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映画「八甲田山」に学ぶ失敗学

なんとなく映画「八甲田山」を見たい気分になっているところに、BS12で放送するとの噂を聞きつけたため、さっそく録画予約して見ました。


映画「八甲田山」との出会い

この映画は実話をもとにした雪山遭難映画で、雪国育ちの私は子供の頃さんざん見させられたものです。とにかく吹雪の中遭難する壮絶なシーンに圧倒され、雪山を侮るなかれというメッセージだけは確かにしっかり受け取りました。

今思えば昭和の名優オールスターという感じのすごい映画なのですが、子供だったので、左のおじさんは無事生還したけど右のおじさんは「天は我々を見放した」と言って死んでしまい、

2人とも若くて美しい

なんといってもこのおじいさんが1番悪者

豪華キャストすぎて大物でも下方に

というくらいの認識しかありませんでした。

でも令和の今、人を指導する立場になってから見ると、いろいろと学ぶべきことがあったので、今日はそれを綴ってみようと思います。

ストーリーの概要 

時は日露戦争前。雪に強いロシア軍が攻めてきたときに備えて、八甲田山系で雪中行軍をしようということになりました。あまり経験がないというふたつのチームが、青森市と弘前市から出発し、八甲田山ですれ違うという粋な案が出されました。

しかし予定の日はあいにくの悪天候で、視界を見失ってしまいます。それでも、用心深く準備をして地元の道先案内人も雇った弘前三十一連隊(徳島大尉:高倉健側)は、なんとか無事帰還します。一方、見通しが甘く準備不足で、しかも指揮命令系統が混乱して数々の失態が重なった青森五連隊(神田大尉:北大路欣也側)は、210人中199人が亡くなり、世界的にも類を見ない大惨事となってしまったのです。

2人の大尉は八甲田山で会おうという約束をしていましたが果たされず、生き残った弘前の連隊も、結局日露戦争で全員亡くなりました、という字幕で終わります。

何がいけなかったのか

さて、いったいどうしたらこの悲劇を防げたのでしょう?実話の事情は違うのかもしれませんが、映画を見る限り、被害を最小限にできるチャンスは何度かあったように思えます。これについて、出発前と雪中行軍開始後に分けて考えてみます。

出発前

1) 上官たちの安易な思いつき発言と大尉たちの忖度
「2チームが八甲田ですれ違う」というのは一見面白いですが、実行しようとすると弘前チームが長距離移動しなければならず、2チームの条件に差ができてしまいました。上官たちは「雪中行軍は命令ではない」と言っていますが、大尉たちは実質あれは命令だ、と解釈して計画を始めてしまいます。
2) 2人の大尉の間に信頼と友情が芽生えてしまった
大尉たちは2人とも真面目できちんとした人で、しかも謙虚です。あの人はきちんとやってる、すごい、自分もそれに答えなくては、と互いに考えた結果、無理ある計画になってしまいます。
3) 神田大尉が優しすぎる
徳島大尉は上官に向かって愚痴をこぼすことがあるのに対し、神田大尉は我慢してしまいます。弘前チームに対する子供っぽいライバル心から、上官の山田少佐が大人数編成にしようと無謀な提案をした時も、受け入れてしまいます。せっかく慎重な計画を立てていたのに、この上官の希望を通したことによって、後々想定外の困難を経験することになります。

雪中行軍開始後

1) 経験豊富な地元民の意見を無視
なんといってもこれが一番の原因と思いますが、青森チームは案内人をつけませんでした。せっかく私イチオシの俳優、加藤嘉さん演じる村の長老が案内してあげると言っているのに、山田少佐が要らないと一蹴してしまうのです。村人より軍人が偉い、という傲りがあったのでしょう。逆に弘前チームはキュートな案内人がついて、結局得した?

嘉さんがいくら言っても聞かず/お花のように可愛い案内人

2) 無知の無知
雪山に自分は詳しくない、という自覚のない人が、青森チームには上官にも下士官にも多かったことが挙げられます。そして「自分だけはうまくいくはず」という根拠のない自信、バイアスが働いたことが挙げられます。これはどんな時代にも当てはまることですね。
3) 指揮命令系統の混乱
神田大尉が指揮を執る予定だったのに、山田少佐が途中から指揮を執りたがり、雪山の知識もないのにどんどん誤った指示を出し、ペースを乱された神田大尉もいつもの冷静な思考ができなくなっていきます。この混乱でみんな精神的にも参ってしまい、狂った行動をとる人が続出します。

令和の時代に生かせる教訓

ここまでまとめてみた私の感想としては、結局雪中行軍自体が、愚かな戦争だったのではないかと思います。目的も不明瞭だしプライドを守ることが先行して、結局誰も勝たないという愚かさです。ここから学べる教訓を最後にまとめておきます。

  1. 自分はまだまだ無知であることを常に自覚して行動すべきである。

  2. 自己視点に固執せず、人が言うことに一理あるかなと思って耳を傾ける。

  3. 目上であってもダメなことははっきりダメといい、根拠を挙げて説得する。

  4. それでもダメなときはさっさと切り上げて、別の手を考える。

4.に関しては、緒形拳さんが演じる村山伍長に見習いたいということです。この人は、上官たちのダメさに愛想を尽かし、途中から「自分は自分の行きたいように行く」と言って隊から離れ、自力で生還した数少ない青森チームのひとりです。映画の最後老人の姿で現れ、生き残っても結局戦争で亡くなった人々の墓を厳しい目で見ている、というシーンで終わります。

お花畑ではしゃいだ夏の思い出から一転、「白い地獄」の現実に戻る拳さん

豪華キャストの映画でしたが、私の印象に残ったのは北大路欣也>高倉健>三國連太郎>緒形拳>加藤嘉>秋吉久美子、の順でした(笑)。名優が多すぎるので、今日は「昭和の名優シリーズ」とは別に取り上げてみました。

また、今日は音楽については取り上げませんでしたが、もちろんとても印象的で、映画を見終わった後もずっと頭の中で流れています。

↑この音楽動画を作った方、絶対緒形拳ファンですよね?

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