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【小児医療 子育てコラム】上司の娘さんのほほえましい成長

■子どもを持つ親たち


幼稚園、保育園そして学童保育も今は民間含めて選択肢も多くあり、子どものことで仕事場で肩身の狭い思いをする機会は減って来ていると考えます。以前は看護師や医師のお子さんが保育時間に限りがあるからと、お子さんを引き取りに行って、祖父母や知り合いに勤務が終わるまで、頼みこんで預かってもらうといった光景は日常茶飯事でした。

私の勤務していた病院では、病院内に保育所はありましたが、外部委託なので、ちょっと1時間だけみてよなんてことはできるわけもなく、病院の医事課やナースステーションにも連れていくわけにもいきません。私のいる小児科医局に頼みこみ、1時間ほどお子さんをみなくてはならないときがありました。

だいたいそういった場所に預けられるのは、小学校低学年のお子さん。子どもが大きくなったから、時短勤務からフルタイム勤務に変わったばかりのパパやママが頼んでくるというわけです。

子どものお迎えがあるので、帰っていいですか?

そんなことを言える雰囲気は、今でもそうはないでしょう。小児科医だから子どもの扱いはなれているといえばなれていますが、小学校低学年ともなると接し方も難しいものです。だから私以外の上級医は、私を残して自分のデスクへと去っていくのでした。

■預けられた子どもたちの世話をする小児科医


私もどう接していいのかわからない上に、なかなか親御さんが来ないと子どもたちもそわそわ。だからやっぱり気を遣います。卓球でもするかと小児科会議室で卓球をして、うるさいと上級医に怒鳴られてからは、勉強をみることにしました。

百ます計算で、足し算が続くとひき算になったことに気づかない子どもや、漢字が苦手な子どもに勉強教えるのは私自身、創意工夫が必要だったり、新しい発見もあるので楽しんでやっていました。

自分の子どもに教えるとなると、子どもも私に甘えがあるし、私自身、何でできないのか!と、ついついヒートアップしてしまうものですが、他人のお子さんともなると一線を画しているのでサクサク進むものです。

宿題は学童保育で終えてきているのでだいたい、予習をするのがつねでした。〇付けをするのに、×はまだ習っていないからつけないようにして、やる気スイッチを押しながら教えていました。すると「今日のテストできたよ!」と子どもから言われたり、親御さんからも「予習するとわかるみたいだ」と言われたり。その結果、お弁当の差し入れ、映画のチケット、はては、ある先生から〇〇万円無理やり渡されたこともありました。

やがて私には卓球禁止だけではなく、営利目的の子ども預かり禁止とまで言われてしまうことになってしまうのですが…。でも、子どもがわからなかった勉強がわかるようになったと言われるのはとても嬉しいものです。医師としても人に教える楽しさが身についたのかなと思っています。

■今も記憶に残る、上司の娘さんの成長


あるお子さんで上司の医師の娘さんがいました。音読が得意でスラスラ。
「すごいね。君。家でも練習しているの。素晴らしいよ」といってよく褒めたたえていました。親御さんからは、帰るときに「今日も勉強していたんだって? 医者になるには勉強できないといけないからな」といつも言い聞かせられながら帰っていました。彼女の才能なら医師になれるんだろうな…と思っていたある日です。

2年ぶりの雨の日。久しぶりに彼女が医局で私とお父さんの帰りを待つことになりました。
小学校高学年になる女の子。何を話そうかと考えながら、話を振りました。

「最近、何か気になることあった?」
「子どもの脳死があったので、今度、脳死移植があるそうです。先生は死についてどう考えますか?」
「うーん。脳死が人の死だと言うのは確かに実感できなよね。でも人工呼吸器外したら死んでしまうなら脳死も死なのかな?」
「私は、脳死は人の死だと思います。でも家族がそうなったら受け入れられるかはわかりません」
「そうだよね。でも、君はすごい考え持っているね。ニュースの記事とか覚えているだけではなくて自分の意見も話せるなんてすごいよ。そういう職業だと才能活かせるね。やっぱり医者になるのかい?」
「それは――」
小学校高学年がここまで自分の考えを語る。さすが先生のお子さんだ。そう思っていた時に先生が迎えに来ました。
「ごめんね。待たせちゃったね」
「ねぇ、パパ。私、ニュースキャスターになりたいの。私の考えが正しいかどうか情報を伝えたいの」
「えぇっ。そうかそうなんだ。いつから、そんなこと思っていたの?」
「ずっと。ねぇダメ?」と彼女は泣いてしまいました。

小学校高学年とはいえ、女の子が泣きながら自分の思いを伝えている。そんな姿を見ていると、いつの間にか、我々も泣いていました。
「そうだね。なりたいものがあるなら努力しないとね」
先生のその言葉で彼女は笑顔になりました。

ほっこりしました。小さいころから知っているお子さんがここまで成長するとは…。後から先生には、「医者になってほしかったのに、お前のせいだからな」と脅されましたが、でも娘さんの成長が嬉しかったようです。

上司と飲みに行ったときに、やっぱり親として子どもの成長が一番うれしいよ。あの子さ、俺の前だと全然意見言わないのよ。多分、家にもあんまり帰らないし、怖いんだろうね。先生が話聞いてくれたり後押ししてくれたからだって思うんだ。泣けたよねー。

彼女は紆余曲折あり、結局今は医学生となっています。でも、それは彼女が選んだ道なのです。自分で選んだ医学の道を極めて欲しいものです。

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