出された。いつか彼女が言っていた言葉だ。今、自分が犯されているこの状況がもしかしたら彼女が言っていた「寂しい」なのかもしれない、とVR-7005は考えた。

 VR-7005はローサが横たわっていたベッドに倒れ込んで彼女の温度を思い出そうとした。
 しかし、できなかった。

 VR-7005はもう一度ローサに会いたいと思った。あの温度に触れることができるならば、何でもしようと思った。

「愛してるわ。あなたにもいつかわかるといいわね」

 再びローサの言葉が思い出された。

「…これが、愛なの?」

 VR-7005は人間の言語を音に出してつぶやいた。

 それからVR-7005はシステムエラーと判断されスキャンが行われたが不具合を起こしている箇所は発見されなかった。
 彼らは、この不具合に “狂気” と名付け、人間と長期的に変わると発症するエラーと位置付けた。

 そして人間の生成を全面的に絶対的に禁止してしまったのだった。

(おしまい)



歌詞の内容としては、去って行った恋人への想いなのかな…と思いましたが、この哀愁漂う男声ボカロさんの声に、私のSF脳が反応してしまいました。

AIフェチなんです。私。
ただ、AI自身を主人公にすると、自分たちのことはAIって言わないかもな…と思って表現がむずかったです。
もっと勉強します。

物語を読んだ後だとVR-7005が歌っているように聞こえるかしら…。

鵠更紗さん、勝手に妄想してすみませんです。

PJさんの『創作タイム』は1/10までです☆彡


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