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低学年からできる!考え議論する道徳授業

1年生の道徳をやっていく中で、難しさを感じていることがある。

それは、課題設定の難しさである。道徳では、発問(主発問)が課題にあたると考える。課題の難易度を高めて、どんどん考えさせればいいという発想は通用せず、1年生という発達段階に合った質を追究していかなければならない。

そうでなければ、子どもたちがポカーンとして、何も議論が生まれないという事態になる。よくよく考えれば、発達段階に即した課題を設定することは当然のことだ。しかし、それが発問となると、そこまで学年を考慮せず同じような問い方をしてしまっていた。

1年生に即した質の高い発問を考える必要がある。一人一人の思考が働き、議論を通して考えを広げ深めていけるような発問がよい。つまり、1年生に求められるのは、「難易度は易しく、でも質は高い発問」だ。

まず道徳の発問において、難易度を決めるものは何か。具体は易しいが、抽象は難しい。経験のあることは易しいが、経験のないことは難しい。といったところが思い付く。

私の考察では、具体的で経験のあることを問いかけた方が考えやすい

では、質はどうか。全員が分かりきっていることを問いかけても思考は働かず、議論も生まれない。これは質の低い発問と言える。逆に、よく考えないと分からないこと。いくつかの考えが生まれ、揺れ動くこと。それぞれの考えにズレが生まれること。これらは思考が働き、議論を生む

小山・道田氏らの『「問う力」を育てる理論と実践』では、問いが生まれるメカニズムの1つとして、知識対立仮説が紹介されている。すでに持っている知識と新しい知識が対立する際に問いが生まれるというものである。

この知識対立仮説を使えば、質の高い発問を生み出しやすくなる。今まで知っていた知識とは対立するような知識をぶつけたり、どっちの方がよいのか揺れ動くように仕掛けたりすることで、思考が勝手に働き出し、議論も必然的に起こるような授業が可能になるのではないか。

先ほどの難易度と組み合わせると、1年生に即した最適な発問は以下の通りだ。

具体的で経験のあることだが、今まで知っていた知識とは対立していたり、どっちの方がよいのか揺れ動くような発問。

1年生の道徳教材『ダメ!』で発問を考えてみる。内容項目は「善悪の判断、自律、自由と責任」で、ねらいは「自分で考えたことを行動に移すよさや難しさについて考え、よいと思うことを進んで行おうとする心情を育てる」と設定している。

以前、私が行った授業では、以下のような発問を投げかけていた。

◯だめだとわかっているのに、どうして言うか迷っていたのだろう。

これは、勝手にプリンを食べられ、自分が嫌な思いをし、相手が悪いことをしていると分かっているのに、ダメと言えなかった主人公りすくんの心情を問い、人間理解に迫る発問である。

◯恐いくまくんに、どうして言うことができたのだろう。

これは、恐い存在のくまくんに対して、りすくんが嫌だったこと、謝ってほしいということを伝える場面を取り上げ、言うことができた理由を問い、価値理解に迫る発問である。

この2つの発問によって、人間理解や価値理解に迫っていこうと考えていたのだが、子どもたちはさほど思考を働かせていないのではないかと感じた。一部の子から答えは返ってくるのだが、どこか分かりきったことをただ言っているに過ぎず、そこに思考が働いているようには思えなかった。むろん、考えが思いつかない子はもっと思考できていない可能性が高い。

先ほどの考察に当てはめると、2つとも難易度が高く、抽象化思考力を要求するものである。さらには、知識の対立もなく、揺れ動くこともない。一部の子どもだけが正解のようなものを探し、他の子はポカーン。そんな発問になっている。

では、ねらいに迫ることを外さずに、具体的・部分的で経験のあることだが、今まで知っていた知識とは対立していたり、どっちの方がよいのか揺れ動くような発問を考える。桂聖氏の『「Which型課題」の国語授業 「めあて」と「まとめ」の授業が変わる』を参考にして、道徳授業に転用した。

りすくんが、「いやだったんだ。あやまって!」と言ったことに賛成?反対?

[1すごく反対-2ちょっと反対-3ちょっと賛成-4すごく賛成]の4段階で選択させ、その理由・根拠を問い返していく。

この発問は、りすくんの言ったことに「賛成か反対か」を選ぶので、具体的で答えやすい。嫌なことをされた経験は誰しもあるはずなので、はっきり言ったことがある・ないの違いはあれど、経験を根拠に考えることはできる。この発問なら全員が参加できると言えそうだ。

さらに、子どもたちはどれがよいのか揺れ動くことになる。思考が勝手に働き出し、議論も必然的に起こる発問と言える。どれを選ぶか(考え)、どうしてどれを選んだのか(理由・根拠)、子どもたち同士でズレが生まれる。

実際の授業では、以下のような話し合いになった。

・言わないとずっとこのまま

・ずっとくまくんにやられる

・嫌な気持ちのまま

・言わないと意味がない

・でも、ちょっと言い方が強いのが…

・大きな声で言わないと伝わらないよ

・言った方がいいけど、難しいな

・言ったら嬉しい気持ちになる

・すっきりする

・仲良くなって温かい気持ち

・くまくんも優しくなってよかったよね

悪いことをしたくまくんに、そのことを伝えることの大切さ。

これから嫌な思いをしないために言う強さ。

一方で伝えることの難しさなど、様々なことを考えられる話し合いになった。以前の発問に比べて、子どもたちの思考は活発に働き、議論も盛り上がった。

ねらいとする「自分で考えたことを行動に移すよさや難しさについて考え、よいと思うことを進んで行おうとする心情を育てる」にも迫れた授業展開になったと感じる。

今後も継続して道徳の発問研究を重ね、1年生に即した質の高い発問を考えていきたい。

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