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for others|連載小説

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「他人のために生きて、何がいけないって言うの?」 思いやりをもって、いつも自分を犠牲にして生きてきた「他者チュー」の美香は、そのせいで彼に振られてしまう。 「自分を変えたい」と願… もっと読む
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短編小説「for others 私の私は誰のため」第9話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第9話

「私はね、美香ちゃん、今の夫とどうしても結婚したかった」

ゴンッ。加穂子は台の一番長い対角線の先にある6番に向けて手玉を発射した。すーーっ。図ったようにポケットに落ちる。

「出会ったのは20代後半のころ。顔も中身もすごくタイプで、なにがなんでもこの人と結婚したいと思った。でも相手は7歳年下でまだまだ遊びたいみたいで、私がどれだけ言っても、決してうんとは言ってくれなかった」

「先生、その時って

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第7話

短編小説「for others 私の私は誰のため」第7話

「じゃあ、そういうことで。今日はおつかれさま!」

「お先に失礼します」

すべての参加者を見送り、志保とも入り口で別れた加穂子は、肩や首を回しながらこちらへやってきた。慌ててイスから立ち上がる。

「お待たせしちゃってごめんね」

「いえ、おつかれさまでした。で、先生、あのー、お話というのは?」

「美香ちゃんって、ビリヤードできる?」

「は?」

「私、昔から好きでね。社員にわがまま言って置

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短編小説「for others 私の私は誰のため」第6話

「みなさん、今日は、『わがまま力で思い通りの人生を手に入れる』出版記念セミナーにようこそお越しくださいました」

モニターの前に立って挨拶する川崎加穂子の印象をひと言で言うなら、「かわいらしい人」だった。

本に載っている写真はいかにも切れ者のシャープな美人というイメージだったけど、実物は思ったよりも小柄で表情も柔和だ。童顔もあいまって年齢よりずっと若く見える。

自信を持ってゆっくりとはっきりと

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