見出し画像

メンバーのウェルビーイングを優先するコミュニティ設計!PERMAモデルが秘訣。

今回の研究成果の要約:
コミュニティ運営において、メンバーのウェルビーイング(幸福感・充実感)を高めることが重要な目的の1つである。ポジティブ心理学のPERMAモデルは、ウェルビーイングを構成する5つの要素を以下のように提唱しており、コミュニティ設計に応用できる。

Positive Emotion(ポジティブ感情):愛情、感謝、感動、尊重、和み、興味、熱意、誇りなどのポジティブ感情を引き出す仕掛けを作る。
Engagement(没頭):メンバーが強みを活かし、挑戦的な活動に熱中できる機会を提供する。
Relationships(関係性):メンバー同士が支え合える良好な関係性を築けるよう、コミュニケーションの場を設ける。
Meaning(意味):所属感、共通の目的、役割、相互支援、貢献などを通じて、コミュニティでの活動に意味を見出せるようにする。
Accomplishment(達成):コミュニティに関連した目標を設定し、達成に向けて支援することで、メンバーの自己効力感を高める。

PERMAの5要素は相互に影響し合っており、バランス良く満たすことでメンバーのウェルビーイングを向上できる。コミュニティ運営に迷ったときは、PERMAモデルの観点から改善点を見つけるのが有効なアプローチの1つといえる。

generated by Claude3 Opus




コミュニティの目的を問い直す

コミュニティは何のためにあるのか?

この問いへの答えは見方によって変わるでしょう。コミュニティを運営すること自体が目的になっている運営者にとってコミュニティは「自分のため」に存在すると感じる側面があるでしょう。あるいは、コミュニティを通じて得たいアウトプット(ビジネス上の成果など)がある運営者にとってコミュニティは「成果のため」に存在すると言えます。

より俯瞰的な視点を持つと、わたしたちの暮らしを私的(プライベート)領域と公的(パブリック)領域に分けたときの狭間にあるのがコミュニティであるとも言えます。プライベートでもパブリックでもない諸問題のある程度はコミュニティによって解消されていたりもするのです。コミュニティは「社会のため」に存在しているのかもしれません。

他にも例えば、文化にとってはコミュニティはゆりかごになります。初期にはごく少数の人々によって共有された思考様式や行動様式はコミュニティによって守られ、増幅され、拡散していきます。コミュニティは「文化のため」に存在すると言うこともできそうです。

「コミュニティは何のためにあるのか?」という問いには無数の答えがあり得ることが分かります。しかし、こうしてコミュニティについて考えるときに忘れちゃいけないのは「メンバーのため」に存在するのではないか、という観点です。

今回はこの観点からコミュニティを深掘り、メンバーのためのコミュニティデザインを見出してみましょう。言うなれば「Member-centered Community Design(MCCD:メンバー中心コミュニティ設計)」です。

MCCD:メンバー中心コミュニティ設計


ウェルビーイングという欲求

メンバーがコミュニティに所属する欲求が多様であることは先日も研究成果として公開しました。まだ読んでいない方はぜひ以下の記事もあわせてご覧ください。

メンバーの多様な欲求を一つひとつ扱うことも意味がありますが、今回は思い切って人間の欲求を大きく1つにまとめて捉えてみます。それは「ウェルビーイング」です。

「人間の欲求はウェルビーイングに集約される」と仮定してみよう、というわけです。言い換えれば、今回の研究では「メンバーのウェルビーイングを実現するコミュニティ設計とは?」という問いを扱うことになります。

かなり大雑把ではありますが、思い切った整理ができ、そこから導かれる結論の汎用性が高くなります。


そもそもウェルビーイングって?

ウェルビーイングという言葉はみなさんもよく耳にするのではないでしょうか?実はこの言葉は1946年の世界保健機関(WHO)憲章で初めて言及されました。80年近く前のことで、それからさまざまな場で重要な論点として扱われてきた歴史があります。

Health is a state of complete physical, mental and social well-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、単に病気ではなかったり弱っていなかったりするものではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも満たされた状態にあること。

出典:世界保健機関(WHO)憲章
3つのウェルビーイング

幸福と平和を追求する機関がこの「ウェルビーイング(well-being)」に言及していることからも、わたしたち人間にとって重要なテーマであることが伺えます。実際、ウェルビーイングについてはその後たくさんの研究がされてきました。

その研究の中心的な役割を担ったのがポジティブ心理学です。あたかも「ポジティブに生きていこう!」といった自己啓発の気配があるネーミングですが、それは言葉のあやというやつです。

ポジティブ心理学は2000年ごろにペンシルベニア大学のマーティン・セリグマン教授によって確立された学問領域です。それまでの心理学は精神疾患や問題行動に焦点をあてて人間の心理を探究する傾向にあり「ネガティブな側面からアプローチする心理学」とも言えるものでした。

一方で、ポジティブ心理学は人間の高いパフォーマンスやモチベーション、レジリエンス、ウェルビーイングといった「ポジティブな側面からアプローチする心理学」であることからその名前がつけられたのです。

ポジティブ心理学では、ウェルビーイングを実現するための5つの要素をPERMAモデルとして5つの要素に整理しています。ここからはPERMAモデルについて解説し、それがコミュニティ設計にどう役立つのか理解を深めていきましょう。


PERMAモデルとは?

PERMAモデルとは、ポジティブ心理学の創始者でもあるマーティン・セリグマン教授が提唱した概念。ある個人がウェルビーイングを実現するのに重要な5つの要素の頭文字を取ったものです。

  1. Positive Emotion(ポジティブ感情):喜び、満足感、愛情など、前向きな感情を経験すること。

  2. Engagement(没頭):自分の強みを活かして、興味のある活動に没頭すること。フロー状態を経験することも含まれます。

  3. Relationships(関係性):他者との良好な関係を築き、社会的なつながりを感じること。

  4. Meaning(意味):自分の人生に意味を見出し、より大きな目的に関与していると感じること。

  5. Accomplishment(達成):目標を設定し、それを達成することで、自己効力感を高めること。

コミュニティメンバーが究極の目的としてウェルビーイングの実現を目指しているのだとすれば、この5つの要素を満たせば「メンバーのため」に存在するコミュニティであると言えるでしょう。

ポジティブ心理学におけるMERMAモデル


PERMAを基盤にしたコミュニティ設計

ウェルビーイングを研究対象とするポジティブ心理学と、その中心的概念の1つであるPERMAモデルについて理解を深めてきました。では実際にPERMAモデルをベースにしたウェルビーイングなコミュニティ設計を考えていきましょう。

①Positive Emotion(ポジティブ感情)

Positive Emotion(ポジティブ感情)は大きく2つに分けることができます。

1つは「興奮・衝動システム」由来のポジティブ感情。ドーパミンや交感神経系の活動と関係しています。選択肢を広げる意欲を生み出す傾向にあり、具体的には、誇り、熱意などがあてはまります。

もう1つは「親和・沈静システム」由来のポジティブ感情。エンドルフィンやオキシトシン、副交感神経の活動と関係しています。他者への気遣いなどの行動を促進する傾向にあり、具体的には、愛情、感謝などがあてはまります。

この他にもポジティブ感情についてはさまざまな研究が進んでおり、統一的な見解が出ていません。しかし、コミュニティ運営という観点から重要なポジティブ感情をリストアップしてみました。以下のようなポジティブ感情が生まれるイベントや仕掛けを考えることが重要です。

  • 愛情:コミュニティメンバー同士の親しみや愛着、思いやり。

  • 感謝:コミュニティへの貢献や相互扶助への感謝。

  • 感動:コミュニティでの活動や成果に対する感動。

  • 尊重:お互いの個性や立場を尊重し多様性を認め合うこと。

  • 和み: コミュニティ内に楽しく和やかな雰囲気があること。

  • 興味:コミュニティの目的や活動、メンバーに対する興味。

  • 熱意:コミュニティや自他の目標達成に向けた熱意やモチベーション。

  • 誇り:メンバーとしての誇りやコミュニティに貢献できている有能感。

【補足】ポジティブ感情は他者との関係性を深める効果もあるので、PERMAモデルの要素であるRelationships(関係性)にも影響があります。また、達成(Accomplishment)に向けて前向きな行動をとりやすくなります。


②Engagement(没頭)

Engagement(没頭)は、自分の強みや興味を活かして、挑戦的だが達成可能な活動に積極的に取り組むことを意味します。これはいわゆる「フロー状態」とも密接に関連しています。

フロー状態とは、心理学者のミハイ・チクセントミハイが提唱した概念で、人が完全に没頭し、時間の感覚を忘れるほどに活動に熱中している状態を指します。フロー状態では、以下のような特徴があります。

  • 明確な目標がある

  • 即時のフィードバックがある

  • 課題の難易度と自分のスキルのバランスがとれている

  • 高い集中力を維持できる

  • 自己意識が薄れる

  • 時間感覚が変容する

  • 活動自体が内発的に楽しい

ここでフロー状態に深入りすることはしませんが、そのような没頭の状態は意図的に作れるという事実が重要です。ポイントは「自分の強みを見つけ、それを活かす機会を積極的に探す」こと、そして「適度に挑戦的な目標を設定し、達成に向けて努力する」ことです。

こうした行為をコミュニティのなかで促すことで、メンバーはコミュニティの体験に没頭できるでしょう。

【補足】没頭する活動を通じて人生の意味や目的(Meaning)を見出すケースがあったり、没頭する活動自体が楽しければポジティブ感情(Positive Emotion)も湧いてきます。


③Relationships(関係性)

Relationships(関係性)は、家族、友人、同僚、コミュニティメンバーなど、他者との良好な関係性を築き、維持することを意味します。人は社会的な動物であり、他者とのつながりを通じて、幸福感や生きる意味を見出します。

コミュニティメンバーとの良好な関係性があることは、特に以下の様な相互支援の観点からウェルビーイングを高めてくれます。

  • 情緒的支援:共感や励まし、傾聴などを通じて、情緒的に支えてくれる。

  • 手段的支援:必要な資源や実際的な助けを提供してくれる。

  • 情報的支援:問題解決に役立つ情報やアドバイスを与えてくれる。

  • 評価的支援:建設的なフィードバックで自己評価を高めてくれる。

コミュニティのなかでこうした相互支援が生まれる状況を作ることがコミュニティ運営者に求められます。具体的にはメンバー同士でコミュニケーションする機会を作るのがオススメです。メンバーがお互いに傾聴(相手の話に耳を傾け共感的に理解)したり、自己開示(自分の思いや経験を適切に開示)したり、共同作業(コミュニティに関連した活動を共有)したりするなかで関係性が深まっていきます。

関係性は相互支援の足場になり、相互支援によって関係性が深まるというポジティブなループが回ります。

【補足】関係性によってポジティブ感情(Positive Emotion)が感じられ、さらに増幅されていきます。また、コミュニティの活動に意味(Meaning)を感じるようになったり、関係性のあるメンバーと一緒に活動することで達成(Accomplishment)しやすくなります。


④Meaning(意味)

Meaning(意味)は、自分の存在や行動に意義を見出している状態を意味します。自分自身よりも大きな何かに関与・貢献していると感じることで、充実感や満足感を得ることができます。

コミュニティにおける意味の源泉には、以下のようなものが挙げられます。

  • 所属の感覚:コミュニティに属し、受け入れられていると感じることで、自分の存在意義を見出すことができます。

  • 共通の目的:コミュニティのメンバーが共通の目的や価値観を持つことで、自分の行動にも意味が生まれます。

  • 役割の発見: コミュニティ内で自分の役割を見出すことで、自分の存在価値を実感できます。

  • 相互支援:コミュニティ内で互いに支え合う関係性は、自分の存在意義を再確認する機会となります。

  • 貢献:コミュニティ全体の発展や成功に寄与することで、自分の行動に意味を見出すことができます。

  • 世代を超えたつながり:古参メンバーから学んだり新参メンバーを支援したりする経験は、コミュニティの経験に時間的な広がりを与えます。

上記のような意味の源泉を意識し、コミュニティの活動やコミュニティに所属することに意味を感じられるような状況作りがコミュニティ運営者に求められます。

コミュニティに意味を見出すことで、メンバーはレジリエンス(逆境に直面した際の回復力)が高まったり、意味のある目標に向かって努力するモチベーションが高まったり、人生の満足度が向上したりします。

【補足】意味によって高まるモチベーションが達成(Accomplishment)を後押ししたり、コミュニティでのアクションについてポジティブ感情(Positive Emotion)が湧いてきたりします。また、共通の意味を感じているメンバーがいれば関係性(Relationships)も築きやすくなります。


⑤Accomplishment(達成)

Accomplishment(達成)は、自分で設定した目標やコミュニティの目標に向けて努力し、達成することで得られる満足感や自信のことを指します。達成感は自己効力感(自分の能力に対する信念)を高める効果があります。

自己効力感が高い人は、以下のような傾向があることが知られています。

  • 挑戦的な目標を設定する。

  • 困難な状況でも粘り強く取り組む。

  • 失敗をバネにさらなる成長を目指す。

こうした傾向によって目標を達成しやすくなり、達成を通じて自己効力感が高まるというポジティブな循環が生まれます。このループに入るためにコミュニティを通じて達成感や自己効力感を感じられる状況を作ることがコミュニティ運営者に求められます。

具体的には、以下のようなサポートが有効です。

  • コミュニティに関連した目標を設定する。

  • 目標達成までのプロセスを明確にし、コミュニティで支援する。

  • 進捗状況を定期的にコミュニティで公開し、必要に応じて軌道修正する。

  • 目標達成時には、コミュニティ全体で祝福し、お互いに達成感を味わう。

  • 新たな目標に挑戦し、継続的な成長をコミュニティで支援する。

コミュニティに所属していることで、メンバー一人ひとりではできないことが実現できるでしょう。その達成感と自己効力感がメンバーのウェルビーイングを実現するのです。

達成したい目標の難易度とスキルのバランスが取れているとフロー状態に入り没頭(Engagement)しやすくなります。また、達成によってポジティブ感情(Positive Emotion)が得られることも多いです。


この研究の活かし方

今回はメンバーの究極の目的をウェルビーイングだと仮定し、ウェルビーイングを実現するための要素としてPERMAモデルを援用してコミュニティ運営に当てはめてみました。

大胆に単純化したものの、コミュニティ設計の1つの考え方としては実用性があるのではないかと思います。もちろんコミュニティにはいろいろなカタチがあるのでメンバーのウェルビーイングだけを考えていられないケースもあるでしょう。でも、コミュニティ運営に迷いが生じたときの1つの拠り所として覚えておいて損はないと思います。

ぜひこれを読んでいるみなさんが関わるコミュニティの活動について、PERMAモデルの観点からチェックしてみていただけたらと思います!

ポジティブ心理学におけるMERMAモデル(再掲)



研究について詳細が気になる方や、コミューンコミュニティラボとの共同研究にご興味のある方は以下のサイトからお気軽にお問い合わせください!


この記事が参加している募集

仕事のコツ

with 日本経済新聞

最後まで読んでいただきありがとうございます!サポートも嬉しいですが、ぜひ「スキ!」をつけたりシェアしたりしてほしいです!それが次の記事を書くチカラになります。