結社の存続について思う(後半)【再録・青磁社週刊時評第四十八回2009.6.1.】

結社の存続について思う (後半)     川本千栄

 ある歌人の歌が次代に伝わるのは、歌が良ければ残る、というような単純なものではない。膨大な数の歌の中で、いい歌が人口に膾炙して広がり、伝えられていくためには、その歌の価値を分かっている者が繰り返し伝え続けなければならない。賛否はどうあれ、それが結社の重要な役割の一つなのは事実だ。三枝昂之も同じ文の後の部分で、

(以下引用)
 (…)「りとむ」にとっては大きなマイナスであることは間違いない。し かし目をもう少しマクロな観点に移すと、伝統ある歌誌の存続という点では歌壇全体にはプラスに作用するだろう。(…)浩樹の「りとむ」におけるもっとも大きな仕事は連載「窪田空穂ノウト」だった。(…)空穂を一冊にすることも歌人としての大切な責務と考えてもらいたい。(…)
(以上引用)

と述べている。
 山本かね子三枝昂之も、三枝浩樹植松壽樹窪田空穂について書いていた事を挙げて、継続を期待しているのだ。「りとむ」創刊以前に三枝兄弟が所属していた「かりん」も元は空穂の「まひる野」を母体としているので、今回の移籍は、ある結社の歌人が別の結社に移ったと考えるよりは、窪田空穂につながる結社が共存共栄の形をとったと考える方が短歌史的に見れば正解であろう。確かに「沃野」以外の他の結社にとっても他人事ではないことだろうし、今後一つのモデルケースとなるかもしれない。結社の一つの側面を強く意識させる出来事であったと思う。

(了 第四十八回2009年6月1日分)


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