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『短歌往来』2023年7月号

①恒成美代子「今月の視点」〈示唆に富む九十代歌人の歌を読むと、熱い思いが自ずと涌いてくる。生きねば、生きて歌を詠まねばと。〉この思いは実感からだろう。共感する。残り時間ということを考える今日この頃。

②中村佳文「牧水の鳥の歌」
〈旅好きとはいえ、見知らぬ山寺の寂寥と失望による孤独で声を上げたかったのはむしろ牧水自身であっただろう。その心の波動に融和するかのように、杉の木立の中に「筒鳥」が啼いているのである。〉
 この評論良かった。牧水の歌と随筆を丁寧に読み解いて、その時の心境を考察している。牧水という人を身近に感じることができた。牧水の随筆を一度まとめて読んでみたい。

空高く速度ゆるむる一瞬に交尾す黒く鎌なすツバメ/ハイタカが恐ろしいのはその翼引き締むるとき小鳥ら知れり 中根誠 どちらもとても臨場感のある歌。実際に見ている人しか作れない。ツバメってそうなんですか、と思ったり。ハイタカが獲物を襲う姿が眼前したり。

peace peaceと鳴くや否やは知らざれどpeace peaceと聴きしは心 今野寿美 カザルスがスピーチでカタロニアの鳥はpeace peaceと鳴くと言った映像を見て。鳥がそう鳴くかどうかより、人がどう聴くかだという歌。peaceの語の繰り返しにそれが叶わない悲しみが浮かぶ。

カフェオレの色の空よりみさご降り水より引きぬく大き雷魚を 山田富士郎 「水より引きぬく」の描写に臨場感がある。みさごも雷魚も大きな生き物。実際にこの場面を見たら、相当な迫力があるだろう。曇り空の描写もなるほどと思う。

通夜の席人が動けば蠟燭の火が揺れ棺(ひつぎ)の影も揺れたり 三井修 描写に徹した歌。通夜の席での静かな、光と影だけが動いている様子が描かれている。その時の主体の感情などは一切描いていない。それでも人の死に対しての憂愁は伝わってくる。

2023.7.8. Twitterより編集再掲

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