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海とわたし

小学生のとき。国語の教科書に「はまべのいす」というお話が載っていた。
浜辺にポツンと置かれた白い椅子に朝、昼、晩といろんな人たちが腰掛けたり、周りで遊んだりして通り過ぎていく。そんな何気ない風景が描かれた物語に、海のある風景ってなんかいいなあ、と子どもながらに感じた。わたしは生まれも育ちも海無し県のベッドタウンだったから、遠く憧れの風景だ。そして母に「海を見に行きたい」と頼んだ。春だったから、泳ぎに行くのではなく「ただ見に行く」だけに鎌倉の海に連れて行ってもらった。まったりとした波。広々とした浜辺。わたしは「海ってほんといいなあ」と感じた。

それから歳月は流れ、大人になって都会に住んだ。その生活もとても楽しかったし、充実していたけど、時々、海の近くに出かける機会があると、「やっぱりいいなあ」と思っていた。マリンスポーツをするわけでもなく、泳ぐのも得意ではないので、わたしはただそこで空気を吸うだけだ。でもそれだけで、かつてのピュアな気持ちに近い感じが不思議と胸に湧き起こってくるのだった。

さらに歳月は流れ流れて、1年前のある日。縁あって、海にとても近い場所で暮らし始めた。今までずっと遠くて、いくつも電車を乗り継いでようやく辿り着いていた海。それが少し歩いた距離にある、という未知の暮らしが突然始まった。かつて特別だった風景とありふれた生活の混在。そんな日常を綴っていきたいと思います。


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