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表現の世界は、とくべつな世界?



土曜日の午前11時。Instagramのメールボックスを開けば、進学にまつわるお悩み相談が送られてきていた。

その送り主は、私の本を読んだこともきっかけで、表現の世界に進みたい……と思い始めたという、東海地方に住む大学3年生。このままいけばそろそろ就職活動をする時期だけれども、資本主義的な世界への違和感が拭えなくなり、進路に悩み始めてしまった、とのことらしい。やや責任を感じながらも、私も昔の記憶を引っ張り出しつつ、ざらりとした違和感を感じた。

どうも引っかかるのだ。なかでも、彼女のメールに書かれていた「これまで進学校に通っていたから、芸術系の進路を選んだ友達が周りにいなくて」という部分。


進学校から芸術系に行けないのではない。学部であれば技術を磨けば、大学院であれば専門性を磨けば、迎え入れてくれるところはあるだろう。けれども、そういう話じゃない。

「せっかく勉強できるんだから、ちゃんといい大学に行きなさい」という親や教師からの期待や、大学進学しかあり得ないという周囲の空気。もっと言えば、「芸術系大学は偏差値が低いから、せっかく勉強した人間が行くのはもったいない」……みたいな認識すらあるんじゃないか。


──


そしてそれは残念ながら、一部事実でもある。もう14年も前のことだから今の状況はわからないけれど、私は芸術大学に通っていた頃、

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