見出し画像

孤立型ASD~いわゆる不思議ちゃんの方のWAISを検討してみました

こんにちは、精神科医のはぐりんです。

※この投稿は3分で読めます。また個人情報保護のため多少内容を変更しております。最後までお読みいただければ嬉しいです。

今回は実際に私が初診で診察した孤立型ASDの方のWAIS(ウェイス、知能検査)の結果をご紹介したいと思います。

WAISについては以前の投稿でも詳しく触れていますので、そちらも良ければご覧ください(初めて聞いた方には内容的に少し難しく感じるかもしれません)。


今回ご紹介する方は10代半ばの、第一印象からいわゆる「不思議ちゃん」で、独特の雰囲気を醸し出していて、何を聞いても憮然とした、キョトンとした表情、話をしていてもまるで他人事のようで視線も合わず、丸い眼鏡に服装はロリータファッション(暗めの色のゴスロリ系)で、いかにも孤立型のASDといった方でした。

この方のWAISの結果ですが、総合的なIQが75でした。これは境界知能(IQ70-85)といって、正常と精神遅滞の間の方たちを指します。それ故にこれまでに中々周囲から気づかれることがなく、加配や特別支援学級などの支援を受けずにきた方も多く、一方で自覚的にはさまざまな困難を抱えているといった方たちが少なくありません。

IQの下位項目の詳細な数値ですが、言語理解90、知覚推理70、作動記憶85、処理速度80といった結果でした。知覚推理が低く、目で見た情報、位置や方向、場所を間違えやすかったり、持ち物の整理分類が苦手だったり、あるいは相手の表情を理解しづらいといったことが予測されます。言語理解との差が20と大きく、周囲から見る以上に本人は物事をしっかり把握できていないと言っていいでしょう。

実はまさにそのことを示しているような状況がこの方の最大の問題点でした。それはお母さんが本人の特性を全く理解できず「甘え」だと思い込み本人にもそれを指摘し追い込んでいること、またそれに反応して本人が非行を繰り返していました。非行を繰り返す背景には、母親への反抗と、一方では振り向いてもらいたい・分かってもらいたいとの思いの間で揺れ動いていたからだと思われます。

境界知能のことや、知覚推理が低いこと、またこれだけ下位項目の数値にバラつき(ディスクレバンシー)があると本人としては苦悩を感じやすいこと、繰り返し心理士さんと一緒に母に説明しましたが、理解は得られず残念ながら受診は途絶えてしまいました。

発達障害の精神年齢は、実年齢の6-7割計算、ともよく言われているように、決して甘えではなく、ましてや10代半ばなので実年齢的にもまだまだ子供です。今から思うともう少し強くお母さんに特性への理解の必要性を伝えておけばよかったなと後悔しています。

筆者の個人的な印象ですが、いわゆる「不思議ちゃん」の子たちは、境界知能や能力の偏りがある子が多く、周りが思っている以上に生きづらさを抱えている方が多いと思います。

外見や話し方が独特で、いじめや興味の対象になりやすい方も多いです。今回の方の場合も、周囲はおろか親からも理解されず非行に走り、大変辛い境遇にいました。孤立型ASDに関して、世間の方々にもっと理解が広まれば良いなと思い今回は投稿しました。

最後までお読みいただきありがとうございました。

補足:孤立型ASDに関して、今回ご紹介したような方がまさに典型的な例で、お読みいただきイメージがついたかと思います。ASDには5つのタイプがあり、過去の私の投稿では尊大型ASD大仰型ASDに関して紹介しています。よければそちらもご覧になってみてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?