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患者さんから告白されたりするの?〜陽性転移とは

こんにちは、精神科医のはぐりんです。

お医者さんって患者さんから告白されたりするの?とたまに聞かれたりしますが、直接言われるというのはあまりなく、手紙をもらったり連絡先を書いたメモをもらったり、というのはたまに聞きます。ただ実際にその後交際したという話は私は聞いたことがありません。

また精神科の場合に限ると少し事情が違っていて、診療科の特性上、患者と医師、悩みを相談する立場とされる立場にあり、他科に比べて治療者に好意を持ってしまいやすい構造になっているんです。ですのでたまにSNSとかで心理士さんと患者さんが治療をキッカケに付き合っているといった話しが入ってきますが、こういった構造を考えると言語道断だと思っていて、ある意味立場を利用して付き合っているとさえ言えると思っています。

このように患者さんが治療者へ好意を持つことを陽性転移と呼びます。この陽性転移、精神科の場合仕方がないのでしょうか?

転移とは患者さん側から無意識のうちに向けられるものと言われており、防ぎようのないもののように思われますが、個人的には治療者側の意識次第である程度コントロールできるものだと思っています

どういうことかというと、精神科の場合、特に外来患者さんでは治療の枠組みというものをとても意識していて、診察時間にしても診察内容にしてもある程度決められた範囲内で行うようにしています。時間的な枠組みで言えば、前の記事でも少し書きましたが、ある程度決められた時間内での診察となることを患者さんにあらかじめ告げていることもありますし、

また内容的にもなんでも相談に乗って共感するだけではなく、動機付け面接のような普段の生活を送るうえで少しでも前向きになれるような話題や声掛けをしているつもりです。この枠組みを超過してしまうと、人によっては依存退行といって子供っぽくなんでも医療者側に頼るようになってしまったり、あるいは陽性転移を起こしてしまったりといったことが起こってしまいます

かくいう私も精神科医になりたての頃に一度だけラブレターをもらったことがあります。その頃はまだ右も左もわからず、患者さんの数も少なかったこともあり、1時間近くかけて外来患者さんの話しをなんでも聞いていました。途中から薄々と陽性転移には気づいていたのですが、最終的には手紙をもらい、その後の治療関係は言うまでもなく破綻してしまいました

今考えると申し訳ないことをしたなと本当に思っていて、というのもこのことがあってから私自身、治療の枠組み、患者さんとの距離感といったことをしっかりと意識するようになり、以降約10年間精神科医を続けていますが同じようなことは一度も起こっていません

患者さんの転移感情は(もっと言うと治療者側の逆転移も)意識してちゃんと対応していればコントロールできるのです。それどころか上手くいけば治療の動機付けに昇華させることもできます

枠組み、と聞くともしかしたら打算的で冷たい印象も持たれるかもしれませんが、長い目で今後患者さんが良くなっていくためには治療の枠組みというのは必要かつ重要なものなのです

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