自意識との闘い 【西加奈子『舞台』】
躊躇いの柵を乗り越えられない人間10年以上前、大学のゼミの先輩(男)と二人で電車に乗ったときのこと。
ゼミの後だったか飲み会の帰りだったか、夜のそこそこ混んだ車内で、座席はほぼ埋まっていた(東京都内のJR線だった)。先輩とは何かしらの話をしながら乗り込んだのだったと思うが、二人とも埋まった座席の前に立って吊革につかまったあたりで、先輩がふと黙った。あれ?と思っていると、先輩は突然私とは遠い方の斜め前あたりに座っていた男性に声をかけた。
一言二言の会話の後その男性は席を立ち、私