【へなちょこライダーが行く!Web版】Day.0:迷えるアラサー女の決心
若くもないし、熟してもいない。二十九歳って、ホント中途半端な年齢だな。
職場にはいつの間にか後輩が増えている。その透き通るぴちぴちの肌を見ては、目尻のシワが気になり始めた自分と比べて、思わずため息が漏れる年頃。そんな私を、
「けっ、まだまだ青いわね」
とせせら笑う三十路過ぎの先輩たちに、熟れ始めのお色気を見せつけられて、自分の幼さに恥ずかしくもなる年頃。
これで結婚をして子どもでも産んでいれば、話は違うんだろうな。少なくとも、女としての重大任務を終えて母になった私の友人たちに、年齢に対する焦りや戸惑いなんてありそうに見えないし。
でも私はまだ独身。親しい友人たちはこぞって結婚しているのに、なぜか私だけ、不覚にも独り身だ。だから生活のほとんどを仕事に費やして、毎月、銀行口座に振り込まれるお給料の額を見ては、この中途半端な年齢をなんとなく感じ取る、そんな二十九歳の春……。
会社を辞めた。
それまでの仕事が合わなかったわけではない。ただ、マドンナのCDを聴いて魂が震えた中学生のときからずっと、英語に触れているのが大好きだったものだから、せっかく身に着いた語学を活かせる仕事をしたいという、年相応のこだわりを捨て切れないでいたのだ。転職をするのなら、二十代最後の今しかない!
そうして、わりと待遇のよかったインターネット関連会社を辞めて、某自動車メーカーの貿易部門で英語の職に返り咲き三か月。しばらく使っていなかった語感は、おもしろいようによみがえってきた。この転職、吉と出た! と、喜びを噛みしめたのも束の間、こともあろうに人間関係に躓いた野暮な私。毎日胃が痛むので病院に行ったら、お医者さんが、
「ストレスですね。もうすぐで穴が開くところでしたよ」
と言って、診断書を書いてくれたのだった……。
再び会社を辞めることを決めてから、これからのことを考えた。でも、また同じ失敗をしてしまうかもと思うと、新しい環境に身を置くことに憶病になった。まずはとにかく静養しなくてはいけないけれど、家に閉じこもっているのもどこか違った。思わぬ落とし穴に落ちた、迷えるアラサー女。どうしよう? 次にしなくてはいけないことは何だ?
そうして幾日が過ぎただろうか。考えることに疲れ果て、私は焦ることをやめた。この際、勇気を出して、したいことをしてみちゃうのはどうだろう? それならば……。
北海道バイク旅!
一年半前にバイクの免許を取ってツーリングにハマっていた私にとって、大好きな北海道をバイクで走ることは、いつか叶えたい夢だったし、何より無性に〝寄り道〟をしたい気分だった。自分にとって大切な何かが、思わぬところに落ちているかもしれない。そんな期待混じりのちょっとした予感が、真っ暗だった明日を薄っすらと照らし始めた。
会社を辞めた次の日、東京を発った。
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『へなちょこライダーが行く!』Web版
バイク旅エッセイ『へなちょこライダーが行く!~迷えるアラサー女の北海道バイク紀行~』(デザインエッグ社)のウェブ版です。ウェブ版の特典とし…
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