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カップ&ソーサーのお話

  買い物帰りの休憩に。待ち合わせ時間までの時間つぶしに。食後の後に。
昔からなにかと、街に出た際に喫茶店に行くのが好きでした。

 コーヒーの味だけなら最近のコーヒースタンドなんかのほうがよっぽど美味しいが、コーヒースタンドや今風なカフェにはない、煙草のヤニで黄ばんだ壁紙、強めの空調に気だるい感じのジャズやブルースが流れる古びた店内に、周りのお客さんの雑話が飛び交うあの空間で、特に何も考えず煙草を吸いながらコーヒーを口にする時間が、自分にとっては心身を調整する時間であったような気がします。

 また、バックカウンターに整然と陳列されたカップ&ソーサ―の絵柄を眺めるのもひとつの楽しみでした。無機質なマグカップではなく、ノリタケやナルミ、マイセンやリチャード・ジノリなど、見事に色合いが調和した洋風画付け陶磁器の数々に飽きずに見惚れる感覚は、喫茶店にしかなく、喫茶店にこそよく似合います。

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 そんな自分もお店をオープンしてコーヒーを提供することになったときに、ソーサー付きのカップをそろえることに違和感はなかった。どこのブランドを購入しようかと検討していた時、目に入ってきたのがノリタケでした。

 ノリタケは、1904年に創立ですが、前身の「森付組」を創業者である森村市左衛門さんが1876年に初めているので、明治以後から現代に至るまで数々の困難を潜り抜けてきた立派な日本の企業です。

 森村市左衛門さんが社員への訓戒として「誓って、至誠事に当り、もって素志を貫徹し、永遠に国利民福を図ることを期す。」として掲げたそうだ。つまり、ノリタケの一貫したこだわりが、

”いつも誠実であり続けること。”

 これには膝を打ちました。誠実であること。美しさや継承された技術へ誠実であるノリタケのように、カウンター商売をする僕たちもそうあるべきです。喫茶店やバーの文化に。コーヒーやカクテルをより美味しくするために磨かれてきた技術に。嗜みを陰で支えるツールに。何よりもご来店くださるお客様に、誠実であり続けること。お店作りのパズルのピースが重なり合った瞬間でした。

 以上の理由で、長年続いてきた愛すべき喫茶店文化へのリスペクトを込め、コーヒーを飲む時間に彩りを与えるカップ&ソーサー。それはノリタケでなければならなかたのです。

 一日でもはやく、お客様がゆっくりとコーヒーを飲んでくつろいで頂ける日がくることを願います。

 

 



 

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