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建築アイディアコンペのマーケティング

就活を見据えたり自身の力試しのため、学生時代に建築のアイディアコンペに参加していました。コンペは提出するのもコストがかかるので、できるだけ高い勝率で勝つことで、きちんと収益を上げたいと考え、コンペを分析していました。実際に5つ提出し4つ何らか受賞することができましたので受賞率80%でした(最優秀は1つだけで他は優秀賞や佳作)。

※また念の為補足ですが、このブログの著者名はペンネームですので検索してもヒットしません。あしからず。

今回の投稿では、僕がどのようにコンペを分析して受賞率を高めていたのかの方法を説明します。お役に立てるかはいささか不安ではありますが、こんな考え方の人もいるのかと、少しでも皆様の知見が広がれば光栄です。

基本的な考え方は、
①自分の強み・好きなことを把握
②コンペや審査員の傾向を分析
③競合の中で自分が差別化できる提案を練る
…という流れとなり、自社 / 顧客(審査員や主催企業)/ 競合を分析しているためコンペの「マーケティング」と捉えてました(いわゆる3Cのフレームワーク)。


01 分析のための3つの切り口と2つの評価軸

3Cのフレームワークで分析する際に、どのような切り口や評価軸で分析するかが重要となるのですが、今回のブログでは自分が活用していた切り口と評価軸についてご紹介します。

僕は建築アイディアコンペを、3つの切り口(社会・空間・表現)に対して2つの評価軸(新規性・洗練性)で分析をしていました。分析に用いたフレームが以下の表です。ここから、各々の切り口と評価軸について説明していきます。

3つの切り口と2つの評価軸_frame
建築コンペの分析フレーム

- 3つの切り口:社会・空間・表現

以下の3つの切り口で、自分の提案内容 / 顧客となる審査員の審査項目 / 競争相手の想定される打ち手、についてそれぞれ分析していきます。

①社会:社会的に、何を問題と設定し、どのような解決策を提案するかというソフト面。

②空間:①で設定した問題に対して、どのような空間デザインを提案しているかというハード面。

③表現:上記①②の内容を、どのようなイラストや言葉等で表現しているかという表現面。

- 2つの評価軸:新規性と洗練性

上記3つの切り口の評価を、2つの方向性で分析を行いました。

①新規性:どれだけ特異性や新規性があり、他者と異なっているかを価値とする方向性。新しさに価値を見出す軸。

②洗練性:何らかの守るべき形式やルールに対して、網羅性あるいは完成度が高く押さえられていることを是とする方向性。例えば、デザインとしてのプロポーションの洗練性や、事業や構造の実現性の高さなど。

以上の切り口と評価軸に対して、自分が想定していた審査員による評価項目を記載したものが以下の表です。

3つの切り口と2つの評価軸_Rai

ここから、それぞれの切り口毎に補足説明をしていきます。

- 切り口 01 _ 社会:問題設定と解決策(ソフト)

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コンペ提案の前提として、どのような社会の問題を解決しようとしているのかという問題設定と、それをソフト的にどのようなアプローチで解こうと思うのかの解決策に関する切り口です。この切り口において、2つの評価軸はどのようなことを意味するのかを補足していきます。

新奇性(ユニークさ):設定している問題や解決のアプローチが、他の競合(提出者)と比べてユニークで際立っているかどうかを分析します。なお、ユニークかどうかを分析するためには、ある程度、他の競争相手はどのような案を出してくるかの「読み」が必要となり、そのためには過去のコンペ案のインプットが求められます。(体感的な目安として、過去5年分の受賞作品を把握しておけばある程度の予測はできると感じています。)

洗練性(実現性):社会的な問題設定や解決策の洗練性とは、どのようなことを指すのかを解説します。まず、問題設定の洗練性では、取り上げた問題が、より根本的な問題と言えるほど掘り下げられているかどうかを評価します。表面的な問題に留まっていないかどうかの評価軸です。次に、解決策の洗練性としては、主に事業性やマーケティング等のソフト面の実現可能性を評価します。あまりにも現実を乖離した事業計画を想定していないか、建築業界以外のユーザーもきちんと共感しうるような提案となっているかといった観点です。

- 切り口 02 _ 空間:空間の形・素材(ハード)

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社会的な問題に対して、どのような空間で問題を解こうとしているのか。空間自体の立体的な形やファサードデザイン、平面・断面的な構成や、空間の素材のアイディアやデザインといったハード面での切り口です。当然ながら、建築コンペにおけるメインの評価項目です。ここでも、2つの評価軸はどのようなことを意味するのかを補足していきます。

新奇性(ユニークさ):提案している立体的な形・ファサード・平面構成が、他の競合と比べてユニークさで際立っているかどうかが評価軸。この点でも、他の競争相手の打ち手を予測できるレベルで、コンペの過去案のインプットが求められます。

洗練性(実現性):プロポーション等、表現としての空間デザインの洗練性が高いかや、使い勝手や構法・構造等のハードとしての実現性が高いかで評価します。実現性のその他の項目としては、法規・コスト・調達や、人のためのスケールが押さえられているかどうかといったものもあります。

- 切り口 03 _ 表現:グラフィックデザインやコピー

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提案するアイディアをどのように表現しているかを見ていく切り口です。コンペにおいて、アイキャッチとなるイラストやCGである「一枚絵」は非常に重要です。他にも、レイアウトデザイン、タイトルやサブタイトルのコピーも併せて重要となります。なお、僕の肌感覚ですが、表現の切り口は、コンペにおける「アシ切り項目」となっていると見ています。どんなに良いアイディアでも、審査の深堀りに足るレベルの表現ができていなければ、中身までは見てもらえません。これは提案者が多いコンペほど顕著であると推測しています。(なにせ、多忙な審査員の皆様が数百個の案を一つ一つ読み込んで審査することは現実的ではありません。)

新奇性(ユニークさ):表現のユニークさや独自性での評価。これも他者の提案がどのような表現が多いのかを把握しておく必要があり、絵としての洗練さでなく、新しさを評価する軸です。

洗練性(実現性):独自性よりも、芸術表現として洗練されたものとなっているかどうかの評価軸です。レイアウトデザインにおける対比やプロポーション、トーン&マナー、スケッチやCGが表現として洗練されているかどうかを見ます。

02 コンペのマーケティング

3つの切り口と2つの評価軸_Rai

表を再掲。

さて上の表ですが、全ての項目を満たすために考案したのではありません。むしろ、上のマスの中のどこのマスで勝負するのかを決めるために考えたものなのです。自分の強み、競合の強み、審査員(顧客)の好みは、それぞれどこのマスにあるのかを、定性的ですが分析していました。

例えば、自分は社会の切り口の問題設定・解決策の新規性が強みであり、好みでもありました。

3つの切り口と2つの評価軸_強みai

しかし、主要なコンペを自分なりに分析してみると、特に最優秀となる作品に多いのは、「空間切り口の新規性」と「表現切り口の洗練性」のマスで他者を振り切る作品でした。その傾向から、基本的には大多数の競争相手はその2マスを強化した案を提案してきます。その2マスにおいては非常に高いレベルでの競争がある一方、その他のマスについては同じような提案が並んでいることに気づきました。

3つの切り口と2つの評価軸_競合ai

ここで、自分の強みを無視し、皆(競合)と同じ土俵で戦っても負けるだろうと考えました

さらにコンペを調べてみると、コンペの種類によって受賞する作品の傾向が異なることも見えてくるかと思います。表現の切り口に偏っているコンペ。空間の実現性を相当高めた案が多いコンペ、社会的な切り口を求められるコンペなどなど。当然ですが、コンペは主催する企業の目的によって、求められる切り口や評価軸が異なってくるものです。

さらにさらに、コンペ毎でなく審査員毎に過去のコンペを分析してみると、自分の得意なマスにおいて高い評価を与えている審査員も見えてきます。

僕のコンペ戦略は、自分の強みを高く評価する審査員を探し出し、その方のいるコンペを狙うというものでした。

この戦略によって、自分の「賞率」を高めることができたと考えています。最優秀を狙い過酷な競争を勝ち抜くのでなく、一人の狙いすました審査員の「特別賞」を狙いに行く戦略です。競争相手はかなり少なくなります。

マーケティング

まとめ

上の考え方は、競争相手の多い土俵=「王道」で勝てないからこそ身に付けた弱者の戦略とも言えます。王道で勝つことを目指し、スキルを磨くことも大変すばらしい挑戦だと思います。しばしば、王道に挑まないことは「逃げ」であるとも捉えられます。しかし、そこに関しては個人の好き嫌いや得意不得意も考慮するべきです。厳しい見方をすれば、苦手な王道で時間と労力をかけ続けることは、勝率の低いギャンブルとも言え、時間とコストの浪費とも言えてしまうのです。結局、何を選択しても捉え方には良い面・悪い面があります。そのことを意識し、自覚的に自分の生存戦略を考えるトレーニングとして、アイディアコンペの分析と提案を楽しんで頂ければと考えています。

- 安藤


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