PAUL_邦題_宇宙人ポール_

宇宙人ポールのはなし。


これはごく最近の話なのだけど、人生で初めて相手から一方的に別れを切り出された。自分の「相手に対する好意」の行き場がなくなり、どうしていいかわからなくなって、ありきたりだが何をする気も起きなかったとき、友人に勧められた作品。


「宇宙人ポール」

ただのコメディだと思っていたがところがどっこい。
めちゃくちゃに素晴らしい作品だった。

SFヲタクのクライヴとグレアム(非常に覚えにくい)がアメリカ版コミケのような祭典とSF聖地巡りのためにキャンピングカーで旅をしている途中に宇宙人のポールと出くわし、ポールの逃亡を手助けするというストーリー。

主人公2人は今をときめく俳優でもないし、一緒に出てくるのはかわいさの欠片もない宇宙人。中身は親戚のおっさんのような下品で少し破天荒な性格。もはやおっさん3人の話である。


ちなみにポールは見た目は多少あれだが、ハードボイルドだ。クライヴとグレアムより12倍は男前。クライマックスのあのシーン。ポールに惚れない人間はいないと思う。ぼくは「それは反則だぜ、ポール」と心で呟いていた。
ぶっきらぼうでダークな部分はあるけどそれは宇宙人と人間の文化の違い。
ここぞという時に男女関係なく心優しく寄り添ってくれる人がモテるのは人間だけではないらしい。肝に銘じておこう。




この映画、コメディの内容はもちろんのこと従来のSF映画に対するオマージュがたくさん散りばめられている。たまらん。たまらん。
あまりネタバレはしないようにしたいが、スピルバーグが本人役で音声出演している。(小声)
どうやらあの有名映画のシーンのアドバイスをポールがしていたらしい。恐るべしポール。


ぼくはテッドのような下品なアメリカンジョークがどうしても肌に合わなくてあまり笑えないのだけど、この映画で出てくる下品なジョークにはユーモアがある気がした。というのも、言い慣れていない感がすごいのだ。否めない童貞感。そこに安心してしまうぼく。もしかして童貞か?

わかりやすいユーモアというより、細やかなユーモアがたくさん挿入されていて終始ニヤニヤ観ていられた。

この物語の主人公達はきっと、冴えない生活をしていたんだろう。まぁまぁ売れている作家にも関わらず、だ。どの地域に行ってもヲタクと呼ばれ馬鹿にされている描写があった。いつだってマイノリティーは淘汰される。だけどマイノリティーは強く、優しい、というかまともだ。


ポールが「何もわからないのに、助けてくれてありがとう」
というシーンがある。

本当にそうなのだ。
彼らはずっと目的地を言われていなかった。なのに自分たちの旅を中断して、ポールと一緒に逃亡生活を送る。並大抵の人間じゃできない所業に間違いない。何が彼らをそうさせるのか。ぼくはそこにマイノリティーならではの強さを感じた。


少し話はそれてしまうが、大学生の頃映画館で映画を見ていた途中、突然おばあちゃんが入ってきた。物語はクライマックス、しかもたしかSPECだった気がするからおばあちゃんが1人で観るような作品ではない。
おばあちゃんはチケットを見たいのだろうが暗くてよく見えないのか、明かりを求めてスクリーン中央で立ち止まってしまった。
おばあちゃん、、さすがにそこは反感をくらってしまうよ。
周りは舌打ちするだけで誰も動かない。日本人の悪いところだぞ、と思いながらぼくは映画を諦めて、おばあちゃんと外に出た。
そのおばあちゃんは案の定違う作品のチケットを持っていた。上映までまだ時間があったので、ぼくはSPECには戻らずおばあちゃんと雑談していた。
もともと友人に無理矢理誘われて鑑賞していたのでどうでもよかった。
おばあちゃんと話すことはぼくにとって有意義だった。後で合流した友人からはもったいないと散々言われたが、何ももったいない時間を過ごしてはない。しいて言えば、おばあちゃんがスクリーン前で止まってしまって、誰も動かなかったあの5分間が1番もったいなかった時間。



あら、何を言いたいのかわからなくなってしまった。マイノリティーが強いという話だったけどこれはまたいつか書きたいなあと思う。悲しさや辛さを体験している人間は強くて魅力的だと個人的には思っている。



ポールも言っていたが「たまには冒険は大事」ということ。忘れないで生きていきたい。たまにはうんと変なことしましょう。きっと面白い。

変なことが思いつかない人はとりあえず宇宙人ポールを見てみればいいんだと思う。