生きている言葉「赤毛のアン」


紙の本が好きだ。
年季が入り、少しくたびれて
茶色くなった裸の文庫本が手に馴染む。

ページを捲り、整列した文字に目を落とすと、
たちまち本の中に引き込まれる。
読むことはおもしろい。
少しずつ、確実に文字を追ってゆく。
「生きている」と感じる言葉に触れると心が踊る。

小さな頃から何度も開いた本は、
読むたび私に「生きている言葉」を
教えてくれる。
それは自分の大切な柱となっていく。


「赤毛のアン」は私の大切な本だ。

カナダの作家、
ルーシィ・モード・モンゴメリによる
アン・シリーズは全十巻。

孤児のアンがクスバート家のマシュウとマリラの元に引き取られ、
カナダのプリンス・エドワード島の美しい自然の中で成長しながら、
友情と愛情を育み、人生を織り成していく物語だ。

私が手に取った本は、
村岡花子さんが訳したもの。
美しい日本語、念入りに描かれた自然描写、ほのぼのしたユーモア。
モンゴメリの原作への、村岡さんの深い愛情が伝わってくる作品だ。


主人公のアン・シャーリーという少女は
一風変わった人物という設定。

物語の序盤では、
自分の名前の綴りはEの文字がつくアンである(Anne)、
Eのつかないアン(Ann)では平凡なのでイヤなのだと、初対面の人間に主張したりする。

空想とおしゃべりが大好きで、
頭に浮かんだ美しい考えや、思いついた事をとめどなく話し続ける女の子だ。

手伝いの男の子を迎えるつもりだった
マシュウ・マリラ兄妹は
手違いでやってきたアンに圧倒されるが、
孤児院へ返す返さないの兄妹間の押し問答(?)や、
アンの愛情に飢えた境遇を聞くなどした結果、彼女を育てる選択をする。
ここからアンの人生が大きく展開していくという筋書きだ。

私の実家には「赤毛のアン」と、
二作目「アンの青春」があった。

「赤毛のアン」では、
小さなアンが村の中でさまざまな人と
関係を築き、遊んだり勉強したり、
働きながら成長していく過程が描かれる。

私はシリーズの一作目、
はちゃめちゃな失敗を次々とやらかす
ザ・赤毛のアンが好きだ。

アンが親友とおごそかな誓いの儀式をしたり、
からかってきた男の子の頭に石板をたたきつけて学校を休んだり(笑)
日曜学校の牧師の奥さんや、学校の先生に
敬愛を寄せたりする様子は
一途なひたむきさが感じられて熱い。

そして二作目の「アンの青春」、
学校の先生として働き始めたアンが、
家族となった孤児のふたごの世話をし
友人達と村落の改善に取り組んだり、
新たな出会いを経て
人間として大きくパワーアップするこの作品も、読み応えがあり、とっても好き。

しかし、私の特に推したい一冊がある。
それはシリーズ三作目、
「アンの愛情」。

大学生となったアンが
三人の友人と共に下宿しながら
たゆまず勉強し、遊び、笑い、悩み

そして…愛に目覚めていく物語なのだ。

これは本当に熱い。
語彙がなくなるくらい。

架空の人物のはずなのに、
すぐそばに感じられるぐらいの
リアルな息づかいと、純粋な喜びがある。

片思いしてた頃の切なさとか
恋破れた後の、一種の開放感とか
恋愛してる時のもどかしさなど全て、
この本を読んでいたら頭の中に蘇ってくる。
恋に関わるドキドキやワクワクが追体験できるのだ。

しかも恋愛だけじゃない。
友達との青春、
学んだり遊んだり、理想について考えることの楽しさ素晴らしさも体験できる。

おすすめは一作目から続けて読むことだけど、たぶん「アンの愛情」単体でも
十分に魅力を味わえるはず。

アンや周囲の人物の言葉から
はっと気付かされることもあり、
自分の中にある理想への道しるべを
示してもらえることもあると思う。

そして何よりこの物語はハッピー。
実際の人生のように生と死があり
悲しみや涙もあるけれど、
アンシリーズはモンゴメリさんの
人生讃歌だと私は感じる。

本を置いた時、
よし、自分の人生楽しむぞ!
大切な人を大切にするぞ!
と幸せな気持ちになれる一冊です。

紙の本を手に取られることを
オススメします。

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