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読書感想文『結婚とわたし』

 新刊コーナーを眺めて、このエッセイ本を手に取った。題名に思うところがあったのかもしれない。

 山内マリコさん。本屋さんで何度もお名前を目にしたことはあるけど、きちんと著書を読んだことはなかった。「マリコ」というお名前、ころころとして可愛くて、一人称で唱えたくなる。

 コーナーの前で本を手に取った後、裏表紙のあらすじに目を通した。「同棲生活を経て34歳で結婚した著者は、パートナーが家事を3倍にするモンスターなのに絶望し、家庭内男女平等をめざす。」とある。
 それを、私は何を間違えたか、「家事を3倍に『行う』『ハイスペックな相手』を斬新にも”モンスター”と名付けて、自分にも家事を譲るように交渉するのか!新しいパターンだなあ…」と読んでしまった。
 気になってお会計を済ませ、家で数ページ読んでから、勘違いだったと気づいた。

 早とちりというか、そういう思い違いを起こすことがぼちぼちある。ベーコンとハムを間違えて買ったり、実は営業部の採用だったことを入社してから気づいたり。人に話すと「まじ?」という顔をされることも。
 それでも、このエッセイの主人公であるマリコさんに比べたら、自分の前科は些細で可愛らしいくらいかなあ、と思えた。

 お話は、マリコさんと彼女の旦那さんとの、「家庭内男女平等」の為の「春闘」で、おおむね家事分担や家に関する雑務の話だ。マリコさんは自分の権利獲得のために、旦那さんの一挙一動にレーダーを働かせて、日常警察としてホイッスルを続けざまに吹き鳴らしている。一方で、毎度旦那さんを非難しているわけではなく、マリコさん自身の言動がミサンドリーになっていないか、注意したり反省したりする場面も多々ある。

 マリコさんは、ちょうど最近吹き荒れている、春風みたいな感じの人。マリコさんの眼を通した日常の出来事は、ご本人の心の移ろいのように、起伏があって波乱万丈。ドタバタってオノマトペが似合う。それでいて、次々起こる物語をさっぱりした文体で、マーチのように軽快でテンポよく書き上げているので、ついつい耽読してしまった。

 下記の2つの引用は、なかでも好きだった段落。

 万平ホテルのメインダイニングルームは、高い高い格天井にステンドグラスという、和洋折衷の大変クラシカルで豪奢な空間です。フランス料理がコースで供されるのですが、見渡す限り熟年夫婦か中高年の女子旅ばかり。こんな場所に三十代女性が一人でいたら、「自殺しに来たの?」と疑われてしまいそうなほど、場違い極まりない。

「シングルガールとの別れ」より

 うちは財布が別なこともあって、日頃は経済的に自立した一個人としての暮らしを謳歌しているのですが、カーペットに関しては悔しいかな、隷属的にならざるを得ないのです。なぜか。発注の際に必須である部屋の採寸が、二人いないとできないから。しかし面倒くさがり屋の夫を動かすことは、道端のお地蔵さんに「歩け!」と言うようなものなのであった。

「いつものパターン」より

 オーバーな表現に着られないのは、きっとご本人の感情や挙動がナチュラルボーンオーバーだから。小気味良くて爽快!

 何だかんだ、マリコさんとマリコさんの旦那さんが仲良しなこともあって、「男女平等」というテーマが一貫して根底にありつつも、肩肘張らずに笑って読める本だった。

 読み終わってから、加筆部分で言及されていた『娘と私』を調べてみた。想像以上に似ていて、「同じ出版社だとこんなことができるのか…」と驚き。ぜひいつか並べてみたい。


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