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絵本と音楽と映画のプレイリスト 03:文字

音楽/

□□□(クチロロ) - あたらしいたましい feat. 金田朋子

Vaundy - 置き手紙
フォントメーカーのモリサワとのコラボによるMV


SUPER BUTTER DOG - 五十音

https://www.youtube.com/watch?v=n08R6bMuxOo

ピコ太郎 - 二文字目ミステイク
https://www.youtube.com/watch?v=DpFBY7Zf1Hk


デザイナーとして、仕事道具でもあるフォントという形を通して、日頃からたくさんの文字に触れている。そんな中、絵本や児童書のデザインに携わる身として前から疑問に思っていたのは、「子どもたちは、文字におけるフォント/書体の違いを認識しているのか?」ということだった。とくに根拠はないけど、自分の少年時代や子育てなどの経験に照らして考えると、答えは「NO」ではないかと思っている。

乳幼児から小学生くらいまでは、文字そのものが読めるようになることが最も大事で、文字の形の違いを(ゴシック体や明朝体のような)具体的な種別として認識できるのは、中学生などもう少し先の段階になるのではないか。このため、たとえばフォント/書体を題材にした絵本というものは、おそらく成り立つことが難しい。フォントは大人の嗜みなのだと、ぼくは思っている。デザインに関わった『よめる よめる もじの えほん』が刊行された時、「フォントの絵本」と一部で捉えられたこともあったが、あの本は未就学児が文字と初めて触れ合うごく短い瞬間に光を当てた絵本であり、フォントの使用をとくに強調する意図はなかった。

ただ、だからといって、子どもたちにとって読みやすく親しみのある、教科書体や平易な形の丸ゴシック体だけ使えばいいわけでもないのが、絵本にまつわるデザインの面白いところ。ぼくのデザインの場合は、これから作る絵本のラフを読み込んで、どのフォントが適しているか、その都度ゼロから考え抜く。対象年齢に応じて平易な書体を使うこともあるし、逆に少し大人っぽい書体やファンシーな書体をあえて使用する場合もある。

文字を読むというそれだけの目的のために、世の中にはこんなにたくさんの書体があるということを、絵本を卒業して大人になってからでもいいから、いつか気づいてもらえたら、とは思う。

今回は「文字」にちなんだ、愛のあるユニークで豊かな絵本を集めてみた。ひらがな、漢字、アルファベット、ハングル、アラビア文字、手話……いろんな文字がある。文字は古今東西におけるコミュニケーションの道具である。今回紹介する絵本もきっと、子どもたちの前に無限に広がるコミュニケーションの扉になってくれるだろう。


絵本/


もじかけえほん かな?

大日本タイポ組合/作
偕成社 (2020) 4歳から

もじかけえほん かな さく:大日本タイポ組合

結成以来、文字で遊ぶユニークな活動を続けてきた大日本タイポ組合による絵本。ページの上半分をめくると、いも→ほしなど、ひらがな2文字が別の言葉に変身する、もじによるしかけえほん=もじかけえほん。「かな」の文字を模したキャラクターや、文字とともに変身する絵もかわいい。

──もじかけえほん かな?|偕成社


あいうえおえほん

とだこうしろう、ひろし/企画・構成・絵
戸田デザイン研究所 (1982) 3歳くらいから

あいうえおえほん とだこうしろう

右ページには50音のひらがなとその書き順。左ページにはその音で始まる物を表す、原色で塗り分けられたシンプルな絵。文字はフォントや写植ではなく、ひと文字ずつ手作業で書かれている。絵もよく見ると、アプリケーションなどなかった40年前の不揃いな線がそのまま使われている。時代を超えて文字の美しさを伝え続ける絵本。2019年にグッドデザイン賞を受賞。

──あいうえおえほん|戸田デザイン研究所


よめる よめる もじの えほん

こくぼみゆき/作 しもだいらあきのり/絵 下山ワタル/デザイン
あかね書房 (2015) 就学前から

よめる よめる もじの えほん こくぼみゆき・さく しもだいらあきのり・え 下山ワタル・デザイン

鏡文字や読み間違い、濁音やのばす音、!や?など、未就学の子たちが初めて触れる文字との体験をテーマにした、とてもユニークな絵本。最初はひらがなとの出会いから始まり、カタカナ、そして漢字。覚える文字が増えていくにつれて、子どもたちの世界が豊かに広がっていく。

一生の中でもごく短い、子どもと文字との出会いの瞬間は、親御さんや先生などにとっても、のちのち忘れられない思い出となるはず。大人もぜひ一緒に読んでほしい一冊。

──よめる よめる もじの えほん|あかね書房

──よめる よめる もじの えほん|Works|パラグラフ

──『ぼくは ぼく』トークイベント[2]絵本とデザイン


あいうえほん

中川ひろたか/作・絵
ソングブックカフェ (2015) 5〜6歳から

「あ」ざらしと「ア」イロン、「お」にと「オ」ムライス、など同じ文字で始まる2つの言葉からなる絵が、50音順に1ページずつ並んでいる。次々と現れる意外な言葉の組み合わせと、絵本作家の中川ひろたかさんが自ら描く絵が楽しい。

──あいうえほん|ソングブックカフェ

──あいうえほん|Works|パラグラフ


漢字はうたう

杉本深由起/詩 吉田尚令/絵
あかね書房 (2018) 小学校低学年から

《トトトと こころが かけてゆく/タタタと からだが おいかける》「外」、《波は/うみの おなかの皮だよ》「波」──。漢字の成り立ちを詩で表したユニークな「漢字のうた」と、吉田尚令さんの素朴で親しみやすい絵。耳をすますと、いろんな漢字のうたが聞こえてくる。とっつきにくい漢字も、この絵本で好きになれそう。

──漢字はうたう|あかね書房


ゆびもじえほん

一般社団法人全国手話通訳問題研究会/作 見杉宗則/絵
クリエイツかもがわ (2018)

ゆびもじえほん 一般社団法人全国手話通訳問題研究会/作 見杉宗則/絵

最近、ドラマや映画の影響により、聴覚障害者とそのコミュニケーション手段である手話に注目が集まっている。この本は、手話と並んで聾者とのコミュニケーションに使われる、50音の一音ずつに対応した「指文字」を楽しく覚えるために工夫された絵本。聞こえる人も聞こえない人もみんなが覚えることで、つながりが生まれ、世界が広がっていく。

──ゆびもじえほん|クリエイツかもがわ


田島征三/作・絵
佼成出版社 (2022) 3歳から

田島征三 た

米の栽培から収穫までが、躍動感あふれるタッチで描かれている。厳密には文字がテーマの絵本ではないが、「たがやす」「たねまく」など、「た」で始まる農耕にまつわる言葉が、強烈な印象の明朝体となって豪快な絵とともに躍る、優れたデザインが目を引く。

──た|佼成出版社


他にも……
(今回、手にとって読んだ絵本+α)
ことばのえほん2 かっきくけっこ
谷川俊太郎/作 堀内誠一/絵 くもん出版
ひともじえほん
こんどうりょうへい/作 かきのきはらまさひろ/構成
やまもとなおあき/写真 福音館書店
ABCの本 へそまがりの アルファベット
安野光雅/作・絵 福音館書店
字はうつくしい わたしの好きな手書き文字
井原奈津子/文・構成 福音館書店 (2023)


映画/

メッセージ
ドゥニ・ヴィルヌーヴ/監督 (2017、アメリカ)


世界各地に突然飛来した全長450メートルの巨大な飛行物体。そのひとつに乗り込んだ言語学者ルイーズが見たものは、異性物「ヘプタポッド」が飛行物体内の透明な壁越しに描く、謎の「円」だった。彼らとの接触を重ねるうち、その円はある法則によって書かれた、彼らにとっての言語=表意文字だということが次第にわかってくる。そこには、彼らが時空を越えて地球人に託そうとした、ある「メッセージ」が含まれていた。

設定こそSFだが、未開の地に住む異文化を持った民族、泣くことしかできない赤ちゃん、あるいは同じ言語圏にいるはずなのに言葉の通じない他者……いろんな状況に置き換えることが可能だと思う(映画全体はもっと複雑な要素を含んでいる)。

娘が乳幼児の頃、かんしゃくが人一倍強く、道端でも電車の中でも園の送り迎えでも所構わず泣き叫ぶ子だった。そのかんしゃくにずっと付き合ううちに、この子は実は魂は大人で、突然赤ちゃんの身体に閉じ込められてしまったことに不自由を感じて、毎日泣き叫んでいるのではないかと考えるようになった。

そのうち、娘の泣き声に特定の言語パターンが存在することが解析によって判明し…………なんてことはなかったが、少し長いイヤイヤ期を通過して、ケロッと大人な性格に変わってしまった娘を見ていると、上のような仮説もあながち間違いではなかったのでは、と思う。

文字や言語の向こう側とこちら側には、生身の人による思い=メッセージがある。異なるものとの対話を必死に試みようとする言語学者ルイーズの執念に、終始圧倒させられる。

You have choose life.

──映画『メッセージ』制作陣はいかにして「エイリアンの文字」をデザインしたか?|WIRED

──映画『メッセージ』公式


➡ 絵本と音楽と映画のプレイリスト について

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