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カサンドラな妻〜動悸や過呼吸がまた起きそうで心配

カサンドラ症候群という言葉をご存知でしょうか?おそらくどこかで聞いたことがあるという方も多いと思います。カサンドラ症候群とは、配偶者(夫)に発達障害(ASD)の特性があって、同居している妻がなんらかの心身の不調をきたしている状態のことを言います。症状は様々で、カサンドラに特有の症状というものがないため、症候群と呼びます。不安、パニック、うつといった心の症状から、胃腸症状、頭痛、自律神経失調症といった体の症状まで様々な症状が出てくるため、一見するとただ少し体調が悪いのか、月経前の症状や更年期障害と思われがちで、カサンドラ症候群に特異的な症状(この症状が出たらカサンドラ症候群という特殊な症状)がないため見過ごされていることも少なくありません。

カサンドラって奥さんだけなの?

鋭い方ならすでにお気づきかと思いますが、「それって妻のASDが原因で夫が発症する場合もあるのでは?」と思われた方もいるかもしれません。確かに奥さんの側が原因で夫が振り回されているという方も何人か診たことがありますが、受診して治療が必要なほどの症状を呈している方は女性ほどは多くはない印象です。

なぜ女性の方が問題となりやすいのか、理由としてはいくつか考えられると思っていて、一つはそもそもASD自体、男性の方が女性の約4倍多いこと、またそれを抜きにしても、こういった何か外的要因、生活環境が原因で不調をきたすのは女性の方が多い傾向にあると思っています。なぜなのか?それは生物学的な部分、つまり体の機能や構造に理由があると思っていて、やはり月経の影響というのは大きいと思います。月経前の心身の不調は我々男性には想像もつかないほどと言っても過言ではありません。それと脳の構造上の問題も一時期言われていました。最近では少し認識が変わり男女差はあまりなく、むしろ個人差が問題でASDやADHDの人は脳梁(右脳と左脳の橋渡し)の神経になんらかの障害があるのではと言われています。まとめるとそもそもASDは男性に多いこと、またASDの方の脳の構造上の問題や女性の月経に伴う気分や感情の変化などが重なり、カサンドラ症候群は女性のパートナーの方に問題が起こりやすい傾向にあります。情緒的な交流が少なく、ASDのパートナーを持つ妻は常に満たされない感情を抱き、積もり積もると心身の不調をきたしてしまうのです。

さらに付け加えると女性の方がカサンドラ症候群をきたしやすい理由として、社会構造上の問題も少なくないと思っています。昔に比べて今はだいぶ女性の社会進出や経済的な自立が進んできているのが現状ですが、その割には家事や育児の負担などはまだまだ女性の方が比重が高く、仕事に育児、さらに夫のASDが重なれば心身に不調をきたすのも当然です。昔であれば亭主関白とか言って女性は泣き寝入りするしかないような時代もありましたが、今はそのような時代ではありません。最近になってカサンドラ症候群が問題視、浮彫になってきたのもそういった時代背景もあるかもしれません

実際のカサンドラ症候群の患者さん~治療は?

※ご本人に情報開示の許可をいただいております。

それでは実際のカサンドラ症候群の方を見ていきましょう。最初に受診した際の主訴は、仕事中に動機や過呼吸になるというものでした。他には以前に比べて車に乗るのが怖くなったと閉所恐怖症のような症状も見られました。症状だけ聞くとパニック障害と診断してしまいそうですが、よくよく聞いてみると旦那さんにASD傾向があり、普段家での会話もあまり乗ってこないし、育児の手伝いも十分ではないようで(時にはかなり子供を叱ったり)、夫婦間の情緒的な交流も不足しているようでした。急にパニック症状がでてきた他の原因も特に思い当たらず、総合的に判断してカサンドラ症候群であると判断しました。

さてこの方の場合の治療法ですが、まずは表面に出てきている症状、つまりパニック症状をなんとかしたいと思いました(対症療法)。具体的には安定剤を処方し、また呼吸法やTFT(思考場療法:顔や肩、脇のツボを自身でトントンと叩く治療)といったことを試してもらいました。「薬は飲みたくない」という方もたくさんおられるのですが、パニックや不安に関しては薬を持っているだけで症状が収まる方もたくさんいます。そういった方には毎日ではなく数回分だけ薬を処方したりします。また呼吸法やTFTに関してですが、詳しくは割愛しますが、自身の体や状態に意識を向けることで、不安やパニックを回避するといった治療法になります。この方の場合、パニック症状に関してはだいぶ良くなりました。

それからなんといってもやはり根本的な治療のためにはASDの旦那さんとどう向き合うかということを解決しなければなりません(家族療法)。この方の場合、幸いにして夫にカサンドラ症候群のことを説明するとよく理解してくれ、思い当たる節があると受け入れてくれました。この夫に理解してもらうということが、一番大事な、かつスタート地点だと思っていて、そこから夫にも病院を受診してもらうのか、あるいは普段の言動を顧みてもらって変えていくようにするのか、家事など夫婦間の取り決めも新たに決めていくのもいいかもしれません。

現代病ともいえるカサンドラ症候群について書いてきましたがいかがだったでしょうか?一口に治療と言っても症例によって様々なアプローチをとりますが、根本の部分の理解とそれをパートナーにも分かってもらうということだけで随分と道が開けてくることかと思います。当事者間だけで解決しようとすると上手くいかないことも多いと思うので、困っている方々はまずは専門家に相談してみてくださいね。

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