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いかなごとプチジェラシー

私の住む兵庫県の南の地域の春の風物詩に「いかなごの釘煮」があります。
たくさん炊いて冷凍して大事に食べますが、GW前には全て食べ切ってしまうこの佃煮。昔はご近所さんや友人とお互い炊いたものを交換したりする風習もありました。
今日はそんな いかなごメモリーズを綴ろうと思います。


いかなごとは、淡路島、明石、神戸などで水揚げされ、その時期が短く、3月に入ると「いかなご解禁日」をチェックして、店に並ぶか予約することになります。価格も時期によって大きく変動し、18年前には1キロ800円程度でしたが、最近では高い時には1キロ4000円にもなることもあります。いかなご愛が加わると、話が長くなるので今回は割愛します。


食べ物には、その匂いや音、食べた時の思い出がつきものです。特に五感を刺激された思い出は、深く残り忘れられないものです。

このいかなごの釘煮は、炊いている時の香りが私の記憶に深く刻まれています。醤油、味醂、ざらめ、生姜といったシンプルな材料で作られ、30分ほど炊くと、甘い香りや醤油の香ばしい香りが家中に広がります。道を歩いていても「あ、炊いてるな」とわかるほど香ってくるのです。
イカナゴの季節には、祖母や母の立ち姿、最後にお鍋を振って「照り」を出す様子など、一連の記憶が蘇ります。毎年幸せを感じられる瞬間です。毎年炊き続ける理由はそれなのだと思います。

そんな「いかなごの釘煮memories」には祖母や母の思い出、3月に妊婦で出産を間近に控えていた時の思い出など、色々な思い出が詰まっています。
そこに、4年前に鹿児島で、息子の友人のおじいちゃん(ママ友のお父様)のいかなごの思い出が加わりました。それはとても愛しいもので、クスッと笑ってしまうようなものです。

当時、私の息子の選んだ学校が鹿児島県にあったので、私は何度も関西からPTAや参観日、文化祭などに鹿児島に通いました。その過程で地元の方々と交流があり、宿泊させていただいたり、一緒に体育祭のお弁当を作ったりしました。

中高一貫校でしたが、節目の中学の卒業式。コロナが落ち着いて久しぶりに鹿児島に訪れる機会がありました。関西土産を持参して友人宅で夕飯を一緒に用意して、3年間の思い出を振り返っる時間。色々あった3年間。涙なしには語れない時間を過ごしました。

鹿児島に行くと、帰りにはいつもたくさんの野菜をいただきました。その時の春に泊まったお家で、鹿児島のおじいちゃんが「これも持って帰りなさい!」と、いかなごの釘煮がパンパンに入った容器を3つも持たせてくれたのです。しかも、そのいかなごは神戸から来たものでした。
しかもこの年はいかなごが高い年!

「これイカナゴですよね!?しかもこんなにたくさん!」と驚き、ひとしきりいかなご愛を伝えた後、せっかくだからおむすびを作らせてもらいました。


イカナゴ✖︎生姜✖︎ごま油、✖︎紫蘇 をこのおむすび🍙は友人から教わったもので、いかなごの季節には必ず作ります。本当に美味しいのです。


おにぎりはみなさん喜んで食べてくださいました。そんな美味しいいかなごを、なぜかおじいちゃんは、全部私に持って帰れというのです。

その時、おばあちゃんが寝室からご機嫌に登場。
このいかなごの話をしてくれました。
おばあちゃんは、看護師として若かりし頃、日本各地を転々として働いていたそうです。大阪で働いていたときに、おばあちゃんを気に入って結婚したいと思っていた方がいたそうで、その方はおばあちゃん移動になり、その後会えなくなってしまったとのことでした。その方と何かのご縁で再会し、現在は奥様に先立たれた神戸に住んでいるというのです。いかなごのお便り便で交流が再開され、毎年、その方が作ったイカナゴのくぎ煮を鹿児島に送ってくれるのだそう。お礼の電話をするだけで、それ以上のことはないと微笑むおばあちゃんに、「いらんなー」と苦笑いのおじいちゃん。

そして、おじいちゃん、シレッとほぼすべてのいかなごを私の荷物の横に移動。イカナゴの話になるとちょっとイライラしてるように見えるおじいちゃん。笑  私は笑いを堪えるので精一杯でした。

というわけで、鹿児島にいったのに、私は地元のイカナゴ釘煮のパックを3パックもいただいて帰ってきたのでした。


春の訪れの季節、イカナゴのくぎ煮を炊いていると、もしかして、鹿児島に送るいかなごは今年も炊かれているのか?とふと思い出し、おじいちゃんのプチジェラシーと、おばあちゃんのちょっとした優位さを漂わせる空気を思い出してクスッとしてしまいます。

そんないかなごの釘煮はいつも3月に炊き、冷凍しますがGWを迎える頃には全てなくなります。そして初夏の季節がやってきます。
今回はそんな思い出と共に、来年ようにレシピを書かせていただきます。

思い出の香り、どんな香りがありますか?
懐かしい香りに触れて、目をつぶってみるとタイムスリップできる感覚になります。 香の記憶ってすごいものだなと思います。


【いかなご2キロ レシピ】

土生姜 120g
中ざら糖 370g
醤油 400g
酒 120g
みりん120g

*山椒やレモンを加えるのもおいしい。
最後に胡麻を煎って加える

作り方
調味料を煮立たせ、いかなごと土生姜を交互にまんべんなく少しずつ入れて 落とし蓋をして強火で30分
煮汁が見えにくくなるまで中火で煮て、最後は強火で照りが出るまでお鍋の中で何回もひっくり返す。(注意点:お箸で触るのは🆖)

テリとツヤのために最後にお鍋を持ち上げて揺さぶる作業をし、新聞の上にざーっと広げる。




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