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クリエイティブの生産性向上に向けた、海外事務所での5つの教訓

こんにちは。建築の仕事をしている安藤研吾です。

「クリエイティブは効率化できないしするべきでない!」

「何度も徹夜して死ぬほど考えて、最後の最後に名案は生まれるんだ!!」

…というような考えから、毎日終電帰りで土日もどちらか片方が休み…日々怒鳴られながら、月の手取りは10万円台…ということが常態化しがちな日本のクリエイティブ業界。(一部の大手除く)

業界外の方々がイメージするような豊かで文化的なライフスタイルとは、実態は大きく乖離していることは業界内での暗黙の了解です。

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自分は、欧州やアジアでの就労経験があるのですが、特に欧州には、おそらく抱かれているであろう「豊かで文化的なクリエイターの暮らし」がありました。もちろん、海外は入口の競争が激しく、そもそも職にありつくのが難しいという前提はありますが、コンペがあっても徹夜どころか残業もない。給料は高くありませんでしたが、時間があることの豊かさ。。

外国人の知人の中には、世界的なビッグネームな事務所で働いていた人々もいましたが、彼ら / 彼女らから聞いても、毎日12時近くまで働いているのは日本と韓国以外では聞いたことがなく、大抵は19時ぐらいには帰宅するようです(N=30程 / 20 - 30代対象)。海外のビックネームの事務所が日本より劣ることは全くありません。つまり、超長時間労働は、クリエイティブの質に対して、なくてはならない「必要条件」では無いのです。

それでは、なぜ海外は「豊かな働き方」が成立しているのか?の要素を自分なりに抽出してみたいと思います。(僕の「感想」ですので、根拠の確度は高くないことをご容赦ください。)

1 リーダーがソッコーで方針を決める

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コンペの経験。

日本ではコンペが始まると提出までドチャクソになって徹夜ライフが始まりがちです。しかし、欧州では徹夜どころか残業もありませんでした。(自分が参加したコンペは、かなり大きめのコンプレックスビル+超大企業本社ビルでした)

プロジェクトのキックオフミーティング。

マネジャーとスタッフたちにて、条件やスケジュール、競合などの情報共有があった後、ドイツ人のリーダーより、「今回のコンペでは競合から考えてマテリアル推しの提案にしよう」と方針決定。「プランはオーソドックスなものでよく、マテリアルに時間を割き、その表現のCGや模型に時間をかけよう」と戦略を決定し、併せておおよその作業スケジュールも決定。

プランは本当に3-4日で終えて、あとの時間をマテリアル検討と表現にひたすら使ったため、表現では相当なクオリティに仕上がりました。

コンペの作業は淡々と進んでいき、遂に残業も無しで提出までこぎつけました。残念ながら僕の参加したコンペでは負けてしまいましたが、すぐ隣では同じようなやり方で別の大きなプロジェクトを射止めていました。

日本とのあまりの違いに茫然としましたが、大きな違いは「方針をソッコーで決めたリーダー」にあるのかと感じました。

建築でも他のクリエイティブでも、実際には作業を進めてみないと、それが良い案かどうかの判断は難しいはずなのに。。日本ではギリギリまで複数案を検討したり、直前で案を変更する「ちゃぶ台返し」が日常なのに。。

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そこで、なぜそんなにすぐ方針を決めたのか?とドイツ人のマネジャーに聞いてみたのですが、、

「自分はいくつもプロジェクトの経験を積んでいて、情報が少ない中でも判断できるからマネジャーのポジションに就いている。早く方針を決めないと作業ばかりで効率も悪いでしょ?」

と、ナイスガイすぎる返答。。スタッフに対して気さくで、作業の指示の度に「この作業で研吾が何を得られるか?」まで丁寧に教えてくれる始末。。後から聞いた話、マネジャーは僕の年収の3倍をもらっていたとのことですが、そりゃ3倍になるわ。。という実感です。

2 意思決定のフローを作り遵守する

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いつまでに、何の情報を揃えて、誰が何を決めるか?のフローを作り込み、これをとにかく遵守していた印象です。意思決定者の中には、デザイナー側だけでなく、お客さんや他のエンジニアも含まれていますし(むしろお客さんが多い)、お客さんが遅れる時には明確に手を止め、追加業務も断るという徹底ぶり。これは日本では実現できないかもですが。。

3 社内打合せはメモで十分

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ある日、スウェーデン人の上司に言われた言葉。

「研吾は、なんで社内打合せの資料をそんなにきれいに作るの?」

安藤「??? 。きちんと作らないと伝わらないと考えて。。(むしろメモなんかで打ち合わせしたら怒られてきた。。)」

上司「自分たちは、何万枚ものメモからカタチにする経験をいくつも積んでいるから、君の上司になっている。メモでも十分最終的なアウトプットはイメージできる。それに、メモの方が君のアイディアの純度も高い。これからはメモで良いよ!

「!!??」

メモで打ち合わせに望むようになってから、作業時間が激減したことは言うまでもありません。

4 事務所に合わない人がすぐにいなくなる…

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事務所のボスと喧嘩した若手スタッフ。プロジェクトにアサインされた野生動物の専門家で動物の生態を優先しすぎて融通の利かない方。などなど、プロジェクトの途中でも容赦なくいなくなったスタッフを幾度か目にしました。冷酷ですが、チームの雰囲気を悪くするスタッフは全体の生産性にネガティブな影響を与えます。また、生産性の高い人しか残らないので、生産性が高くなるという側面もあるかと考えてます。

5 デザインフィーがそもそも高い

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デザインフィーで聞いた話、日本ですと総工事費の5-15%程度と規模に応じて相場があり、±5%程は前後するイメージですが、海外ですと幅が5 - 100%(!?)とベラボーです。100%はかなり小規模な建物で聞いた話でしたが、それでも100%。。まぁ、100%はいきなりは無理だとしても、自身のデザインの価値を高めて相場よりも高額となることを説得するなど、高質なデザインをきちんと高く売る努力はしなければなりません

また、聞いた話で体験したことはありませんが、一括でデザインフィーをもらうのでなく、稼働時間分をチャージするような契約もあるのだとか。そうすると、事業主側としても、「支払った分以上は稼働させてやる!」というスタンスでなく、効率的に最小の稼働で成果を上げてもらう意識に向くので、よく考えられているなぁと関心しました。

まとめ

経営者の目線に立つと、スタッフはできるだけ薄給にして、できるだけ長時間働かせて、その分成果(売上)を高めることが、これまでの正解だったのかと思います。

しかし、時代は令和。

マーケットで求められる技術の高度化が進み、専門性の高いスタッフを引き留めておく必要性が増してきています。さらに、様々な業界で多彩な働き方が実現していることで、給与だけでなく快適な労働環境がなければ、有能なスタッフをそもそも建築業界内に留めることでさえ、難しくなってきています。働き方改革として労働時間制限が強化されている時代背景からも、建築などのクリエイティブ業界もより効率的に人材を稼働して労働生産性の向上を図ることは必須になっていきそうです。

今までは無限に労働時間をかけてでも売上を高めることばかりに目がいきがちでしたが、これからはいかに労働投入量を減らして、同じかそれ以上の成果を上げられるかの取組みが求められます。労働生産性の議論においては、スタッフ側のスキル向上やSaaSやBIMなどの新技術の導入が検討されがちですが、上記の経験から、労働生産性向上の本丸はリーダーの意思決定スピードにあると感じています。そちらにも議論が向かってほしいところです。

労働生産性

給料を高めることは難易度が高いのですが、デザインの仕事は楽しいです。なので、快適な労働時間で済むようになれば、仕事の楽しさという側面から、労働者マーケットで有能な人材を惹きつけられるポテンシャルがあるのではないかと考えてます。

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