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パドヴァのもみじ、鴨肉のビーゴリ(旅するイタリア料理エッセイ@ヴェネト州パドヴァPadova, Veneto)

ヴェネト州パドヴァ。紀元前9世紀から町は栄え、ルネサンス期のフレスコ画の傑作、イタリア2番目に古いパドヴァ大学、ヨーロッパ最古の植物園などを有す町。そんなパドヴァにひょんなことから1泊2日でお邪魔した時のことを徒然と。

料理の前に、少し街歩きを。

まずは、町の中心にある1831年創業の歴史的カフェ「Caffé Pedrocchi」で、名物のミント・カフェで朝食。

エスプレッソの上に、ミント・シロップを入れたホイップクリーム、ココアを表面にふったコーヒー。個人的にミントは好きではないのだが、これが予想外に上品なミントで美味。

熱くて苦いエスプレッソと、ひんやり冷たくて甘いクリームの対比が絶妙。さすが、こういうのは、高貴なイタリアのなす技なのだ。

街歩きといいつつ、話がそれた。

さて、街を歩く。

重要な巡礼地である聖アントニオ聖堂には、カトリックだけでなく正教会の信者が地下に集まってお祈りをしていたり、天井を埋め尽くすフレスコ画に首が痛くなるほど見入ったり、何気ない石彫刻の傑作が並ぶ壮大な広場でたわいも無い会話をし、うたた寝をする。

ふと冷静に、なんだか本当に文化の違いを感じてしまって、もっというと人々が信じるもの、その表現の仕方の違いや、目の前の人の成り立ちの違いを感じて、そして、その違いを生み出す歴史の尺の大きさに身震いした。

しかし、その多文化の選択肢の中で、私が今ここにいられることに不思議さと充足感を覚えたのであったが、こんな感覚は伝わるだろうか

ヨーロッパ最古の植物園を歩くと、日本のもみじが立派になじみ、その向こうには、かの聖アントニオ聖堂が。そう、これで一つの風景。世の中こういうこと。

さて、お待ちかね、肝心要の料理。

旅の下調べについて、料理の下調べは私の担当領域。ローカルの友人を訪ねる場合以外は、大体、ざっとデスクリサーチをした後は、朝、街を歩きながら、まだあいていないレストランのメニューを見比べて、この地の名物と食べるべきものに当たりをつける。

パドヴァはビーゴリだな。ビーゴリビーゴリと連呼してお店を選ぶ。

まずは、ソアヴェで乾杯。ヴェネトですもの。
なぜ内陸ソアヴェで白ワインなのか。グッドクエスチョン、これはまた別の回に。パスタが来てしまったもので。

さて、パスタ。
郷土パスタ「ビーゴリ(Bigoli)」という太い生スパゲティに、鴨肉のラグーを。ついつい「クラッシコ」と言葉が出てしまうほど、クラシックな一品。

鴨のラグー・ビアンコは、ポロポロに見えて、噛み始めると奥行きに気付く。長時間煮込むことでしか出せない旨味のまとまりと柔らかさがある。噛むほどに味がするのは、寝かせる時間があるから。ヴェネトの厳しい冬、暖炉の上で作っていた料理。暖炉の火が付いたり消えたり、そうこうして煮込んでいた風景が頭に浮かび、目の前の料理にすっと線が走る。そう、これで一つの料理。世の中こういうこと。

ちなみに、アレッサンドロは、ビーゴリにアンチョビのソースを絡めた、これまたパドヴァの名物パスタを。これがまた、見た目からは想像できないほど濃厚で感動。これはレッスンでもやりたいなぁ。

セコンドは、ヴェネトの名産バカラ。
「ヴィチェンツァ風バカラ」をポレンタと。ちなみに、ヴェネトのBacalàは、塩鱈Baccalàではなく棒鱈Stoccaficoを使うのよ。
しかし、ヴィチェンツァ風バカラ、後から作り方を見て驚いた。これはすごい料理だわ。

お腹いっぱいだけどお店の人に「ドルチェどうしますか?」と聞かれて、目を合わせると、二人同時に「ティラミスを二人で分ける?」と聞き合った。やだぁ。ティラミスはヴェネト州発祥と言われているものね。

本物のティラミスはやはり美味しかった。でもアレ曰く、私の十八番「抹茶ティラミス」も負けてないらしい。やだぁ、比べるところじゃないわよ♡

最後の客になった私たちにお店の人が食後酒をご馳走してくれて、大きなショットグラスに並々アマーロが注がれた。ホテホテになって外に出ると、初冬の空気が心地よかった。

さて、夕暮れ時。

お待ちかね、アペリティーボ(食前酒)の時間。

何せ、あのオレンジのアペロールはパドヴァ発祥なのだ。今やイタリア中どこでも飲めるけれど、アペリティーボをせずには帰れないと言われたら、それはそうとうなづいた。

ヴェネト式おつまみ、チケッティを頼む。バカラ・マンテカートはお忘れなく。2時間前にランチしたばっかりでお腹いっぱいだけど、君、どれだけ食べるんじゃい。

帰りの車の中は、私はぐっすり眠り姫。
ボローニャまではポー平原をひたすらまっすぐ走るだけだから、マニュアル車でもギアチェンジは要らないのかしら。気付けば右手はギアではなくて私の膝の上の手を温めていたと思う。

あー、お腹いっぱい。パドヴァ、なかなかに良き旅でした。

まだもみじが緑だった11月頭のことを、ふと思い立って今になって筆を取ったのであります。


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