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【書評】『母という呪縛 娘という牢獄』〜最恐レベルの毒親実録集


「母という呪縛 娘という牢獄」
という本を読んだ。2018年に起きた、娘が「究極の毒親」を刺殺した事件、俗に言う医学部9浪殺人事件のルポルタージュだ。

300ページ近くに及ぶが、前評判通りスラスラと三日で読めた。娘の「あかり」と母の「妙子」の臨場感あふれる壮絶なやり取りに引き込まれた。

内容的にはひたすら陰惨としていて、特に同じような「毒親育ち」の方が読むと、フラッシュバックして少々きついかもしれない。読破後にこれ程やるせない気持ちになる本も珍しいと思う。


事件の経緯

ざっと事件の経緯を述べると、あかりは9年間医学部受験を強いられ浪人させられていた。当然あかり本人の意志ではない。背景には母親の学歴コンプレックスがあったのだろう。

9浪目で医学部ではなく看護学科に合格したあかり(なんと主席合格だった)。入学時の約束/条件として母から助産師になることが課せられた。しかし、あかりは在学中にオペナースになるという目標ができた。

一方で母は助産師になることを強要し続けた。大学でも自宅通学だったこともあり、待望の一人暮らし/就職が決まるという希望が見えた矢先、母が発狂する。

「(就職したら)死んでやる、暴れてお前が病院に居られなくしてやる」。

再び浪人時代のような生活に戻ってしまう恐怖と、現在進行形で繰り返される虐待。のちに公判で

「もう、ちょっと若くないから、しんどいなっていう。心がもう無理やなって思いました」と述べている。

事件の直接のきっかけとなったのは、隠し持っていたスマホが見つかり、夜中に庭で土下座させられ、目の前でコンクリートブロックで叩きつけられスマホを破壊されたこと。

「自分の気持ちも心も叩き壊されたような気がした」

事件はその一か月後、助産師学校に落ちた翌日に起きた。日課であった寝る前の母へのマッサージ、寝入った所を刺殺した。

その直前まで、母はLINEゲームをしながら、あかりを叱責・罵倒していたことが携帯電話の記録から判明している。

何が毒親を生み出しているのだろうか

ざっと事件の経緯を振り返っただけでも、この母親の異常さをお分かりいただけたと思う。他にもここには書ききれないくらいの凄惨な虐待の数々が日常的に繰り返されていた様子が書き記されている。

読み進めていくうちに、私自身の体験と重なる部分もあって辛かった。言動面であまりにも共通点が多く驚いた。

一つには「薄情」という言葉を相手に吐き捨てる。自分基準でしか物事が考えられず、自分の意にそぐわないと相手を罵るのだ。急にかんしゃくを起こすのも同じ理由からだ。(おそらくここら辺は発達障害が絡んでいるのだと思う)。

私の場合は身体的虐待もあったが、力づくではいかない分、言葉による性的虐待も多かった。他にも楽しかったはずの旅行を「誰の差し金で動いた?」と勘繰られたこともあった。中学生以降父親が単身赴任でいなかったのも大きかった。

これらと全く同じようなことがあかりと母親の間でも起きていたので驚いたと同時に、当時の記憶がフラッシュバックした。

あかりの場合、一人っ子母親と一対一、という構図がさらに状況を悪化させたのだろう。機密性が高まり、お金を工面してもらっていた祖母にたびたびウソの手紙を書かせていた(なんと浪人中に、合格してもいない大学に合格したと報告していた)。

加えて現代では電子媒体を通じて、離れていても毒親から支配・干渉されてしまう。作中でも実際のLINEでのやり取りがかなりの紙面を割いて記されており、目を覆いたくなるような罵詈雑言の数々が残されている。あかりの場合もそうだが、家出した際に探偵を雇ったり、あるいはGPSをつけたりする毒親もいるだろう。

外からは見えない毒

「いずれ私か母のどちらかが死ななければ終わらなかったと現在でも確信している」

彼女がどれほど追い詰められていたのかが分かる発言だ。追い込まれすぎて一種の心理的視野狭窄に陥っていたとも言える。

あかりがなぜこの本をルポライターが出版することを承諾したのか。そもそもなぜ初対面の著者と30通以上にも及ぶ書簡を通じて、これ程事細かく事件に至った経緯を語ってくれたのか。

罪を償いたい・家族関係に悩む人たちに届けたい、という理由もあるのだろうが、推察するに周囲からは分かってもらえない、自ら吐き出すしかない「毒」を吐き出したかったのではないだろうか。

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