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コンプラ、ハラスメント課題 ~撮影助手いない問題を紐解く その3

こんにちは!シネマトワ管理人です。

このnote「シネマトワ」では、人材サービスや企業人事に従事してきた管理人目線で、また一人の映画・ドラマファンとして、撮影現場がさらに魅力的な職場になっていくことを期待しつつ、撮影現場や映像エンタメ業界で起こっていることをレポートしています。

前回に引き続き、
現場課題としてある、撮影助手不足を進める「5つの問題」
について、掘り下げていきます。

1.拘束時間がかなり長く過重労働の場合も
2.報酬が労働時間のわりにあわない
3.コンプライアンス問題、契約があいまいな商習慣と
  ハラスメントが解決されにくい職場の構造的問題←今回はここ!
4.次世代を育成する環境が成立しない構造的問題
5.共通課題の「予算」構造

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コンプライアンス問題、契約があいまいな商習慣

フリーランス中心の職場であるにもかかわらず、これも昔からの慣習で、契約書がない現場もいまだ一般的で、契約不履行や、支払いが遅れるといったことも珍しくないそうです。
こちらの調査結果でもそうですし、直接助手クラスの方々にヒアリングした結果も同じような感じ、温度感でした。

映画制作の未来のための検討会 報告書 別添資料1(12)取引状況(フリーランスのみ対象)「個人として仕事を受注する時の契約書・発注書の受領状況より

これまた経産省のプロジェクトの調査。映画制作の未来のための検討会 報告書 別添資料1(12)取引状況(フリーランスのみ対象)

こういった契約関連は、各業界団体でのサポートも期待されていましたが、抜本的には解決されてこなかったようです。アメリカではユニオンがあり、契約は必須、報酬や労働条件もがっちり決まっていて、働く人が安心して仕事に就ける仕組みがあり、日本でも作ってほしいというニーズはあるようですが、思い切ってどこかの団体がリーダーシップをとってやるには業界問題が複雑に絡み合っていて、そうなるとなかなか難易度が高いのです。

たとえば、がっちり契約を決めて、労働時間を取り決めた条件を定めてしまうと、これまで長時間労働を基本としてやってきた中で、期間や予算に見合った撮影ができなくなってしまいます。そこに目が行ってしまうと、本来働く条件を整備してほしいと考えている現場ですら「これでは完成しないから規制をしないでほしい」と、環境整備を反対する声もあったりするそうです。
じゃあ、ここでも「予算を増やせばいいのでは?」となりますが、日本は産業構造の面や予算立案の方法の面で予算を増やすのは、そう簡単にはいかないのです。ここでも予算の問題が出てきましたが、もう少し現状全般を見ていきます。

ハラスメントが解決されにくい職場の構造的問題

パワハラ・セクハラ・モラハラもあるようですね。対象期間や前提条件が同じでないアンケート比較なので、一概に言えませんが、従業員として企業に雇用されている場合と、フリーランスとでは、ハラスメントの問題は差があるようです。
たとえば、パワハラを見てみるとこんな感じで。
フリーランス「パワーハラスメントを受けたことがある」=「61.6%」
会社に勤めている人が過去1年間ハラスメントを感じたか?(31.9%)、うちパワハラが64%なので、「20.4%」
参考:

2019年9月10日 日本俳優連合 MICフリーランス連絡会 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会による「フリーランス・芸能関係者へのハラスメント実態アンケート」

2022年03月28日JOB総研「働き方編」 2022年ハラスメント実態調査」

フリーランス×映像制作現場では、その他の現場と比べて「発生しても解決されにくい」、という問題はあるでしょう。
会社組織のように苦情窓口が設けられていたり、就業規則で懲罰を設けられたりしているわけではないので、そういう「問題のある行為」が露呈しにくく、問題を起こした人に改善を促すことができない構造になっています。
また、ある助手さんの話では、「問題のある人の制作にアサインされたくないから、ブラックリストが欲しい・・・」とのこと。確かに制作に「問題のある人」がいたとしても、初めての座組だと事前に認知できないかもしれません。
それに撮影現場は初めて一緒に仕事するスタッフも混じりつつ、制作期間が決まっていて解散予定の「にわか組織」です。ずっと同じ座組ではないので、たとえ「問題のある人」と一緒に仕事しても「この現場が終わるまでの辛抱・・・」と我慢することもあるでしょう。アンケートにもそんな声があがっていました。
もし、まだこの業界に入ったばかりの若手が被害にあってしまったら、それがこの業界のすべてだと思ってしまい、やっていけないと泣く泣く去ってしまうことになるかもしれません。

これらの労働問題の解決については、経済産業省コンテンツ産業課が発起したプロジェクト「映像制作現場の適正化」から、本件の解決に向けて、「映画制作現場の適正化に向けた作品認定制度実証事業」「日本映像スタッフセンター」が取り組みを開始されるようですので活動に期待したいところです。
前者の「映像制作現場の適正化に向けた作品認定制度実証事業」は昨年(2022年)には3本の制作でテストランが実施されたそうです。こちらは、労働環境やコンプラにおける映倫のようなもので、一定基準を満たさないと上映できないなどの規制がされるそうです。
後者の「日本映像スタッフセンター」は2022年に法人設立、今年2023年にはリリース予定とのこと。「① スタッフの生活と権利を守ること、②スタッフの地位の向上、③スタッフの育成」を目的として声を上げる受け皿としての機能を持つことになるようです。最新の公開されている報告書では現実的に運営をどうやっていくかの課題感がまだあるようでしたが、理事長の浜田毅さんが2023年1月にはリリースされると2022年10月のシンポジウムでおっしゃっていたので、進めてはおられるようです。

ところで、ちょっと話がそれますが、この映像制作現場の適正化やスタッフセンターの施策は労務的な問題への対応なのに、なぜ厚労省ではなく、経済産業省が取り扱うのか?についてですが、こちら、労働問題ではなく、外国資本も視野に入れ、海外向けにも展開できる日本のコンテンツをどう作っていくかの日本の経済的課題感から立ち上がったようです(ある筋によりますと)。
欧米の上場企業において、株主にとって投資先企業をコンプラはもちろんのこと、労働環境の良し悪しに基づいて会社を評価するのはごくごく一般的と言われていますから、日本の株主よりも労務に対してかなり厳しい基準であることは想像できます。制作会社・配信会社(たとえばN社とか、D社とか、A社とか)といった、海外のビッグな資本をもって日本の撮影現場で日本発の映像コンテンツを作っていくとなると、現場の法令順守やハラスメント対策は外せない問題となってくるでしょう

コンプラ問題、ハラスメント問題の直接的対処だけでは終わらない

コンプラ問題、ハラスメント問題は、丁寧に解決されるべきだと思いますし、撮影現場だけではなく、どこの職場でもありうる話です。
ただ、その前提で一つ言えることは、「余裕がない職場においては問題発生のリスクが高まる」ということです。全部が全部ではないでしょうが、過重労働や短納期によって、現場のイライラが増し、お互いにギスギスしてしまうなどの問題もあるのではとも思います。
また製作のトップ→製作スタッフ→撮影の現場のトップ→撮影の現場スタッフといった、圧力の連鎖によって、思わぬところで問題が発生することもあるでしょう。
問題が発生したら対処する、ということも丁寧にやっていくべきだと思いますが、同時に過重労働を軽減するための適正な期間設定・予算確保をどう行っていくのかも検討が必要な課題ではないでしょうか。
そもそもが、権限がある人・ない人、仕事を発注する人、される人も一つのプロジェクトの中で敵対することではなく、「いい作品を作りたい」、そこは共通目的のはずですから(つづく)。