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『ふがいない僕は空を見た』 窪 美澄

【ふがいない僕は空を見た】というタイトルや、男子高校生が主人公の最初の一編(連作短編小説です)から、若者向け…?て感じを受ける方もいると思いますが、子育て世代の女性たちにもぜひぜひおすすめしたい。

「女による女のためのR18文学賞」を受賞、つまり性的な作品でもあります。性の取り上げ方がすごくいいんです。

子どもを授かって育てるという、そこそこ地に足ついた生活を営んでいると、「愛し合うってすばらしい」「命は奇跡」みたいな感覚になりがちなんですが、セックスってやっぱり人を翻弄するものだとも思うんですね。滑稽でもあるし、火遊びのように危険な魅力もあり、人を傷つけ自分を損なう暴力性も持ちうる。

なので性教育などもとても大事なんだけど、性に限らず、人間、教育だけでは救われない問題も必ずあると思います。本当に人生は読めないし、ままならない。人間は弱くて残酷な生き物でもある。

すべてが「イタい」話で、ああ、こういう話はつらいなあと思いながらも、スピーディかつエモーショナルな筆致にひっぱられてぐいぐい読み進んでいく。何度も感情を揺さぶられてボディブローのように効いてくる。

遠い話、たとえばワイドショーなんかで見れば「あー・・・。まぁ自業自得だよね」とすませてしまいそうなエピソードたち。だけど人は、つまらない落とし穴にハマる。追い詰められてバカな行動に走る。小さな悪意に蝕まれる。ダメだと思ってもやめられない・・・。

それらを、誰が断罪できるのか。
この愚かさはすべて、個々の責任として突き放せるのか? 
それはあんまりにも残酷ってもんじゃないか。

・・・という気分になってきて、後半は涙が止まらなくなった。

つらいばかりじゃなく、はしばしがユーモラスだったりする。それは作者の技量であるとともに、「人生とはこういうものだ」という信条でもあるんだろう。悲劇と喜劇は紙一重だったり同居していたりする。

最後の一編は、冒頭の高校生男子のお母さんが主人公なんですね。息子が性の世界に(軽率に)踏み込み、その結果、世の中の悪意というものに傷つけられもした状況で、母親に何ができるのか?
しかも彼女はシングルマザーで、助産院を営んで息子を育ててきたという設定。

すべての子どもたちが祝福され不自由なく生まれ育つわけではない、格差や貧困もある今の日本の社会の生と性が、切実にぐいぐいと迫ってきます。

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