ま、プリン食べよっかな。
あれは6月15日だった。
たしか、木曜日。
娘を通所施設に送り届けたあとだから、午前10時過ぎ。
いつも行く大型スーパーの駐車場が、めちゃくちゃ混雑していた。
何で?
何か売り出し?
火曜特売じゃないのに。
店の入り口近くの駐車場では、数台の軽自動車が空くのを待ってウロウロしている。
私は入り口から1番遠くの隅っこに車を駐車して、「運動、運動」と言いながら、早歩きで店の入り口へ向かって歩いた。
店内に入ると、なんだかいつもと店の雰囲気が違う。
お年寄りの方たちでいっぱいだった。
だから店の入り口近くに駐車したい車がたくさんいたんだな、と納得。
流れて来た店内放送で、混雑の理由がわかった。
「毎月15日、55歳以上の方は全品5%オフの日です」
今日はその15日。
なるほど、なるほど。
だから、年配の方々が多いのかぁ。
書いてきたメモを片手に、いそいそと買い物カートを押していると、めちゃくちゃ混雑している売り場があった。
お惣菜売り場だ。
揚げ物やお弁当を、いくつもいくつもカゴに入れているおばあちゃん。
真剣にお寿司を物色するおじいちゃん。
2人分の揚げ物って、めんどうだろうし、さっと食べられる物が助かるんだろうなぁ。
そして、パンやお菓子売り場もたくさんの人。手軽に食べられるから、ついついこういう商品が売れるのかな。
自分の買い物はそっちのけで、人生の大先輩たちを観察してしまう。
特に、老夫婦の様子に目が行く。
牛乳を奥から一生懸命に選ぶおばあちゃん。
プリンを買い物カゴに入れて、おばあちゃんから叱られるおじいちゃん。
見切り品コーナーで立ち止まるおばあちゃん。
お酒売り場で立ち止まるおじいちゃん。
必死でお刺身を選ぶおばあちゃん。
それに気付かずに、カートを押してどんどん行ってしまうおじいちゃん。
そんな様子を目の当たりにして、しみじみと、ただしみじみと頷く私。
レジも長蛇の列。
お年寄りご夫婦に挟まれて長蛇の列にいったん並ぶと、前のご夫婦の話し声が聞こえてきた。
「お昼どうする?家には味噌汁しかないんやわ。」
と言って、ランチでも行きたそうな口ぶりのおばあちゃん。
「味噌汁があれば、いいやろ。」
と言う、鈍感なおじいちゃん。
スーパーの隣の丸亀製麺にでも、2人で行っちゃえばいいのに。
美味しいのに。
そういうの、妻さんは嬉しいのに。
そう思いながら、私は左右のレジの長い列を見渡して、ふと我に帰る。
あかん、まだ私は「本日のお買い得チーム」じゃないわ。
カートを90度回転させて、わりと空いているセルフレジへスマートに移動した。
セルフレジでも、店員さんを呼んで訊いている年配の方がたくさんいて、お会計にも四苦八苦していた。
年老いた母や義母が、ひとりで不器用に買い物する姿が浮かび、胸がチクリとする。
帰りに、店の端っこにあるATMコーナーに寄ると、またまたすごいお年寄りの列だった。
「そうか、年金受給日だったんだ!」とようやく気がついた。
なるほど、だから、15日をお年寄り感謝デーにしているのか。
お金が入る日に、安く買える。
お金が入る日に、たくさん買ってもらえる。
ウィンウィンだけど、なんだかちょっと、モヤッとした。
そして、55歳以上っていうのにも、あらためてモヤッとする。
もうすぐ私も、その仲間だ…。
お年寄りかぁ。
55歳って、どうよ。
ストライクゾーンが広すぎるでしょ。
親切なんだか、失礼なんだか。
まだまだヤングだと思うんだけど。
「ヤングって、死語でしょ!」
列に並んでいる間、ぐるぐると巡っていた脳内のひとりごとに、ボソッと自分でツッコミを入れた。
そのうち、この行きつけのスーパーで、私も15日を狙って、張り切って買い物をするのかな。
みんな、切り詰めたり、安く手に入れたりしながら、つつましく頑張っている。
歳を取れば買い物って大変だけど、自分で買い物できるって楽しいことだから。
この光景は、きっと、幸せな光景かな。
なかなか進まないATMの列に並びながら、カートの上の大きなマイ保冷バッグに目が行く。
慌てて入れたから、プリンがやばいな。
大事なプリンが、お魚と冷凍枝豆に踏まれているのをイメージした。
おばあちゃんに叱られつつも、ちゃっかりプリンをゲットしていたおじいちゃんの真似をして、思わず私も、同じプリンを自分のために買っていたのだ。
これは、頑張って娘を連れ出した私へのご褒美プリン、と理由づけをして。
バックの中の私のプリンよ、がんばれ!と思った。
おじいちゃん、おばあちゃんもがんばれ!と思った。
私も、私の毎日をがんばるから。
とりあえず、帰ったら、プリン食べよっかな。
あのおじいちゃんと、プリンで乾杯!の気分で。
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