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気になる視線の先には

先日、とある管弦楽団の無料のコンサートがあった。知名度のある楽団によるコンサートが無料とあって、チケットはすぐさま完売したようだ。というのは、案内のメールがきた直後に友達3人に転送したが、私以外の誰一人として取ることができなかったからだ。

さて当日、いい席を陣取ろう、と受付開始時刻に合わせて会場へ行き開始を待つ。前2列が招待者専用の席、3列目からが自由席のため、勿論、3列目の一番内側の席を取る。
コンサートの開始予定時刻15分前頃だろうか、私の前に長い栗色の髪を束ねた人が座る。最近では、色々な待ち時間にNoteを書きためるのが日課となっているため、いつからその人が私の前に座っていたのかはわからないが、美しい栗色の髪をし、ブルーのニットを来た人である。

開始時刻が10分ほど過ぎ、指揮者が登場する。彼は中央のキャットウォークとでもいうような通路を颯爽と歩き、ブルーのニットの人の肩をポンポンと叩く。その後、楽団のバイオリン奏者の女性が、ブルーのニットの人に微笑みかける。

「あぁ、きっとこの人は怪我でもして、今回の演奏には参加できないのだな」と想像する。

その後、指揮者は演目と作曲家の説明を滔々とする。しばしば私の方を見て説明をする。

「あぁ、きっと、いつものように、私はこの会場でたった一人のアジア人だから、説明が理解できているかを見ているのだろうな」と想像する。

一部が終わり、二部が終わり、指揮者は観客者席に向かって次回の公演の予告をする。その際にまた、私の方向を向くが、目線が若干前にある。

「むむっ、これはきっと、私の前の人と早く話したいのだな、それはそうだよな、たった一人演奏に参加できなかったのだから」と想像する。

説明が終わり、アンコールもなく、奏者が去り、観客も各々のペースで去ってゆく。私も席を立とうとすると、ブルーのニットの人が数秒早く立ち上がり、横を向く。
「あっ、こ、これは、男性ではないか!」
その横を向いた彼のそばに、目をキラキラさせて感想を聞きたげに近寄ったのは・・・・・・・・・・紛れもない指揮者であった。

これで謎は解けた。
てっきり私の理解度をはかっているなどと自意識過剰だったが、実は彼のことを一心に見つめ、彼の反応を伺い、(主には)彼のために指揮棒を振っていた恋する指揮者がいたことを。

恋愛は自由、性別も年齢も関係なく、公の場で見せつけても恥ずかしくないのなら、何の問題もあるまい。せめて、ブルーのニットの彼がもう少し愛おしい眼差しを向けてくれれば、見ているこちらもほっこりしたのに。


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