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いい加減と適当は奥深い

ヘッダー画像の「イラスト」の検索結果に素敵な親子が出てきたので、以下、お母さんと女の子のやり取りでぼくの疑問を代弁してもらいます。



ママ、学校の宿題が難しくてわからないの。お夕飯のお手伝いするから、その妥当な対価として手伝ってくれない?

ー 普通に「手伝って」と言いなさい。

国語の宿題なんだけど、「適当なものを選びなさい」って書いてあるの。これどういう意味?

ー あなたはどういう意味だと思う?

上司かよ。ええとね、適当って悪い意味でよく聞くから、「ふざけてるもの」を選びなさいってこと?

ー ふざけた質問ね。

いいから教えてよ。

ー あのね、それは答えとして「相応しいもの」を選びなさいって書いてあるの。「適当」には「いい加減な、その場合わせの」という意味と、「相応しい、適切な」という意味があるのよ。

「結構です」が good とno thank you の両方の意味を持つのと似てるね。

ー 小学生にしては高度な返しで震える。

てことは、わたしがふざけて今「適当な返し」をしてたら、それは「いい加減な返し」とも言い換えられるってこと?

ー そうよ。

でもさあ、「いい加減」って言葉も変だと思うの。だって「良い加減」なんでしょ?お風呂の湯加減が appropriate level適切なレベルのときにも使える表現なのだとしたら、「いい加減」は「適当」だけど「適切」でもあるんじゃない?

ー ちょっと混乱してきたから待ってくれる?

「適当」と「いい加減」は、どちらも「良い具合、適切」と「でたらめ、ふざけた」の相反する意味を持つんじゃないかってことよ。

ー Chat GPT並みの要約力ね。でも、確かに不思議ね。全然出自の違いそうな言葉なのに、どちらも異なる二つの意味を持っているなんて。

この問題集みたいに「適当なものを選べ」とは言えるけど、「いい加減なものを選べ」とは言えないよね。それだとむしろ、間違ったものを選べみたいに聞こえちゃう。

ー 「いい加減」も使えるところはあると思うの。たとえば、「お肉をいい加減に焼く」とか。焦がしそうな焼き方とも受け取れるけど、頃合いのミディアムレアに仕上げるニュアンスも感じない?

「適当」の方が両利きなのかな。「適当な人を連れてきて」って言われたら、前後の文脈がないと判断できないもの。その用事にベストな人に声を掛けてくれたらいいけど、高田純二を連れてくるかもしれない。

ー それもそうね。

あ、でも「いい加減にしろ!」って怒るときは一つの意味しかないね。ステーキ屋さんでお肉を焼いてもらってるときにそう怒鳴るのは、ミディアムレアにしてほしいときじゃなくて、きっともう焦がしすぎてるか、嫌な接客を何度もされたときとかだよ。

ー 「いい加減にしろ」って、実は難しい表現なんじゃないかしら。嫌なことをうんざりするほどされたときに使うけど、言葉どおりに捉えれば命令内容は「良い具合にしなさい」なんだから。

「度を超えてる行き過ぎたものを、あるべき適切な位置に戻しなさい」って意味だとしたら、言葉の形式も実質もイコールと言っていいんじゃないかな。

ー なるほど。「いい加減にしろ」は相手に節度の修正を求めるメッセージということね。

そう。そしてママ、わたし、気づいちゃった。

ー まだ発見が続くの。ママ、そろそろお夕飯の準備しなくちゃ。

「適当にしろ」というか「適当にやってくれ」は、言い方によってはさっきの異なる2つの意味があるなと思ったんだけど、「よしなにやっといて」って意味では同じだよね。「その場合わせの良いやり方をしてくれ」なのだとしたら、異なる2つの意味をうまく一つにまとめられている気がする。違うように見える2つの意味は、もしかしたら根っこでは同じなんじゃないかな。

ー お夕飯何がいい?

適当でいいよ。


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