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ASDに愛着障害が重なるとどうなるのか

こんにちは、精神科医のはぐりんです。

今回は、特性の濃いASD(自閉スペクトラム症)愛着障害が重なるとどうなるのか、というテーマで実際のケースをご紹介しつつお伝えしていこうと思います。※3.4分で読めます。少しお時間いただき、最後までお読みいただけたら嬉しいです。

ASDに関しては色々と言われてはいますが、個人的にはスペクトラムだと思っていて、特性が濃い方がいれば薄い方もいます

「グレーゾーンなんて診断基準にない」という話も聞いたり聞かなかったりしますが、ちょっとした
工夫や周囲の理解と配慮で社会性が改善する方もいれば、その逆で中々家から出られない方もいます。

そう考えるとやはりスペクトラムという考え、濃淡に応じた、ケースごとの対応というのは、少なくとも現段階では自然な考え方だと思っています。

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さて、私も普段から何名ものASDの方を診させて頂いていますが、スペクトラムという観点でとてもASD特性が濃い方をご紹介したいと思います。

30歳前後のこの方は何年も引きこもっていて、自販機やコンビニにも行けません。ただ有難いことに、最近になってやっと月に1回の外来にだけは何とか来てくれるようになったのです。

しかし本当に「来るだけ」、家族と一緒に来て一言も話さず、声も一度も聞いたことがありません。こちらが視線を向けるとサッと視線を逸らします。薬も出していないし、入院なんて逆効果でしょう。

ASDに重度の社交不安障害と視線恐怖症を合併していると言えます。家でも(何かを要求するときに)ひとこと二言しか話さないため、知能検査(WAIS)もとてもじゃないけどできません。ASDに重度の二次障害が合併しているとWAISもできないのです。

この方の生育歴を確認してみると、乳児期に両親が離婚し、その後は母子家庭、母親は夜の仕事をしていて、その間の夜はまだ幼い本人を友人宅などへ預けていたそう。

そういった生活を長年近く続けていると当然愛着形成は不十分になるし、やがて無口になり誰とも話さなくなってしまったのです。子供にとって対人関係の基盤は両親から学ぶもので、幼少期に両親と充分に触れ合わなかったことで、どのようにして人と接したらいいのか分からないまま大人になってしまったのです。

元々のASDによるコミュニケーション障害に、愛着障害による対人関係の学びの機会も失われ、そういった中で対人関係での失敗体験が積み重なり、重度の社交不安と文字通り自閉症状を来してしまったのです。

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最近こういった方がとても増えている印象で、回避型の愛着障害とも言いますが、両親と充分に触れ合わずに成長したことで、自分が親になってからどのようにして子供と接したらいいか分からないという方もいます。まさに愛着障害の連鎖と言えます。

今回は特性の濃いASDに愛着障害が重なるとどうなるのか?というテーマで書かせていただきました。今回ご紹介したケースでは回避型の愛着障害を経て、社交不安障害に至ったケースでしたが、愛着障害には他にもいくつかタイプがあり、愛着障害のタイプによって大人になってからまた違った対人関係の問題や情緒の問題が出てきたりします。そちらもいずれ機会があればご紹介できればと思っています。

今回ご紹介したような方の今後について、支援に関しては大変難しい問題で、医療でできることは限られているのかもしれませんが、今は病院に来てくれるだけで十分と思っています。しばらく通院できたとして、次にどうしていくのが望ましいのか、まだ模索中ではありますが本人の気持ちを尊重しながら検討していければと思っています。

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