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左官屋はみた 下巻【note de ショート】


「はい、國武です」
僕は電話に出ました。
やっぱ公安さんからの電話でしたわ。

「國武・・・洋一さまですね。
先ほど病院でお会いしたものです。
今後、私の事をコバヤシとお呼び
頂きますようお願いいたします。

そして洋一さま。
こちらまでご足労願います」

コバヤシ・・・
偽名ですわ、これセッタイ。
なんか映画みたいですやん
「ユージュアルサスペクツ」ね。

待ち合わせ場所は駅前の貸ビル二階の
レンタルスペース。ここに8時に来い
とのことです。

それにしても思い出されるんが
親父のいってた日光のなんやっけ?
エテ公?

せや。それや。
「見ざる、言わざる、聞かざる」
とか何とか。
どういうことやろ?

たぶんこれは

「内緒にしとかなアカン」
いうやつや。
たまにありますねん。
国の重要文化財の大改修ではたまに。

京都の西本願寺の
阿弥陀堂内陣修復工事でも
そうやったらしいですわ。

「みたもの、聞いたものを他者に漏らすな」
とね。今後の歴史的内容が一変するさかいに。

でも今回の現場はなんか違和感ムンムンやで。
ヤバそうやん、なんか。


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僕が到着したんは8時の5分前。
すでにもう二人の同業者がいてました。

こいつらも地元の職人らしい。


二人のうち一人はよぉ知ってます。

「ナカセ左官」
大卒のボンボンでこいつも2代目ですわ。

もう一人もたぶん同業ですねこれは。
臭いいうか雰囲気でわかりますよ。
このおじさんの事はあまり知りません。


今回の一件はそのうち一人が
行方不明になってるんです。
2、3日の間に失踪して
しもてるんですわ。

けったいな事件やけど警察の
捜索もそこそこで打ちきり。
ね、ケッタイでしょ?

それがこのナカセ君ですわ。
野球帽を深々被り街中にいそうな
ヤンチャな感じのナカセ君。
彼がこの現場のあと、失踪します。


そこにコバヤシがやってきました。
そして言いました。

「これから皆様に目隠しを
させていただきます。
そして我々が用意した車に
乗り合わせで現場まで参ります。

もうお察しかとは思いますが決して目隠しを
外さぬよう。もし故意に外したと我々が
判断したら・・・

よろしくお願いします。

これから一人の監視をお一人ずつに
お付けします。現場での作業が終了し
解散するまで皆様は監視下にあります
のでゆめゆめお忘れなきように。

さらに何かを不意に見てしまったとしても
他言無用の事。
これはご家族さまへも他言なきように。

思わぬ被害が及ばぬとも限りませぬゆえ

あと、皆様の通信機器一切を
回収させて頂きます。スマホなど
あと、タバコも一時預かり
させて頂きます。」

それだけいうとコバヤシは
僕を監視し始めました。

いやっすよ、正直。
人の横でこっち見ながら
なにか書き込まれるさまってのは。

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車にのせられました。
目隠しされながらの仕事・・

今後ないように願いたい。


おおよそ30分ほど、でしょうか。
車のエンジンが止まりました。

え、ぜんぜん走ってないんやけど
思いっきり近所ちゃうん?

「どうぞ降りてください。まずは
國武さまからどうぞ」
コバヤシが促しました。

いやぁ、ここ知ってます。
見えんけど知ってます
っていうかわかりますわ。
この匂い。

ここ「ラーメンとも」の真裏っすわ。
だって思いっきりラーメンとものスープの
匂いですもん。
それに駅前出発から30分。

うん。
僕、間違ってません。
ここは絶対に



放手山古墳

絶対にそうっすわ。

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ここの古墳はため池があるタイプで
関係ないっすけどぎょうさん
ブラックバス釣れるんすわ。

誰かが琵琶湖からバスとか
ブルーギル釣ってきて
そのまま放流してしまわはった
らしいですわ。

僕も小さい頃からここに遊びに
来てましてん。でも向こう岸までは
いったことあらしまへん。

なぜって?
むかしッからお化けでるからとかいうて
おかんに教えられてたんもあるんですけど
まぁ、なんせ学校からも禁止されてましてん。
向こうへわたる船もそもそもなかったのも
あるんですけど。

それを何を思ったか、近所の大学生やったと
思います。
なんとボートをチャーターしてきてですね
向こう岸に綿って釣りしとった連中が最近
おったらしいんですわ。

ここ、宮内庁管轄で立ち入り禁止でっしゃろ?

そのまま連れてかれましたわ。

そのあと、その大学生達が
どうなったのかはわかってないんです。


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話もどしますね。
僕ら、車から降ろされました。

そしたら案の定、ボートに乗れと
言われました。

ってことは向こう岸に
わたるってことですやん?

!!
ってことはこいつら宮内庁の人間?
とはなんか違う感じ・・・

もっと奥に潜むその存在感。
そう、「消し屋」に近いイメージ。

ですんで僕、ずっと違和感と不安が
消えんのんすわ。

向こう岸にわたって僕らに何せぇって
いうんでしょ?

ただ、事情を掴めてない後の二人は
パニックやろなぁ。
まさか大海原に放り出されたんちゃうか
っておもっとったらかわいそうや。

震えとるやん。
ナカセ君、はよ気づかんかい。
近くやでここ。ラーメン屋の真裏やし。


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がリッ
ズザザザーー・・・

ボートの船底が擦り合わさる音。
上陸しました。


やはり始めに僕が降ろされました。
全員ボートから降りたあとコバヤシが
切り出しました。

「みなさま、たいへんお疲れさまでした。
目隠しをお取りください。

今日のこの現場が何処なのか
お話しすることはできません。

そしてここで知ってしまった事を
今後口外することもなりません。

ですがひとつだけお話いたします。

じつは





20年前もこのように本職の左官業の
方が集められ、夜を徹して作業を依頼
していました。

さらにいうとその20年前も、そして
ずっとずっと、です。

洋一さま、この話をお父様、お祖父様から
伺ったことは?」

僕は首を振りました。
一切聞いたことありません。
初耳です。

ですがいま合点がいきました。
いままでこんな仕事の話を聞いたことが
なかったのも、入院中の父の態度、そして
電話での父の応対。

家族を危険から守るためにずっとだまって
いたんですね、きっと。

そして20年目、きょう僕にその役目が
回ってきたってことですわ。


コバヤシは続けます。
「なんとか無事故で終わらせたいのです。
みなさまを無事に送り届け、その後も何も
なかったように生活に戻って頂きたい。

そう思っています。

ですから決められたルールに則って
行動を慎んで頂きますようお願いいたします」


コバヤシはそういうと
先導し始めた。


ーーーーーーーーーーーーーーー


何も見ないこと



誰にも言わないこと



何も聞かないこと、聴かないこと



自分に堅く約束しましたわ。
しょうじき恐怖です。

だってそうでしょ?
裏を返せば

うちの親父がいままで20年間
なんも話さんかった。

たとえ酒に酔っぱらったとしても
割らんかった。

これはつまり


どうしようもない恐怖を味わった。

味わった恐怖を引きずらぬように秘匿した。

そうせざるを得なかった・・・

そういうことでしょう?
あの親父が。
あのおしゃべりオヤジが。


コバヤシが暗いほら穴を先導し始めて
すこしたった頃、歩調を緩め、やがて
立ち止まりました。


「ここからです。

いまからみなさまにはこの部屋の奥にある
部屋の壁画修復にあたって頂きます。

特に難しい作業ではありません。

材料ももう揃っています。

いつも通りやっていただけたら
すぐにすむ作業です。

しかし 」




コバヤシは急に黙った。
そしてそのあと


「この壁画に描かれている事を

誰にも教えるな。いいか!」

急に口調が変わりました。


「いいか、何度もいわすなよ。

この壁画の事、誰にもいうなよ。

ただそれだけだ。それさえ守ればいい!」

別人のように豹変したコバヤシの言葉に
そこにいる全員が萎縮してしまいました。


その壁画、ってどんな壁画?
気になります。

そしていよいよ
部屋を塞いでいた石の壁が
引きずられてこじ開けられました。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーー



!!

ん?







!!!

うわ、


カビくさッ



あまりの悪臭に嗅覚がマヒしました。
そしてほんの30秒くらいめまいに近い
ものを覚えました。


真っ白な部屋です。

そっかここは王さまの・・・
なんやいいましたね?

ここは王の間とでもいうんでしょうか?


しかし何もありません。
棺とかは何も。

ただの空間です。
そこに真っ白な壁があるだけ。

ただそれだけです。

ですがお待ちください。


壁は一見すると真っ白ですが
よく見てみると


何かが描かれています。


なんでしょう?
こんな絵、みたことありません。

ぼくら奈良県民は古墳やら古代絵に
わりと親近感いうか、むかしっから
触れることがおおいんですわ。

でもこんなの・・・
しらん、なぁ。

となりにいたのはナカセ君。
どうしたんやろ?

なんかとんでもないもん
見てしまったって感じの
目になってしもてますわ。


そこでコバヤシが作業開始をつげました。

今回の仕事内容は

「20年前塗りつぶした壁画を
再塗装して埋めること。

跡形もなく塗りつぶすこと」

でした。

特に難しい事はありません。
ぼくは割り当てられた所に行き
作業に取りかかりました


ところが

コレナニ?

見ちゃいました。
これ、ヤバイぞ・・・


う、うそだろ・・・

だってこれ
「モーゼ?」

だって
杖もって、水割って・・・
あの山しってる。たしかシナイ山・・

そしてあの石・・・あ、そうだ
十戒の書!

なんでこんな壁画が日本の古墳に?


だれかの落書き?
落書きだから消すようにって?


それにしても・・・




落書きにしては歴史的価値感ありずぎ
これは人類の宝であり新事実であり・・・

お蔵入りさせなきゃいけないリアルにやばいやつ



ぼくはわかります。じい様に叩き込まれて
そだったプロの左官屋ですから。

ホンモノとニセモンの違いくらい
年代の特定までわかるっちゅうハナシ

放射線カメラなんかいらんでーって
かんじです。

ーーーーーーーーーーーーーーーーー

モーゼ・・・

こいつはしってる。
けど、あとは何や?

しらんなぁ。

とキョロキョロしてるのがバレたん
でしょうね。

コバヤシが急に合図してぼくは
男どもに囲まれました。

「な、なんや・・・」
恐怖で言葉がでません。


「洋一さん。
まだお分かりいただけないのか?

率直にいうと
次、私に目をつけられると



あなたは消される。

あなただけではない。
あなたの家族もすべてけされます」


わかったら作業に取りかかれ、とコバヤシは
吐き捨てるように言いいました。


ほんま怖かったです。
なんやくらい洞窟のなかで
一人一人監視されながら
仕事するっていうのは。

しかもこの事は誰にも言えません。


なぜって?
こいつらが怖いから?

バカいっちゃいけませんよ!

そうじゃない。
そうじゃないですって!

ぼくだってバカじゃない。

最初はなんとなくだったんですけど
じょじょにこれはヤバイんじゃないか
って思うようになってきたんすわ。

そして極めつけに

モーゼ。

やっぱりエジプトを逃れてやって来た先は
日本だったのか・・・




そしてさらに極めつけが・・
これ、言っていいの?




画像2

このマークです。

あいにくこれはずいぶんあとにかかれた
これぞラクガキといえばそうですが・・・


妙なんです。
これ、20年前になぜ消されていないのか

不思議でしょ?

しってます?


フリーメイ◯ン

都市伝説なのかと思ってましたわ。
ほんまにあるんですね。

そういえば僕が高校生の時
都市伝説マニアのツレから
聞いたことがあります。


太平洋戦争での日本の無条件降伏
の際に、GHQがここ畿内に進駐。

度重なる空襲で日本全国焦土に
なったやないですか。

でもね、この辺、特に京都とか
奈良って標的になってへんとこ
おおいんですわ。

なんでやと思います?

その理由をこのとき知ったんですわ。



フリーメイソン

もともと西洋の石工職人のギルド
だというこの団体。
コンパスをトレードマークに
してはるのを見ても
石材やさんの集まりやったんでしょうね。

この団体に外部から何者かが
侵入したらしいんですわ。

これがユダヤ系異民族。
故郷を終われ散り散りになった
ユダヤの子孫がヨーロッパで暗躍する
土台として乗っ取った。


これはあくまで都市伝説です。
そして諸説あるんでしょうが


この古墳になぜ?

これ、ラクガキいうてもつい最近のもん
ちゃいまっせ。

これもこれでずいぶん年季入ってんのも
事実ですわ。


はなしをもどしますとね、僕のツレが
いうにはこんなことでんねん。


大阪港に降り立ったGHQは一路北上。
その最中、一部の部隊は北上を反れた。
そして古墳発掘に乗り出した。

らしいんですわ。
それがこの古墳?

ただ、これが世に知れると
世界中がひっくり返る大問題に
なるんちゃいますか?

そうなるとこの
コバヤシたちは・・・


そっか、こいつらも。


ですが、ここは生きて帰らな
あきません。
見ざる言わざる聞かざる・・・

もう、僕、ただの猿っすわ。
ほんまにこわいもん。

だって、僕ら

「歴史」を塗り固めてるんですよ!

親父も怖かったやろなー、20年前!

ありがとうありがとう。いままで
だまっとってくれてありがとう

ありがとうありがとうありがとう・・・



ーーーーーーーーーーーーーーーー


作業は無事終わりました。

何てことありません。
ただ、剥離部分を
AICAのジョリパットで
埋めただけの作業。

こんな湿度やったらどうせ
また剥がれますわ。

そのときはまた次の世代の
左官屋が・・・



秘密はこうやって
闇へ闇へと隠されてまうん
ですね。



ーーーーーーーーーーーーーー


午前1:00

3人は無事に解放されました。

出発した駅前です。
もう誰もいてません。
僕らだけです。



スマホとマルボロメンソールも
戻ってきました。

そしていけないことと知りつつ
コンビニで祝杯を3人で
厳かに行いました。



スーパードライで乾杯!
なんとも言えぬうまさでしたね。

いままでの打ち上げのそれよりも
味の格がぜんぜん違うんすわ。


すこし酔いが回ってきたところで
ナカセ君が言いました。

「なぁ、國武!
お前にえぇもん見せたろか。

これや。」



デジカメ!!!!!
しかも高画質!!

僕はとっさに拒否反応を起こしました。
そしてナカセの体を突き飛ばして
その場を去りました。

それを見ていたもう一人の
同業者もコンビニを後にしました。


ーーーーーーーーーーーーーーー

翌朝、目を覚ましたときにはもう昼ちかく。


そんななか、自宅の電話にあのナカセ君から
電話がありました。


夜中、突き飛ばして帰ったのでバツが悪いと
思ったんですが一応でました。


「おぉ!國武ぇ、おれや。
昨日はスマンだなぁ。

じつはえぇもん撮れたんや。
これ、ヤバイで!

いまから
YouTubeにUPするさかいに
みてや。それだけや。

検索するには
『奈良県 フリーメイソン 消えた十支族』
で見つけられるしぃ

ほな、さいなら」



バカだろ。
バカだろコイツ・・
消されるぞ、おい。


という電話内容やったんすわ。


それからナカセ君の消息が
途絶えたと聞いたのが
この電話から3日後のこと
でした。


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ナカセ君の登校した
YouTube動画、大反響
だったらしいんですわ。


PV数もガン上がりだったらしく。
でもすぐに消去されたという

まさに都市伝説クラスの
神動画だったらしいですね。


僕も検索したかったんですけど
やめときました。

だって
見ざる
言わざる
聞かざる

ですもの。


ありがとうございます。yh








サポートをお願い致します。 素敵なことに使います。何にって?それはみなさんへのプレゼント! ぼくのnoteをもっと面白くして楽しんでいただく。これがプレゼント。 あとは寄付したいんです。ぼくにみなさんの小指ほどのチカラください。