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史上最大規模の「フェルメール展」を観に行った話 読むアドベンチャーその②

「大至急調べてみます!ありがとう!」
と言ってあわてて自分の部屋に戻った
スマホをとりだす手は小刻みに震え、心臓はバクバク 
WiFiをつないでRijks Museum (アムステルダム国立美術館) のウェブサイトにアクセスすると、予想外の情報が…

カレンさんの言ったとおり、3月末までチケットがないどころか、もう会期中のチケットはすべて SOLD OUT !!!!!
ええええええええー―――、こんなことってあるぅぅぅぅー―――???(泣)(泣)(泣)

あたまの中は真っ白 
どないしよう…


まずは明日、ハーグにあるマウリッツハイス美術館へ行こう
そして誰かに助けを求めよう! それだけをかろうじて決め、
疲れた体をほぐそうとバスタブにお湯を張った 
暖かいお湯は疲れを癒してはくれるものの、心の中はチケットを取っておかなかったことを責めまくる自分と、それにいい訳する自分との攻防戦が続き、完全仲間割れ状態

ばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかばかーーーーーっ!
なんでチケットとっておかなかったのーーーーーっ!
だって、そんなすぐうまるとおもってなかったもーーーーん!
そもそもあなたは考えが甘いのよぉーーーーー!
そんなこと言ったってしょーがないじゃーーん!

気持ちは一向に休まらず、ベッドに入っても頭はフル回転
やれやれ寝られそうもない
ああああああぁぁぁぁぁぁー、どうなるんだろう 
もし観れなかったら、わたし何しにオランダに来たんだろう…
そんなことを考えているうちに夜が明けていった

朝9時ごろ目が覚め、昨日の疲れもとれぬまま、朝ごはんを食べるよりもまずSOSを発信するため急いで身支度を済ませ、昨日降りた駅へと足早に向かう 
オランダ滞在日数はあと3日 すでにギリギリ 迷っている暇なんかない
 デンハーグ中央駅まで行き、徒歩で20分

“マウリッツハイス美術館” 
ここにはあの映画でも取り上げられた憧れの “真珠の耳飾りの少女”が所蔵されているのだが、現在不在 
本来であればここで大作2作品を含め全3作品を十分に堪能することができたはずなのに!!!
なんで史上最大規模の展示会なんかやるのよー――――っ‼ 日本を出発する頃は史上最高自分ラッキーだったのに、状況は一転 一気に逆風モード 
どう考えても自力ではムリだ 
よしっ、だれかに交渉するんだ!!
日本からはるばるこのために来たんですぅぅぅぅぅ(涙) 
この手で泣きつこう

作戦を練りながらiPhone片手に歩いていくと、ビネンホフという歴史ある建物群の一角にマウリッツハイス美術館は静かにたたずんでいた 何とも言えず優雅で物静かな様子に、先ほどまでの憤りがほんの少しだけ落ち着いた この中にはフェルメールだけでなく、オランダを代表する画家、レンブラントやルーベンスの作品だってじゅうぶん見ごたえがある
そう思ったらまずはゆっくりこの時間を堪能しよう、と心に決めて館内へと入っていった チケット売り場では、オランダ国内の美術館すべてが見られるフリーパスを紹介されたが、そもそもRijksMuseumでのフェルメール展を観られるかどうかもわからないため、単独チケットにした 
そしてすかさず
「あのー、すみません フェルメール展のチケットはもう手に入らないですよねぇ?」
と上目づかいに聞いてみると
「そうですねぇ、売り切れと聞いています」
という月並みな返答が返ってきた やっぱりだめか・・・

コートを脱ぎ、お隣のクラークへ預ける ふと後ろを振り返ると、ちいさなインフォメーションブースで優しそうなおばちゃんが微笑んでいる その笑顔に引き寄せられるように寄っていくと
“Hi! How can I help you?”
と丁寧な対応
「実は、私はフェルメール展を観るためにはるばる日本からやってきたのですが、オンラインチケットはもう売り切れているそうなんです(涙)何か方法はありませんでしょうか?」とウルウルとした目で訴えかけると
「んー、ちょっと待ってね」
と言い、先ほどコートを預けたクラークまで行ってその話をするとなにやら手立てを考えてくれたようで
「あのね、あと30分ほどしたら責任者が戻ってくるから、その話をしたらなにか方法が見つかるかもしれない。30分後に戻ってきてくれる?」
の返答に、思わず心の中で “やったーぁぁぁぁっ!” とガッツポーズ!
「はい、わかりました!」
と言ってとりあえずミュージアムショップへ向かった

小さなショップだったけれど、めずらしいものがたくさん置いてあって、あれやこれやと見ているのだが、どうも買い物に集中できない しまいにはだんだんそわそわしてきて、ちらちらとクラークの方を確認しながら、責任者らしき女性が戻ってきたかどうかチェックしていた
しばらくして、“おそらくあの方だ!”と思われる方が戻ってきたのがわかると、早々に会計を済ませ、先ほどのインフォメーションまで行って、「責任者の方は戻ってきましたか?」と半ば催促するように聞くと、彼女の姿を確認するなり、わたしと一緒にその方の方へ歩いて行ってくれた

私の状況を説明すると、責任者の方は
「困ったことにチケットはすべてSoldOutしてるのよー 私たちもこんな事態になるなんて予測してなくてね」
と言われ、ここであきらめるわけにはいかない、と思い
「私、フェルメール展を観るためにわざわざ日本からやってきたのですぅぅぅ(涙)(涙)何とかなりませんでしょうか???」
と伝えると
「わかるわー そういう人きっとたくさんいるんだろうからね・・・
今ね、アムステルダム国立美術館の方でもこのことが大きな問題になっててね。対応に困ってるの。4月になったらマウリッツハイス所蔵の作品は戻ってくるから、もう一度ここに来るっていうのはどうでしょう?いま考えられるのはその方法しかないと思うの。」

ししししししし、しぃがぁつぅぅぅぅうううー――――!
もう日本に帰ってるわー―――!

一緒に方法を考えてくれたインフォメーションのおばちゃんと、責任者の方にお礼を言って、これ以上ここで粘ってもダメだ、切り替えて作品を観よう、と館内を周り始めた

ところでこのマウリッツハイス美術館、ロビーはとても開放的で人々がリラックスした様子で会話を楽しみ、穏やかで優雅な雰囲気がとても印象的だった
名作もたくさん所蔵しており、レンブラントの“テュルプ博士の解剖学講義”という作品はもう圧巻 さらに、レンブラントの自画像、ルーベンスによる“アダムとイヴの堕落と地上の楽園”、“聖母被昇天”も壮大な世界観を描き出していた また、ボズハールトによる豪華絢爛な花を描いた作品も見事だった
ここでフェルメールを観ることが出来なかったのは本当に残念だったけれど、それ以外の画家の作品を存分に愉しむことができた至福の時間だった そして、もう一つ関心したことは、幼稚園のかわいらしい児童たちが先生に連れられてやってきて、作品の前にみんなで座り、先生が絵画についての説明をしている光景だった こんなに小さいころから名画と触れ合える時間があるなんて、情操教育が発達しているんだな・・・と日本との教育の違いが興味深かった

私の心の中は芸術鑑賞で満たされた充足感と、先に希望が見えず折れそうになった絶望感とが共存し、激しいアップダウンを一気に体験した後のような疲労感が沈殿していた 
美術館を出るとごはんを食べていなかったことを思い出し、急におなかが空いてきた ガイドブックに載っていたカフェを探し少し遅めのお昼にフムスと野菜がたっぷりのサンドイッチと白ワインを飲みながらひと息ついた 今日はこのあとデルフトへ向かう予定になっている デルフトはここデンハーグからトラムに乗って15分 フェルメールの故郷であり、代表作「デルフトの眺望」が描かれた場所を眺めることもできる よしっ、フェルメールを少しでも感じたいから彼の故郷へ行こう くたびれた心を奮い立たせてカフェを後にした

つづく