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人生はいいものだ、きっと。|映画『復活の日』

 "Beautiful"と"Wonderful"

「ライフ・イズ・ビューティフル」と言う言葉がある。「人生は美しい」という意味だ。似た言葉に、「ライフ・イズ・ワンダフル」という言葉もある。「人生は素晴らしい」という意味だ。"Beautiful"と"Wonderful"の違いについては、ぜんぜん違う畑で似たような果実が実ったので、食べてみたらどっちも、おいしかった。だからどちらも同じようなものだ。という感覚がある。実際は、たぶん(ぜったい)、ぜんぜん違うのだけど。

 「美しい」や「素晴らしい」を枕詞につける人生って、果たしてどんな人生なんだろうか。そのヒントが描かれた映画を先日観た。新型コロナウイルスのニュースで日々、鬱々としている中で観るのは正直ヘビーすぎる。だけど、ビューティフルでワンダフルな僕らのこの人生という、飾り付けたロマンと幻想を打ち砕き、本質を問いかけてくるメッセージが詰まっていたように思う。

映画『復活の日』は邦画の名作

 映画『復活の日』(1980年公開)。監督は『仁義なき戦い(73)』や『バトルロワイヤル(00)』の深作欣二。原作は日本を代表するSF作家の小松左京。

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 ストーリーは、東ドイツ陸軍の研究施設から盗まれた細菌兵器、ウイルス「MM-88」をきっかけとした疫病によって、世界中で多くの死者が続出。各国の都市崩壊というパニックの中、追い打ちをかけるような大地震の発生によって、地下にあるミサイル自動報復システムが作動する。アメリカ、ソ連を中心とする各国の核ミサイル発射装置が作動してしまい、まさに地球滅亡の大混乱。パンデミックとパニックの大連鎖。世界同時多発のディザスタームービーである。大まかなストーリーの概要だけでお腹いっぱいだ。いくらなんでも希望がなさすぎる。

 先に言うと、映画はかなりの名作である。そして、超豪華キャスト大集合である。主人公は南極昭和基地で地震研究をしているの越冬隊員たちとウイルス感染を免れた各国のわずかな人びと。日本からは主演の草刈正雄、夏八木勲(夏木勲名義)、多岐川裕美、渡瀬恒彦、永島敏彦、千葉真一、森田健作、緒形拳など。海外からも、映画『暴力脱獄(67)』でアカデミー賞受賞のジョージ・ケネディ、『ロミオとジュリエット(68)』のオリヴィア・ハッセーをはじめ、人気・実力を兼ね備えた人気俳優たちが集結している。

 概要の紹介でピンときた方もいるだろう。そう。本作はまさに現在、世界中の人びとが直面している新型コロナウイルスの問題をまるで予見していたかのような描写なのだ。過去には、「ペスト」、「コレラ」、「黄熱病」、「天然痘」など、地球規模で人類を恐れさせた病気、伝染病はいくつも存在するが、今回のコロナ騒動の中で、人類は過去から何を学び、どうやって乗り越えるのか。我々の行動が試される描写もある。

人間の生きかたはいつの時代も変わらない

 40年前の作品だが、描かれる現象や人間模様は現代となんら変わらない。ウイルスにせよ、天変地異にせよ、戦争にせよ、人類は何度も同じ過ちを繰り返す。危機的状況の中、手をとりあう人や国がある一方で、混乱に乗じて自身や自国の利益を最優先する者もいる。愛や調和よりも己の欲望を優先してしまった結果、多くのものを傷つけ、奪ってしまう。そして、極限の状況の中でさらに、醜い争いを繰り返してしまう。何千年、何万年を経ても、人類は結局、そこでぶつかってきたのではないか。どこまで行けば「このままではいけない」と気付けるのか。気付いていてなお、それを繰り返してしまうのが人類なのか。

劇中、何度も出てきた台詞
「Life is Beautiful」

コロナで世界中がパニックになっているいま、僕らはなにができるだろう。混乱の中で様々な問題が起きている。この騒動が収束した時、無事でよかった、ではなく、僕らはこれから、どう生きるべきなのか。それを真剣に考えるタイミングなのかもしれない。僕はそのとき、それでも「人生はいいものだ」と言えるように生きたい。

 本作は角川文庫の当時の社長・角川春樹氏の指揮で展開した映画だ。いわゆる角川映画というやつだ。隊員の一人に、ちゃっかり、角川春樹氏も出演している。邦画でここまでお金をかけて、そして撮りたいものを撮り切る!とやってのけてしまった本作は映画の内容以前に、邦画の歴史上で避けては通れない要チェック作品であることは間違いないと思う。外出自粛で自宅にこもっている皆さん、ぜひご覧になってみては。鬱々した気分になる可能性は大いにあるけれど、エンターテイメントとして極上の映画であることは間違いない。昭和時代の俳優たちの”濃さ”をヒリヒリと感じられるぞ。

ひとこと)
草刈正雄さんがハンサムすぎました。

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