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母からもらった“真面目”という武器と『正義』という名の凶器

もう真面目やーめたっ!
そもそもその価値観わたしのものじゃないしー

と高らかに宣言した今朝
とはいえ、嘘ついたり人をだましたり
なんてことはしようと思っていないのだけれど
母からいつも、「真面目が一番!真面目に生きな幸せになれんよ」
と言われつづけた言葉がぐるぐると頭の中で旋回する
「幸せになれんよ」というその呪術にどれだけ怯えてきただろう

おそらく、“母の真面目に”の意味合いは、「ちゃんと」ということなのではないか、と思う
そして私もそれが一番大事なことだ、と思ってこれまでその教えを大事にして過ごしてきたのだけれど、どうも居心地がわるいことに気がつき始め息苦しい
きっとずっと前から気がついていたのだけれど、その先へ一歩踏み出す勇気がでなかった

自分の中での準備が徐々に整いつつあるのを感じながら
母への罪悪感や、これからは自分で自分を守っていくという決意と不安
いままでの時間への懐古と恨めしさ
さまざまな想いが渦巻いている


わたしもっと自由に、自分らしく生きてきたかったよ


ぶつけようもない怒りが次から次へと出てくる


それなのに、すぐまた母のことが気になってしかたがなくなってくる


私のことを心配してくれた母
つらいときにずっと一緒にいて助けてくれた母
愛情の強い母
そしてピュアな心をもった母
………


本当は母のことがとても好きだった



そんな母を裏切るようなことはしてはならない、とずっと自分の中で決めていた

それでもどうしようもない心地の悪さと、束縛されるような心の不自由さに我慢がならなくなって、どうしても根源を突き止めたくなった


どうやらそれは、真面目に生きないと、
ではなく、

“母の思いにかなわないこと
(気に入らないこと)”  をすると母が不機嫌になる状況を恐れて、機嫌をとっている自分だった

その途端、それだ!と犯人を見つけたときのような、あたかも、あばいてやったぞ、的な高揚感とともに、抑えようのない怒りが湧いてくるのを感じた


「なんでこっちが母のご機嫌をうかがわなくちゃいけないの!」

「わたし、母のために生きてるんじゃない!私のために生きてるんだ!!」



と心は叫んでいた 果てることもなさそうな怒りに途方に暮れていた


思えば母は、本当に純粋な人



70半ばにしていまだ少女のようなココロを維持し続けている
ここまで少女でこられたのは、そんな母の純粋さを認め守ってくれた父の存在や、立場上ちやほやされるという周りの環境も大きかったと思うけれど、どす黒くドロドロとした、そのピュアさを何の遠慮もなくけがしてしまうような、人間の、そして社会の「闇(悪)」の部分を真っ向から否定し、そして完全に拒否し続けてきた母は、時に勇ましくもあった


とはいう私も、これまで母とは双子の姉妹のごとくよく似た性質を持って生きてきた自負があった 


「キヨク、タダシク、ウツクシク」


そう在ることで自分の存在は保証される、とでも思っていたのだろうか 

「ダークネス撲滅!」という旗を掲げて気高い精神を維持することが、時にどんなに自分の身を削ってしまうほど大変なことだとしても、そこに捧げることに心の安心を求めていた

だけど、

正直しんどかった 
弱い心を、赦せなかった
“闇”なんか存在してはいけない、
ってずっと思ってきた

そんな本音がおそるおそる顔を出し始めた



厳しいなー、自分



その“厳しさ”は簡単に凶器と化し、人を追い込む  これでもか、これでもか、というくらいに


完璧な人間なんてそもそも存在しはしないのに
けれどもそれを目指して生きている母は、
いつも「わたしが正義よ!」みたいな表情で警察のパトロールのようにして「悪」を退治しようとがんばっている 

まったくご苦労さまなことだ

だから他人にも、そして自分にも相当厳しい

「んんっ? ちょっと待てよ」


母が言っていることは果たして真実だろうか?
と疑問を持ち始めことがきっかけとなって
事態は少しずつ変化しはじめた

母を見ている私の心に、あの、昔感じたような、とてもやわらかくて、包みこまれるような安心感が伝わってこない

なぜだか幸せ感とは離れてしまっているよう
母は本当に満たされているのだろうか そして、幸せなのだろうか

何かに自分の幸せを証明してもらおうとしてはいないだろうか


年老いていく母にいつまでも穏やかに幸せを感じていてほしい

でも

私が母の機嫌を取って喜ばせ続けることはもうできない

ししたくない

とはっきりとわかった瞬間、うっすらとした確信が芽生えていた

「私は自分の価値観で生きていこう」と


母は、子どもを守らなければ、という状況のとき、だれにも真似できないような強さを発揮する
その強さになんども心を打たれてきた


ただ、その強さは時によってあまりにも鋭利な凶器となる

一つ間違うと人のクビをはねてしまうかのごとく


美しさの向こう側にある
   無慈悲のような冷たさ


わたしははじめて自分に「びくっ」とした


母が私に見せてくれているものは明らかにわたしが受け取りたいものでもあるのかもしれない


あんなにもぐつぐつと煮えたぎっていた怒りのマグマは鋭い刃をゆっくりと滑らかにならしていくように癒えていく
硬くて冷たい氷山の一角に
どこかから生暖かいやさしい風がほんのすこし流れていた

「あれっ…」


一瞬流れ星が視界を横切ったような錯覚を感じた


母ももしかしたらもっと自由に生きていたいのかもしれない…

誰かから受け継いだ価値観だったのかもしれないな


目線は焦点も合わぬまま遠くの方を向いていた