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イタリアの代表的小説家、作家のアルベルト・モラヴィア原作の『軽蔑』。
この『軽蔑』を映画化したのが、フランスヌーヴェルヴァーグの巨匠、ジャン=リュック・ゴダール監督です。
映画『軽蔑』は数あるゴダール作品の中で最も好きな一本かもしれません。
ストーリー展開、構成、ブリジット・バルドーの魅力的な肢体、全体に感じる色使いの妙、まさにラウル・クタールの撮影技法の冴えに鷲掴みにされます。
音楽はトリュフォーやベルトリッチ作品でもお馴染みのジョルジュ・ドルリューと無駄を感じない、ゴダールには珍しい100分越えの102 分の傑作です。

この映画『軽蔑』原作のモラヴィアの小説を最近読了しました。
購入したのは今から32年前。学生寮のあった川崎市の溝の口の古本屋で購入してから、長らく積ん読状態にありました。
シネマポストの作品の上映時間時にスタッフはロビーに待機しているのですが、私もその役割を担っている折、腰を据えないと読めない書籍を選んで、折角の時間を有効活用しています。
そこで久しぶりに手にした『軽蔑』を読み込みました。
シネマポストではオープニング記念上映第3作品目に『反逆の映画作家 ジャン=リュック・ゴダール』を公開したこともあり、ゴダールについての考察は自分の中でトレンドだった点も読書訴求に繋がりました。

原作の映画化は昨今、そのプロセスを巡り様々な問題が生じています。
一番は作品解釈の許容範囲についての原作側と映画制作側との食い違いからトラブルに発展するケースがあります。
特に長編モノに起こりやすい、ストーリーパートのブラッシュアップとキャラクターの扱い方の差異、そして映画用に作られた新キャラクターの具合と、つまりどのように整理するかに注力するあまり原作の良さが減退するケースもあり得ます。
私はその点から原作モノを選ぶにあたり、短編から中編のボリュームの原作を探して、作品リスペクトを前提に映画で膨らましていける可能性のある題材に目を付けていました。
ですので映画化をすることで原作をより光らせられる事を目指し、原作側にも事前にご理解いただきます。
プロデューサーを務めた、菊地秀行先生の短編『雨の町』の映画化は原作にない設定を盛り込みつつ、出色のヒューマン・ホラー作品に落し込めたと思います。

そこで話しを戻して『軽蔑』ですが、ゴダールの映画化解釈はかなり原作に忠実であった驚きがありました。
映画化では登場人物の名前をフランスタイプに変えているのと、原作ではそれなりの比重を締めるドイツ人映画監督を、置き物程度に留めます。ちなみに巨匠のフリッツ・ラングがその役に配されています。
原作小説からの取捨選択とブラッシュアップ具合が絶妙であり、構成力の巧さが一際光るゴダールの映画制作技術を感じずにはおれない、それでいて原作へのリスペクトも欠かしていない…原作小説を映画化する上でのお手本のように思いました。

兎角、アヴァンギャルド側面が真骨頂のように思われるゴダールについて、実際は情報処理能力の高さ、選択できる審美眼とその卓越した才能を、まさに原作『軽蔑』から改めて確信的理解が深まったと言えます。

そして32年前に何気に購入した本が、現在の感覚にちょうど適合できたのだと時間の経過をふと感じるのです。

【漁港口の映画館 シネマポスト 次回上映作品のご紹介】

奥田裕介監督作品『誰かの花』
上映期間:2月3日から2月9日まで

上映初日の3回目と4回目の上映終了後、2日目1回目の上映終了後に奥田監督をお招きしての舞台挨拶がございます。
作品に込められた意図、映画への思い等、シネマポストで忌憚なくお話しいただきます。
どうぞお楽しみに!

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