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【連載 Bake-up Britain:舌の上の階級社会 #38】イングリッシュ・ブレックファスト(1/4)

朝以外もブレックファスト

ブレックファストとは、ファスト(絶食/断食)をブレイクする(破る)という意味で、前夜の夕食からしばらく時間を経て初めて食べる食事だからそう呼ぶのだという。もともとはカトリックやイギリス国教会のしきたりで、イースター(復活祭)前の40日間に及ぶ断食が明けた後の食事に由来するという話もあるのだが、そういう細かいことはこの際どうでもいい。問題は、かのサマセット・モームに「イングランドでちゃんとしたものを食べたければ、1日3回ブレックファストを食べればいい」とまで言わしめた、この食べ物のステイタス、である。

そもそも、「イングリッシュ」である。スコティッシュやアイリッシュではない。ブリティッシュとでも言ってくれれば簡単なのだが、そうすると微妙に中身が違ってくるからそこで差を際立たせることによって、それぞれの食のナショナリズムを主張したいとでもいうかのようである。基本は目玉焼き、ポークソーセージ、バラ肉ではなく肩ロースを使った脂身の少ないバックベーコン、焼きトマト、焼きマッシュルーム、そしてベイクド・ビーンズだ。トースト用の薄い食パンもラードで焼いて添えることもある。かつそこに薄いトーストも添える。ハギスが加わればスコティッシュに、アイリッシュならトーストが重曹を入れて焼いたソーダ・ブレッドになる。ヨークシャーから北では、豚の血と雑穀を混ぜたブラック・プディングが登場することもある。

アンドリュー・ドルビー『【図説】朝食の歴史』大山晶訳、原書房、2014年

イングリッシュ・ブレックファストは、別名「フライ・アップ」という。すべての材料を、パンも含めて、一つのフライパンでラードをたっぷり使ってフライしていたからこう呼ばれるのだが、ともかくなぜかくもヴォリュームに溢れ、脂っこく、お腹にもったりするぐらいの料理が、朝食という名のもとに定着してしまったのかということだ。

朝なんだから胃もまだ起きていないだろうし、もっとあっさりすっきり、例えばボリッジ程度でいいじゃないかとも思うのだが(そしてほとんどのイギリス人の朝食はそんなもんで、シリアルなどが主流なのだが)、このイングリッシュ・ブレックファストは別に朝に限って食べるものではなく、店によっては「オール・デイ・ブレックファスト」として提供しているぐらいで、朝食というよりもどの時間に食べてもいい、イングリッシュ・ブレックファストという一つの料理だと言っていいぐらいの、しっかりした食事なのだ。

アンドリュー・ドルビーの『朝食の歴史』(原書房、2014年)や、以前にも参照した『食文化からイギリスを知るための55章』(明石書店、2023年)など多くの歴史書や解説によると、品数の多い、卵や肉類を調理した朝食を食べるのは、貴族やジェントリー(郷紳、地方地主)たちが、朝にたっぷりとした食事を用意させて腹ごしらえをしてから狩猟に向かったという習慣に由来するらしい。ということは、ブレックファストは労働ではなく娯楽のための備え(?!)、ということになる。ところが、現在まともな「フル・イングリッシュ・ブレックファスト」を楽しめるのは、どちらかというと下町のカフェ(コックニーでは「キャフ」)が圧倒的に多いので、なんだか話がややこしい。

(続く)


イングリッシュ・ブレックファストのレシピ

2人分

材料

ソーセージ      4本
ベーコン       2枚 
トマト        2個
マッシュルーム    4~8個
卵          2個
ベイクド・ビーンズ  400g~ 

食パン        2枚
バター        適量

作り方

①  ベイクド・ビーンズを作る(連載#4 ベイクド・ビーンズのレシピ参照)。
 *市販の缶詰を使う場合は、小鍋にうつして温めておく。

② ソーセージにナイフで小さく切り込みを入れてから、大きいフライパンにサラダ油をひき、中火で炒める。ソーセージはバンガーズと呼ばれるイングリッシュ・ソーセージを使うが、手に入りにくいので、なるべく太さのあるものを選ぶ。
*ソーセージを手作りする場合、連載#23 バンガーズ&マッシュのレシピ参照。

③ ソーセージの表面が焦げるくらいになってきたら、フライパンにベーコンをくわえて弱火にする。ベーコンも厚切りの大きなサイズのものを!

④ マッシュルームは小さいサイズのものならそのまま、大きいサイズのものは横にスライスして、③のフライパンに入れて弱火のまま炒める。

⑤ トマトを横半分にスライスして、③のフライパンに入れて弱火のまま炒める。

⑥ 目玉焼きをつくる。別のフライパンにサラダ油をひき、中火で熱しておく。そこにボウルに割り入れておいた卵をそっと流し入れ弱火で5分ほど、半熟たまごになるぐらいで火をとめる。

⑦ 食パンをサンドウィッチ用ぐらいに薄くスライスしてトースト、バターをのせる。

⑧ 大きめのお皿に、ソーセージ、ベーコン、マッシュルーム、目玉焼きを盛りつけ、ベイクド・ビーンズをたっぷりと添えてトーストとともにサーブする。


次回の配信は10月13日を予定しています。
The Commoner's Kitchen(コモナーズ・キッチン)


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