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私が内科医を辞めてビジネスの道に入った経緯

プロフィールに記載していますが、私は製薬会社で研究職をしていたことがあり、医療研究をさらに深めるために会社を辞めて大阪大学医学部に編入しました。大阪大学は免疫の研究で有名で、私も免疫内科に入り、研究を進めていくのだと考えていたのですが、現在は内科医を辞めてビジネスの道に入ろうとしています。今回は私が再度進路を変えてビジネスという新たな道に入っていった経緯をお話しします。

1.大阪大学医学部

大阪大学は学士編入という制度を1975年に日本で最初に導入した大学であり、他の大学の卒業生(見込み含む)を対象に編入学試験で選抜し、医学部3年次に編入させるという制度です(私が編入学したときには2年次9月に、現在は2年次4月に変更されています)。

私は製薬会社の研究職というバックグラウンドがあり、医学研究をするために医師になるという強い目的意識もあったので、入試の成績はよく、在学中は講義後に先生たちとディスカッションをしたり、研究室で研究をしたり、と模範的な学生だったと思います。

当時研究科長だった金田安史先生(現在は理事、副学長)、免疫内科の熊ノ郷淳先生(現在の研究科長)、再生医療で有名な心臓血管外科の澤芳樹先生、内分泌・代謝内科の下村伊一郎先生など、高名な先生方に名前を憶えていただき、可愛がってもらえたので、充実した学生生活でした。

2.内科医としての経験と葛藤

卒後は医師として経験を積むことを重視して、救急診療(ER)で有名な病院で初期研修を過ごしました。後期研修では研究を行うことも視野に入れて、臨床研究・基礎研究も可能な医療センターで研修を積みました。

医師としての仕事は日々学びがあり、幸い臨床医にも向いていたのか、患者さんに感謝され、引き続き担当をお願いされることも多くなりました。

一方で、治療方針の決定やカルテ整理などの日常業務に加えて、当直や学会などで多忙な日々が続きました。医師の多忙さはもちろん知っていたので、これは覚悟のうえだったのですが、これに収入の低さが加わり(病院にもよりますが、一般に急性期病院や大学病院など忙しい病院ほど給料が低いという矛盾した世界です…)、収入を増やそうとしてバイトを増やすと、それがもとで夫婦仲が悪くなったりと、悪循環に陥ってしまい、徐々に精神的に蝕まれていきました…

そういった生活を続けていると、当初目標としていた研究に集中できるはずもなく、十分な成果が残せないであろうこと、研究で成功しても収入が増えるわけではなく、バイトも続けざるを得ないこと、ますます夫婦仲は悪くなるであろうことなどを考えると、到底よい未来が待っているとは思えませんでした。

3.メンタルウェルビーイングビジネスとの出会いと再度の進路変更

そんな生活に体力的にも精神的にも疲弊し、将来のことを真剣に考え直すようになりました。何をしたら生活費も確保しつつ、進路を変えるに足るようなやりがいのある仕事ができそうか、いろいろなことを調べました。

最初のきっかけは覚えていないのですが、欧米でメンタルケアを手掛けているベンチャー企業が急成長しているという情報を目にしました。精神的にまいっている時だったからか、その情報が頭から離れなかったので、少しずつ調査をしてみることにしました。

欧米を中心とした世界市場では、メンタルは病気になったから治療する、というものではなく、普段から日常的にケアすることで、病気を予防するだけでなく、その人が本来持つパフォーマンスを発揮し、人生を充実させるものである、という考え方が浸透しているようでした。

近年ではアプリなどを介してメンタルケアを受けたり、オンラインコーチングを受けられたりするプログラムが開発されており、このようなサービスを提供するベンチャー企業が数多く台頭しています。

このようなアプリで個人のメンタルが安定化するだけでなく、プログラムを導入した企業で労働満足度の向上、離職率の低下、企業業績の向上、といった実績が次々と出ており、GoogleやAmazon、Hiltonといった大企業などに導入が進み、メンタルケア企業の業績が急速に伸びているということでした。

一方で、日本ではこういったサービスを手掛ける企業は少なく、それどころか、予防的に、あるいは個人のパフォーマンス向上のためにメンタルケアやコーチングを受けるという習慣がそもそもない、という状態でした。

欧米では数々の実績のあるプログラムが日本ではほとんど認知されていない、という状況がもったいない!という気持ちと、ビジネスチャンスがありそう、という期待もあり、この分野の普及を手掛けることを決めました。

最近は「人的資本経営」や「ウェルビーイング経営」というキーワードのもとに企業での認知度は少しずつ上がってきています。メンタルウェルビーイングに興味を持ってくれる企業が増えてきてはいますが、一般の方の認知度はまだまだ低いというのが実情です。

日本はそもそも過重労働、高ストレス社会であり、自殺者数も高止まりの状況で、潜在的な需要はあるのに、精神的な問題に対する忌避感が強く、対策が進んでいないので、需要の掘り起こしがうまくいけば大きなビジネスに育てられるし、なによりやりがいのある事業だと思いました。

そこで、当時勤めていた病院の上司や教授に相談に行きました。
教授は「これからの時代、臨床医を続けることだけが正解かはわからない。自分の信じる道を進んだらいい。せっかくうちの科の一員としてがんばってきたのだから、うちの人脈を使えるところは使ったらいい。」と言ってくれました。本当に器の大きい方だと思いました。

その後、メンタルケアプログラムやオンラインコーチングなどを提供するIntellectという会社と出会い、ともに事業をさせていただくわけですが、それは別の機会に紹介させていただきます。

現在、内科医をやめて数か月の段階で執筆していますが、内科医として働いてきた経験やそれまでの人脈は現在手掛けているビジネスにもおおいに役立っており、人生無駄なことなど1つもないこと、人と人の縁というのはどこでつながってくるのかわからないな、と日々実感しています。


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