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大事なことを見落としてはならない。 【映画『永い言い訳』】

夫婦なんてもの、始まりから終わりまで、そのほとんどが日常のために存在する。
日常のなかで、果たして人生で何度、心の内側を見せ合って、相手と向き合えるだろうか。
いいことも悪いことも、得てして後から気が付くものだから
大事なことを今、見落としているかもしれないと、我が身を振り返らざるを得ない映画だ。

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『永い言い訳』
脚本・監督 西川美和
主演 本木雅弘

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人気小説家の津村啓こと衣笠幸夫(本木雅弘)の妻で美容院を経営している夏子(深津絵里)は、バスの事故によりこの世を去ってしまう。しかし夫婦には愛情はなく、幸夫は悲しむことができない。そんなある日、幸夫は夏子の親友で旅行中の事故で共に命を落としたゆき(堀内敬子)の夫・大宮陽一(竹原ピストル)に会う。その後幸夫は、大宮の家に通い、幼い子供たちの面倒を見ることになる。 (シネマトゥデイより)

序盤から、モックン演じる幸夫の薄っぺらさが痛いほどリアル。
出来すぎた弔辞を読む"悲しげ"な顔も
不倫相手に「馬鹿な顔」と言われた後の呆けた顔も
花見の席で編集者に「温度がない」とか「もう書けないんじゃないか」と核心をつかれたときのムキになった顔も
どれも浅ましくて卑しくて、でもそれってものすごく人間くさい。

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自宅では荒れた生活をしている幸夫が、真平と灯といるときには、やたらときちんとしようとする。
子供がいると、大人は急に人間らしい生活を営もうとするものだなと思う。

自分だってそうだ。
ひとりでいたらいつまでもだらだらしたり散らかり放題だったりするんだろう。
子供がいると時間がないとか世話が大変とかつい色々言ってしまうけれど、大人は子供のおかげで、大人になれている。
子供に「大人にしてもらってる」んだなと思う。

慣れないながらも一生懸命子守をして、少しずつ子供たちと心を通わせていく幸夫の姿は、見ていて微笑ましい。
たとえそれが「免罪符」と言われようとも、手のひらに実感の伴うものとして向き合える子供の存在は、確実に関わる者の何かを変えて行く。

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中盤、海辺で遊ぶ子供たちに駆け寄り混ざる夏子の幻影。
そのときの夏子が、ひどくうつくしくて泣きそうになる。

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ー人生は、他者だー

夏子が生きていたら、幸夫はそれに気づくことはなかった、間違いなく。

夏子の死後に夏子との関係や自分自身と向き合い、遠回りをしてやっと辿り着いた答えのようなものを
例えば夏子が生きている世界で元のままの幸夫に誰かがそっと教えてあげたとしても、幸夫は鼻で笑っただろう。
まあそういうこともあるかもしれないけれど、俺は違うね
なんて言って片眉上げて。

大切なものはなくしてから気がつく。
使い古されてきたこんな言葉で済ませたくはないけれど、これ以上に的を射た言葉もない。
なくなったからこそわかる。
なくなったものは戻らない。
逆に言えば戻ってくるものなら、気づくことさえない、わかりようもない。

他者がいなければ、自分はなんのためにいるだろう。

助けを必要としている、助けるべき対象の弱い立場として登場した陽一・真平・灯。
実は立場は逆で、そのときの幸夫にとって、彼らが生きる拠り所になっていたのだろう。
「必要とされる」ということが、どんなに原動力になることか。

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書くひとは書くことでしか救われない。
そういうラストだった。

ずっと空虚な目をしていた幸夫。
それがラストには色を、温度を取り戻した。
"悲しげ"ではなく、ささやかだけど本物の悲しみを携えた目。

良かった、グッドなエンディングだ。

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陽一役の竹原ピストルさん
不倫相手役の黒木華さん
編集者役の岩井秀人さん
マネージャー役の池松くん
それと真平に灯という、子役の二人
脇を固める役者陣が最高でした!

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子供の就寝後にリビングで書くことの多い私ですが、本当はカフェなんかに籠って美味しいコーヒーを飲みながら執筆したいのです。いただいたサポートは、そんなときのカフェ代にさせていただきます。粛々と書く…!