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ほんの少しだけ、小説を書いてます。 noteでは日々の出来事、感じたことをなどについて、自分なりの思いをつぶやくイメージで書いていきたいと思います(時に創作も)。

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  • 小説

    noteに投稿した小説をまとめたマガジンです。

  • ゆるエッセイ

    ゆるくて、軽く読めるエッセイをまとめています。

  • 食にまつわるストーリー

    食事や食べ物にまつわるエピソードなどをまとめています。

最近の記事

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【ショートストーリー】モスグリーンのセーター

 空には、半月からやや膨らみ始めたくらいの月が、少し傾いだように浮かんでいる。  湿気が多く、街並みや道路を走る車のライトが、細かい水滴のプリズムを通して見ているみたいに鮮やかだった。仕事帰りの夜だった。駅の階段を登り切った後、直之は電車のやわらかな、緑色のベルベッド生地でできたようなクッションの上に疲れた体を投げ出した。車内には化粧品と香水と汗と、それから何か食べ物のようなものが混じり合ったような匂いが漂っていた。いつもの匂いだ。外はもうすっかり暗くなっていた。  オレンジ

    • 【短編小説】オリオンと月の弦

      間違った電車に乗ってしまった。  車内がやけに空いている。なんだかおかしいなと気づいたときにはもう、扉は閉まったあとだった。  急行列車に乗るはずだったのに、何かに心がとらわれていたようで、その時ホームに入ってきた各駅停車の列車に考えなしに乗り込んでしまったのだ。  ーーー早く帰り着きたいときに限って・・・くそっ・・・  仕事がちょうど繁忙期に入り、この1週間は毎日帰りが遅くなっていたのだ。  明彦は小さく舌打ちをした。  明彦はコートの内ポケットからスマートフォンを取

      • ずっと同じ景色を見ていた

         先日、インフルエンザにかかった。  きちんと予防接種をしたにも関わらず、それでも感染し発病し、ぼくのウイルスがもとで家族全員が最終的にインフルエンザで寝込むことになった。  もちろんぼく以外の家族もみんな予防接種をしていたのに、だ。  程度の問題なのかもしれないけれど、こうでもあれば結局予防接種なんて単なる気休めでしかないのかもしれないな、などと考えてしまうわけだ。  ワクチンをしない主義の人に言わせると、ワクチンをした年に限ってインフルにかかるんだから、とのことである

        • 彼女の真っ赤な顔、それはまるで未来そのもののように

           「一緒に走ってくれへん?」  冬になると多くの学校の体育は持久走になる。これは今も昔もそれほど変わっていないようである。  例に違わず娘の学校でもそれは同じのようで、去年の暮れに1000メートル走を走ったそうだ。そして、次は25分間走り続けるということでどうも走るための体力をつけたいということのようなのだ。  ぼくに似て、娘も持久走が苦手なのだ。  正月に走ろうと言っていたのだけれど、正月は寝るのやら食べるのやらで何かと忙しくて知らぬ間に時間が過ぎ去っていたので、1

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        【ショートストーリー】モスグリーンのセーター

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          できること

           2024年が明けた元旦の夕方、能登半島に最大震度7の大地震が起こった。  私自身は丁度その時車に乗っていて、スマホが何やら警報を鳴らしているなと思い、一旦車を停めて初めてその事態を知ったのだが、能登半島からはかなり離れた関西地方であっても停めた車がぐらぐらと揺れるくらい大きな地震であった。  それから一週間と少しが過ぎたが、未だ余震も続き、被災地の生活はとても危険で厳しい状況が続いている。  被災された方々には心よりお見舞い申し上げます。  そのような中にあって、新

          できること

          2023年を雪国で閉じる 〜 noteの皆さん今年もありがとうございました(^^)

           国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。  2023年に最後に読み終えた小説が、川端康成氏の「雪国」だった。  これまでずっと読みたいとか、いつかは読んでおかなければ、と思いながら読み残している本はたくさんあるが、この「雪国」もそのうちの一冊だった。  2023年は、比較的本が読めない年だった。体調を崩す時期も多かったのもその原因の一つだろうし、職場が変わり環境の変化に心と体を慣れさせなければならなかったこともあるかもしれない。  記録によると、今年読んだ本は27

          2023年を雪国で閉じる 〜 noteの皆さん今年もありがとうございました(^^)

          EvernoteからUpNoteへ ~ さよなら、緑色の象

           先日、ここのところ一部界隈で話題になっている? Evernoteというメモアプリを別のアプリに乗り換えた。  Evernoteは、緑色の象の横顔のアイコンが印象的で、割と気に入っていて長年使っていたのだが、度重なる仕様変更と、超強気なサブスクリプション料金設定を利用せざるを得ない状況になったので、もう乗り換え待ったなしとなってしまったのだ。  乗り換え先のアプリは何がよいか?  こういうのを探すのって、面倒だけど実はちょっと楽しくもある。  ぼくは意外に、ガジェット

          EvernoteからUpNoteへ ~ さよなら、緑色の象

          殺風景な寒い部屋で小さく息をもらす

           師走にはいり2023年、令和5年もあと残り僅かになった。  最近しばしば胸に去来するのは、(実際まだそんなことを考えるのははやいかもしれないが)あと何回桜が見られるのかなとか、スイカに塩をかけて「ああ美味しいなぁ」という感覚をあとどれくらい得られるのか、などという侘しい感慨である。  花見なんてものはそう毎年やるものではなし、そう思うとちゃんと桜をみる機会なんてこれまでも数えるほどしかなかったんだし、ああ本当に人生の中で桜をしっかり見る機会というのは本当に少ないものなの

          殺風景な寒い部屋で小さく息をもらす

          【短編小説】『詩と暮らす』から始まる小説:Moon light

           詩と暮らすというのは、まさにあの先輩のことだった。  大学時代、ぼくらは文芸部という、他の学生たちから見れば得体のしれないであろうサークルに属していた。  部室の中は、いつもタバコの煙とコーヒーの匂いの入り混じったような空気に満ちて、西陽が指す頃には妙に美しい靄のような光に支配されるその空間で、あるものはワープロをうち、あるものはパソコンで文書を編集し、あるものは部室にあるラクガキノートのようなものに自らの独り言を書き連ねていた。  ぼくらはそんなセピア色の世界の中で、あ

          【短編小説】『詩と暮らす』から始まる小説:Moon light

          若いエナジー

           この秋は、訳あって妻と娘と一緒に大学の文化祭めぐりをすることになった。  めぐり、といっても結局合計3箇所しか行けなかったのだが、どの大学の学生も、みな溢れんばかりのエネルギーを放出しており、それはぼくが遠の昔に失ってしまった大切なもののように感じられた。  模擬店や、軽音、ダンスなどを見て、ふざけ合う学生たちの姿に出会い、  「ああ、そうやった、そうやった」  などと、自分の学生時代と重ね合わせながら、懐かしさを覚えながらもどこか羨望の想いとともに彼らの姿を見ている

          若いエナジー

          【短編小説】海の向こう

           クモが出た。  夜、2階の部屋から扉を開けると、目の前の白い壁紙に大きめのクモがはりついていた。長くて細い10本の足を大きく広げ、一瞬だけその足のどれかをピクリと動かしたかのようにも見えたが、それからあとはじっと身動きをしなくなった。  隠れようもない白い背景の上で身を潜めるようにしながら、その複眼は静かにこちらの動向をうかがっているのかもしれない。あるいはどこか別のところを必死に見つめながら私という敵と目があわないようにしているのかもしれなかった。  朝グモは親の仇だ

          【短編小説】海の向こう

          たそがれ時にたゆたう

           夏の香りがまだ残る季節。  見上げると、かすかに黄色く色づいた細い雲がたなびくように広がって、空を複雑で繊細な色合いに染め上げている。  今夜は、カツオのたたきと美味しい日本酒でも買って、ゆっくりひとり酒を楽しむもう。そんな思いで、家を出て買い出しに向かう途中だった。  池の周りでは、何人かの人とすれ違う。散歩をする人、ジョギングをする人など様々だ。  テラスのようになったカフェの席では、2人の女性が談笑しながら池の方を眺めている。彼女たちを見ながら、    いいな・・

          たそがれ時にたゆたう

          行き詰まったときには何か打破するものが必要かもしれない。 テンションを上げる! という思いでアクセサリーアイテムをひとつ買ってみました。 うん、なかなかよさげです。 アクセサリーなんて柄ではないと思っていたけど、実は案外好きだったのかも(^^)

          行き詰まったときには何か打破するものが必要かもしれない。 テンションを上げる! という思いでアクセサリーアイテムをひとつ買ってみました。 うん、なかなかよさげです。 アクセサリーなんて柄ではないと思っていたけど、実は案外好きだったのかも(^^)

          引き出しの中にあるもの

           仕事場に来るヤクルトの販売員さんが、こないだ新しい人に変わった。  新人で、まだ慣れていないので、最初はマネージャーさんと一緒に担当のところを回ることになっている。  マネージャーに促されながら、今日からよろしくお願いします、と挨拶をし、A4の自己紹介シートを手渡してくれた。  まず、ぼくは名前を覚えようとした。なるほど、〇〇さん。そして出来得る限り頭に叩き込んだ。  やっぱり、名前で呼びたいし、呼ばれる方がいいだろうと思う。  「ヤクルトさん」  と呼ぶことも

          引き出しの中にあるもの

          嵐の夜に、思い出の味

           こないだのこと、台風が近畿地方を直撃するというその夜、久しぶりに父母の住む実家へと向かった。  実家は職場に近くて、歩いて30分ほどの距離にあり、いつもの通勤に使う電車は止まる可能性が高いということもあり、その夜は実家に泊まることにしたのだった。  母に泊まりに行くことを電話で伝えると、二つ返事でOKをもらえた。  父も母も高齢で仕事もしていないため、たいていは急にいっても問題がないのである。  しかし、  「台風やから買い物行ってへんし、来ても何もないで」  と

          嵐の夜に、思い出の味

          【短編小説】ホテル・カリフォルニア

           あの男が残したのは車だけだった。  冬のまだ夜が明けきらぬ頃合い。  私は真っ赤な旧型のジープに乗り込み、車の量が少ない明け方の道路を走りつづける。しかもときにはブレーキをできるだけかけないようにしながら、尋常ではない速さで疾走するのだ。  家では、ベビーベッドの柵の中で赤ん坊のマヒロが眠っている。私は、薄暗い部屋でマヒロの寝顔をそっと見下ろす。赤ん坊はすやすやと寝息をたて、ときどきその小さな唇にギュッと力をこめたり、眉間にシワを寄せたりしながら眠っている。  しばらく

          【短編小説】ホテル・カリフォルニア