見出し画像

【へなちょこライダーが行く!Web版】Day.0:迷えるアラサー女の決心

 この紀行エッセイは、著者が2003年に執筆し、モーターマガジン社『ゴーグル』に約半年間抜粋連載されたバイク旅行記『へなちょこライダーが行く!』に加筆修正を施した本『へなちょこライダーが行く!~迷えるアラサー女の北海道バイク紀行~』(デザインエッグ社)のウェブ版です。ウェブ版の特典として、本に未収録の写真と、当時を振り返っての著者のコメントをお楽しみいただけます。なお、話の中に出てくる施設や道、店舗等についての記述は、現在の情報とは異なる場合があります。
Amazonで紙書籍版を販売中! 

表紙・扉絵 小西珠美

 若くもないし、熟してもいない。二十九歳って、ホント中途半端な年齢だな。
 職場にはいつの間にか後輩が増えている。その透き通るぴちぴちの肌を見ては、目尻のシワが気になり始めた自分と比べて、思わずため息が漏れる年頃。そんな私を、
「けっ、まだまだ青いわね」
 とせせら笑う三十路過ぎの先輩たちに、熟れ始めのお色気を見せつけられて、自分の幼さに恥ずかしくもなる年頃。
 これで結婚をして子どもでも産んでいれば、話は違うんだろうな。少なくとも、女としての重大任務を終えて母になった私の友人たちに、年齢に対する焦りや戸惑いなんてありそうに見えないし。
 でも私はまだ独身。親しい友人たちはこぞって結婚しているのに、なぜか私だけ、不覚にも独り身だ。だから生活のほとんどを仕事に費やして、毎月、銀行口座に振り込まれるお給料の額を見ては、この中途半端な年齢をなんとなく感じ取る、そんな二十九歳の春……。
 
 会社を辞めた。
 
 それまでの仕事が合わなかったわけではない。ただ、マドンナのCDを聴いて魂が震えた中学生のときからずっと、英語に触れているのが大好きだったものだから、せっかく身に着いた語学を活かせる仕事をしたいという、年相応のこだわりを捨て切れないでいたのだ。転職をするのなら、二十代最後の今しかない!
 そうして、わりと待遇のよかったインターネット関連会社を辞めて、某自動車メーカーの貿易部門で英語の職に返り咲き三か月。しばらく使っていなかった語感は、おもしろいようによみがえってきた。この転職、吉と出た! と、喜びを噛みしめたのも束の間、こともあろうに人間関係に躓いた野暮な私。毎日胃が痛むので病院に行ったら、お医者さんが、
「ストレスですね。もうすぐで穴が開くところでしたよ」
と言って、診断書を書いてくれたのだった……。
 再び会社を辞めることを決めてから、これからのことを考えた。でも、また同じ失敗をしてしまうかもと思うと、新しい環境に身を置くことに憶病になった。まずはとにかく静養しなくてはいけないけれど、家に閉じこもっているのもどこか違った。思わぬ落とし穴に落ちた、迷えるアラサー女。どうしよう? 次にしなくてはいけないことは何だ?
 そうして幾日が過ぎただろうか。考えることに疲れ果て、私は焦ることをやめた。この際、勇気を出して、したいことをしてみちゃうのはどうだろう? それならば……。
 
 北海道バイク旅!
 
 一年半前にバイクの免許を取ってツーリングにハマっていた私にとって、大好きな北海道をバイクで走ることは、いつか叶えたい夢だったし、何より無性に〝寄り道〟をしたい気分だった。自分にとって大切な何かが、思わぬところに落ちているかもしれない。そんな期待混じりのちょっとした予感が、真っ暗だった明日を薄っすらと照らし始めた。
 会社を辞めた次の日、東京を発った。

2002年、バイクの免許を取って初めて迎えた春の輝きは今でも忘れられない! 初めての愛車、ホンダCBX125 Customと、近所を走るだけでも心臓バクバクの大冒険で、「バイクがあれば大好きな北海道も気ままに旅できるのか!」なんて気づきにもまだほど遠かった若かりし時代です(照)

⇒『Day1:7月1日 旅立ち』へ

ここから先は

0字
ウェブ版の特典として、本に未収録の写真と、当時を振り返っての著者のコメントをお楽しみいただけます。有料の20章をバラで購読するよりもこちらのマガジンでまとめ買いしていただいた方がお得です。

バイク旅エッセイ『へなちょこライダーが行く!~迷えるアラサー女の北海道バイク紀行~』(デザインエッグ社)のウェブ版です。ウェブ版の特典とし…

よろしければサポートお願いします。いただいたサポートは執筆のための活動費として大切に使わせていただきます。