見出し画像

来週の相場見通し(7/18~7/22)

 先週も市場は上下に忙しく動いた。インフレ関連、小売り関連、景況感の経済指標、米国債の入札、FRB関係者のコメントなど、色々な材料を市場はこなしてきた。まずは、現段階の市場の今後の利上げの織り込みを確認しておきたい。

1.FFレートの織り込み変化

(7/15 現在FFレート織り込み)

上のチャートが金曜日時点での市場の利上げの織り込みである。ざっくり言葉で説明するなら、「FRBは年末までに3.5%程度まで利上げを行うが、来年末までに50bp以上の利上げをしてFF金利は3%を割り込む」という見通しである。ちなみに下の図は、米国でCPIが発表された13日時点のものであるが、この時は「年末までに3.7%近辺まで利上げをして、来年末までに3%割れまで利下げを行う」という織り込みであった。つまり、市場の利上げ見通しは1週間を通じると低下したということだ。

(7/13時点FFレート織り込み)

その利上げの織り込みが低下した要因は、FRBメンバーから7月のFOMCでの100bpの利上げが否定されたことと、インフレ期待の指標が鈍化したことだ。まず、FRBメンバーのコメントであるが、特にウオラーFRB理事の言葉は、市場ではパウエル議長の代弁と捉えられている。そのウオラー理事からも先週は、100bpの利上げには疑問が呈された。これがFRBのコアメンバーの統一見解ということだ。ちなみにFOMCのメンバーは理事と地区連銀総裁で構成されるが、基本的に理事というのはFRB議長の判断に常に寄り添う存在だ。理事にはそれぞれ役割が与えられており、金融政策担当もいるものの、基本的にはFRB議長の判断に従う。これに対して、地区連銀総裁はバンカーである。何十年もバンカーを務めてきた強者であり、自らの金融理論と持論がある。それぞれの地区連銀総裁は、時の政権によって急に取り立てられたFRB議長よりも、金融については専門家であるという自負は強い。ゆえにFRB議長の判断に対しても異を唱えるメンバーだ。セントルイス連銀のブラート総裁なども、独自に「ブラート・ルール」と呼ばれる新たな政策参照ルールを作り出している。FRB議長は、こうした曲者揃いの地区連銀総裁をまとめる力量が要求される職でもあるのだ。

2.インフレ期待の低下

さて、注目のインフレ指標であるミシガン大学の5年先インフレ期待は、市場の予想よりも大きく低下して2.8%となり、3%を割り込んだ。これにはFRBも安堵したことだろう。しかし、確報値で上方修正される可能性もあり、あまり油断はできない。

(ミシガン大5-10年先インフレ期待)

しかし、その前に発表されたNY連銀の消費者の3年後のインフレ期待も下図のように低下していたこともあり、市場では消費者のインフレ期待は低下してきたことは好感されている。

(NY連銀3年後インフレ期待)

このように市場ではインフレについては、6月にピークをつけて、今後は徐々に低下していくシナリオをメインに捉えている。ちなみに、米国の6月のCPIは総合で+9.1%と1981年以来の水準に上昇した。前月比ベースも+1.3%と2005年以来の伸びとなり、インフレ圧力が鈍化していないことが示されている。クリーブランドの苅込平均CPIも全くピークアウトの兆しはない。(下図)

(クリーブランド連銀苅込平均CPI前月比)

しかし、市場では米国の足元のガソリン価格が大きく下落していることや、今回のインフレ期待指標の鈍化により、この6月がインフレのピークとなるとの楽観的な見方も出ているのだ。但し、問題はピークアウトしたとしても、順調に2%に向けて低下するかどうかだ。私はまだ当面は高止まりが継続すると予想している。

3.注目される米国州政府のバラマキ政策

その要因の一つとして、米国州政府の動きに注目している。先般は、「カリフォルニア州で住民に世帯当たり最大で約14万円の給付金を行う」というニュースが流れた。どういうことか?米国では州政府に徴税権があり、州税などを取っている。そうした州税を、ガソリン高やインフレに苦しむ住民に特別に還付するというのである。ちなみにカリフォルニア州には3900万人の州民がいるが、この還付金の対象となるのは2300万人ほど、金額だと2兆円超の還付となるようだ。実はこれはカリフォルニア州だけの話ではない。還付金に大小はあるものの、全米で34程度の州で既に実施したり、検討されていると報じられている。もちろん、秋の中間選挙を意識した動きであるし、還付金を配るなら即日、小切手を送付することだろう。
しかし、足元のインフレの原因はサマーズ元財務長官等の主張によれば、バイデン政権の1.9兆ドルものコロナ禍でのバラマキ政策に起因すると言われている。これが40年ぶりのインフレの原因であるなら、FRBがそのインフレを抑制するために、経済にブレーキをかけるべく利上げを継続いている中で、各州が独自にお金を再びばら撒くことは、アクセルを踏み込むということであり、インフレ抑制効果を阻害すると思われるのだ。米国はFRBがブレーキを踏み、州政府がアクセルを吹かしているのだ。つまり、市場が想定しているよりもインフレは高どまる一方で、意外と景気は底堅い状況が継続するのではないだろうか。

4.景況感について

景況感についても、見ておこう。7月のドイツのZEW期待指数が▲53.8と欧州債務危機の水準まで低下したほか、米国のNFIB中小企業楽観指数が予想を下回るなど、景気後退への懸念は世界的に拡大している。

(ドイツZEW期待指数)

米国のミシガン大学マインド指数の期待指数も1980年来の低水準に落ち込んだ。これは、なかなか衝撃的なチャートだと思われる。

(ミシガン大学マインド期待指数)

市場ではリセッション・トレードというワードがキーワード化している。しかし、米国の小売りも依然として底堅い。州政府のバラマキ政策による恩恵かもしれない。市場の景気後退への懸念は大きいが、あまりに悲観的なような気がしている。

5.米逆イールドと金利水準について

米金利のイールドカーブは、2年金利と10年金利の逆イールドが常態化しているだけでなく、その逆鞘幅が拡大している。2000年のハイテクバブル崩壊時に約11カ月間に渡り逆イールドが常態化し、その際には50bp超まで拡大した。(現在は20bp超)今回の局面でも、相当に長期間に渡り逆イールドとなる可能性が高い。このレポートの冒頭で紹介したFFレートの織り込みのように年末に向けてFF金利が引き上げられた場合、2年金利も3.5%となる。2000年の時のように2年と10年の逆イールドが50bp程度となるなら、10年金利は3%近辺という見通しになる。従って、いっときの米長期金利がどこまで上昇するか分からないという状況と異なり、現在では米長期金利の上値も重くなってきている。しかし、私はそもそもFF金利は4%を超えていく可能性があると考えており、長期金利もこの水準では落ち着かない可能性があると考えている。
さて、下の図は2年金利と30年金利の動きであるが、2年金利が乱高下しているのに対して、30年金利は落ち着きを取り戻してきている。(2年金利の目盛りは大きいことに注意)30年債にはどんな時でも年金やALMなどの長期投資家の需要があることは、やはり支えになる。

(米2年金利)
(米30年金利)

米国債市場の流動性は相変わらず低いものの、ボラティリティについては、少しづつ低下している。それでも通常時と比較すれば、まだまだ高い。

【MOVE指数)

6.決算発表の本格化

これから、米国の決算発表が本格化するが、S&P500社のEPSは4月1日の段階から17%程度下方修正されている状況だ。通常は事前にこれほど見通しが引き下げられた場合、実際の決算では予想を上回る業績が出ることが多く、米株の底入れに繋がることを期待している。
注目分野については、半導体関連の決算発表が注目される。今回の決算では、半導体業界にとって、いつになく重要なものとなるだろう。先般のマイクロン・テクノロジーの決算では前年比、前期比ともに減収減益のガイダンスを発表し、半導体業界に衝撃を与えた。7/20のASMLやテスラの決算は相当に注目を集めると思われる。このところ、半導体関連の主要銘柄は底入れの兆しを見せている。いくつかチャートを掲載しておこう。

【TSMC株価推移】
【マイクロン・テクノロジー】
【ASML株価推移】
(テキサス・インスツルメント)

米国株全般が底入れできるかどうかは、こうした半導体関連株が底入れできるかどうかにかかっている。マイクロン・テクノロジーの決算で匂わせた半導体市場の変調が、業界全体にどの程度拡大しているか、その影響度合いに対して、足元までに売られてきた株価のバリュエーションと比べてどうなのか?今回の決算発表はそこがポイントになるだろう。

7.日本株について

日本については、安倍元総理が銃撃を受けて亡くなるという衝撃的な事件が発生した。安倍氏については自民党最大派閥の安倍派の会長であったほか、アベノミクスにおけるリフレ政策、財政拡張政策の精神的支柱でもあったほか、保守政治家の代表でもあり、突然の訃報の影響は極めて大きい。特に安倍氏を失った安倍派の取り崩しを含めた各派閥の再編が加速すると見られている。特に菅前総理は新たな派閥を結成して、そこに河野太郎や石破茂、小泉進次郎などのビッグネームが集うのでは?との思惑や、岸田首相の宏池会が、いよいよ悲願の大宏池会構想実現のために、麻生氏と結束して動くのでは?とか色々な思惑が渦巻いている。
参院選では自民党は単独で過半数を獲得するなど圧勝した。参院選後には政局争いが加速すると見られてきたが、安倍氏の訃報で不透明感はますます高まった。市場の関心としては、党役員人事、内閣改造、第二次補正予算の規模であろう。足元では、外国人投資家の日本株買いに勢いが出てきている。

(外国人投資家売買動向)

岸田政権が発足して初めて1兆円以上の買い越しである。7月の1週目だけでこれだけの大きさであり、これが継続するなら、日本株は底堅い動きから、上昇トレンドに転換するだろう。来週は決算発表(特に半導体関連)、日銀とECBの金融政策が注目材料となるが、日本株は2万7千円台での底固めの展開を想定している。米金利の安定はサポート材料だ。但し、足元のコロナ感染の急拡大を市場がどのように捉えるかは不明だ。レンジとしては26,500円~27,800円を予想している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?