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ブランドの力~アトリエ・ドゥ・ジャンボンメゾンが生まれるまで~


「なぜ添加物が必要か」


 ジャンボン・メゾン入社前、私は仙台にある宅配専門の生活協同組合「あいコープみやぎ」で4年間理事をしていたことがある。担当は、石けんを切り口に環境問題を考える委員会の理事だった。あいコープみやぎは、添加物や農薬問題に厳しく、被害者にも加害者にもならず、生産者と一緒に安心で安全な食品を作ることに関しては、日本でもトップクラスで取り組んでいる生協である。
 そんな厳しい目を持った環境で、添加物のことを学んだ。そして家業であるハム屋に入社して、一番初めに違和感を抱いたのが「添加物」問題だった。
 ジャンボン・メゾンの商品には、添加物が入っている。品質を安定させ、流通に耐えられる正味の最低日数を保つため、細菌の増殖を抑えるためというのが理由に挙げられる。
 入社したての頃、「なぜ添加物をいれなくてはならないのか」という疑問は最初から持っていた。しかしその質問を会社全体に投げられるほど、私は作り方に関しては無知だったから、まずその疑問は伏せておいて、自分なりの答えを出るくらい修行に勤しむことにした。

製造中の様子


「本当に無添加を求めているのか?」


 実は、かつてジャンボン・メゾンは「無添加シリーズ」を作っていた時代がある。岩出山家庭ハムブランドのカテゴリーの中に、お客様からのご要望で無添加を作ったところまでは良かったのだが、全く売れなかった。なぜなら、通常のベーコンやハムの味に親しみを感じているから、わざわざ無添加を買わなくても良いという、簡単な理由のようだった。少数派の意見を拾い、苦労して形にしたのに、提案した方すら買ってはくれなかったと、当時の出来事を父は振り返ってそう言っていた。それは不思議な出来事だな、とその時は思った。
 私は勉強のため、催事に立つことがあって、その時も「なぜ添加物を入れるのか?」「亜硝酸が入っている」「女性だけで作っているというが、添加物が入っているとそれも説得力がなくなる」「体に悪いものをなぜつくるのか」と言われることは多々あった。最初の頃は「品質を安定させ、流通に耐えられる正味の最低日数を保つため、細菌の増殖を抑えるためです」と一生懸命説明していたけど、そういう人に限って、聞く耳を持たなかった。では、その方に「無添加ありますよ」と商品を出してもおそらく買わないと思う。値段が高い、わざわざ肉の加工品を買わなくてもいい。と言われるのがおちだ。要は、言いたいことを言いたいだけに見えてくるのが否めなくなってくる。
 つまり、本当に「無添加」を求める人は、探してまでもそれを手にしたいと思っている人で、催事やスーパーに買いに来るお客さんではない。市場が全く違うのだ。そして、無添加商品こそ、必要な人に確実に届く仕組みを作らなければと、感じ始めていた。

以前催事で無添加ベーコンを売ったことを思い出す


二代目、『岩出山家庭ハム』の味を変えるな」というファンの怒り


 工場に入り、修行すること2年。色々なことが見えてきた。実際作ってみるとジャンボン・メゾン独特の作り方のセオリーがあることに気がついた。なぜなら、父と母は独学でハムを作っていたから。私は修行と同時に本で勉強したり、作り方を知っている獣医さんや、専門的な機械を扱っている業者の方に質問をしたりしていた。そうすることでジャンボン・メゾンを客観的に見ることができた。そしてジャンボン・メゾンの商品が、他の人の作るハムやソーセージ、ベーコンと比べて何がどう違うのかがはっきりとわかったのだ。それはきっと、ヘレン・ケラーが、言葉という概念を知った瞬間と同じくらいの衝撃だった。
 これが「守るべき味」の全ての答えだ。
 同時並行で「無添加」をどう表現するかを考えていた。そして「新作」も作りたい。私の好奇心はどんどん増していった。私が母の持ち場のカッター(ソーセージを挽く人)を引き継いで間もなくの頃、お客様から「味が変わった」という意見が届いた。
 クレームではなかった。しかしソーセージは、カッターによって味が変わる。絶妙にだけど、変わる。その時に仕入れた肉の状態にもよるし、気温が高いとリスクは大きくなるのも要因の一つだけど、味を守っていく不安に、プレッシャーを感じるようになった。
 その不安は的中。無添加や新製品を作っていることが、情報として流れ始めると、一部のトップファンからこんなことを言われた。
「二代目、岩出山家庭ハムをいじるな。味を変えるな」
 その時、思った。岩出山家庭ハムブランドで、私がやりたいことはできない。これは父のブラントであり、これからも守っていくべき、味の基本だ。守り通さなければいけない。
ではどうしたら良いのか?

果たしてこの先も1本道なのだろうか


「アトリエ・ドゥ・ジャンボンメゾン誕生」


 この話を、社外パートナーのブルーファームに話したところ、代表の早坂正年君にブランドを増やす提案をされた。その時すでに「和ハム®」も立ち上げの準備をしていたから、もう一つのブランドも並行してブランディングに取り掛かった。
 それが私の一番やりたかった「アトリエ・ドゥ・ジャンボンメゾン」というブランドだ。自分がやりたいことを、積み重ねていくためのブランド誕生だった。そこで生まれていった作品が、「季節のミートローフ ラ・ビジュウ」「無添加ワインベーコン」「無添加玉葱フランク」「オーダーカットハム」「モルタデッラ」そして会社設立30周年記念で作った「無添加セリのサルシッチャ」と「無添加牡蠣のサルシッチャ」だ。セリと牡蠣は、これからのジャンボン・メゾンの方向性を象徴する作品として発表した。記念ギフトは限定100セット。二日で完売した。
 もう誰も「味を変えるな」という人はいなくなった。なぜなら、父の味は岩出山家庭ハムでしっかり守っているから。それをベースに、私はアトリエブランドで新作を作り続けている。
「なぜ、添加物が必要か」は、これからも必要な情報として「岩出山家庭ハム」ブランドとして語っていくし、無添加が欲しい人には「アトリエ・ドゥ・ジャンボンメゾン」ブランドで買えるように、徐々に環境を整えていきたいと思っている。


「アトリエ…」は某アニメ映画のイメージを持った世界観だ

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