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パスタ調理がうまくなりたいならこれ買って。 〜最新パスタ本ガイド〜

先日、とある食事会で「料理レシピ本を買ったことがありますか?」と尋ねたら、そこにいた私以外の4人全員が「ない」とこたえたことに大きなショックを受けました。
2024年初頭のお話です。
「そっか、では料理する時、いままでどうしてきたの?」と聞きましたら、そこにいた全員が40代だったのもあり、クックパッドできてから家庭をもった人たちだったんです。
ですから、本を買う必要を感じなかった、というわけです。

しかしながら、現役の料理本編集者である私は、料理レシピ本とは、分量や作り方がわかるだけでなく、作り手のライフスタイルといった私的なプライベート空間を通して社会の動きも垣間見える時代の書だと思っているので、ネットの情報以外のおもしろさがあるんだよ、と言いたいわけです。見どころがたっぷりあるんですよ、と。
そんな時代を映した鏡であるところの料理レシピ本の魅力、久しぶりにお届けしようと思います。

取り上げる本リスト

  • 本気のワンパンパスタ

  • フライパンひとつで完成!くり返し作りたくなる 至福のおうちパスタ

  • おうちで本格! BINANPASTA流 映えうまパスタレシピ

  • 手軽にできるから 毎日食べたい家パスタ365

  • 10分パスタ

  • プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン

  • 一つ星イタリアンの ミニマル最高パスタ

  • 食べるためだけにイタリアに行く

  • ニューハナイのパスタとタパス おいしさの法則

  • 二つ星イタリアン元料理人のいちばん美味しいパスタの作り方

パスタ、別鍋でゆでる? ワンパンで作っちゃう?

このところ「パスタ」が主テーマの本をよく見かけるなあと思ったことはありませんか? イタリア料理ではなく、パスタです。
実際のところ、パスタ本はコンスタントに出版される人気テーマではあるのですが、昨年からこの春にかけてとくに目立ちました。

それというのも、コロナ禍でプロの料理人によるYouTubeが一気に増えたのも一因。とくにパスタ動画は、自炊を余儀なくされた市井の人々に人気のコンテンツでしたので、料理本もその動きをおっかけるように、パスタ料理が表紙を飾る本が次々に出ていました。
とくにコロナ禍中は、プロ料理人による出版が相次いでいました。
が、アフターコロナの今、万フォロワーを獲得したYouTuberやインスタグラマーの本が続々と出ています。

これら新刊の特徴を大きく分けると2種類になります。
フライパンひとつで全工程を作り上げる、いわゆるワンパン本。もうひとつが、従来通り、鍋でパスタを茹でてフライパンでソースを作って仕上げるもの。
これまでもワンパン本は出ていましたが、数百万フォロワーを抱える料理研究家がおすすめしていると、パスタの作り方が一気に変わるようなインパクトすら感じます。

では、2023年から今年春までに出たパスタ本を紹介しましょう。

ワンパンパスタ、人気YouTuberの説得力

まずはSNS総フォロワー数260万以上の人気料理研究家、リュウジさんの『本気のワンパンパスタ』(扶桑社)。
やはり書店で目立ちます。平台にどどーんと、あるい面陳でぐぐっと迫ってくる黒い表紙。
思わず手に取りたくなります。

また、YouTuberとして人気のファビオさんの『フライパンひとつで完成!くり返し作りたくなる 至福のおうちパスタ』(イースト・プレス)も 並んで置いてあります。

こちらは決して「ワンパン」を大きくうたっているわけではない、ファビオさんらしいやさしげなデザインの表紙なのですが、よく読むとワンパンであることがわかります。しかも、もともとイタリア料理のプロであった人が別鍋でパスタを茹でるのではなくワンパン推しをしているとすると影響力は大。
そんなファビオさんの静かな主張にリュウジさんにあの調子が加わって、「うまい」と言われると、これでいいんじゃ?な思いを強烈に後押しされた気分になるから不思議です。

パスタ別茹で、フライパンで仕上げ本

一方、従来通りの鍋ゆでフライパン仕上げは、『おうちで本格! BINANPASTA流 映えうまパスタレシピ』(宝島社)『手軽にできるから 毎日食べたい家パスタ365』(GAKKEN)のRyogoさん。


もうひとり、表紙のPASTAという黒文字がまず目に飛び込んでくる『10分パスタ』(KADOKAWA)のPastaWorksたかしさん。男性読者を意識したデザインですね。

Ryogoさん、PastaWorksたかしさんご両人とも、主戦場はインスタグラマーでそこからの横展開はしっかりされている方たち。
また、ふたりは味の入れ方に大きな違いがあります。

PastaWorksたかしさんはパスタ茹でに塩を入れずソースに白だしを入れることで味を底上げする方法。

それに対してRyogoさんはいわゆる王道レシピで、使う基本の材料はイタリア料理らしいものをズラリ揃え、日本の食材を足している感じ。

予約のとれないイタリア料理店ラ・ベットラ・ダ・オチアイの落合務シェフの最新刊『プロの味が最速でつくれる! 落合式イタリアン』(ダイヤモンド社)ですら、家庭ではトマト缶ではなくトマトジュースOKにするなど手間をギリギリまで省いたレシピを推奨している中でのRyogoさんの正統派レシピは目立ちます。
これが「やっぱり本物」を求める初心者層に響いているのかもしれません。


どっちかではなく、気分で使い分けするのが時代の気分

では、どちらの方法を取るか。
「どうせやるなら正統派」と「できる限り手軽派」がいる一方、どっちもアリな柔軟対応をする人もいるものです。
作るほうからしたら、平日と週末とでは気分が違うように、情況次第で作り方も変えられたら最高ですよね。

となると、著者の味はもとより、考え方や生き方に共感できるかどうかが決め手になります。
そう、人が時代を作る。
ファン作りが上手な人が家庭料理の世界でも同様に時代を制すのですよね。料理本を見ているとますますそんなことを思います。

そういえば、コロナ禍だった2022年に『一つ星イタリアンの ミニマル最高パスタ』(KADOKAWA)を出した東京・参宮橋の一つ星レストラン「Regalo」のオーナーシェフ小倉知巳さん。
この本、大ヒットしました。
先月『食べるためだけにイタリアに行く』(KADOKAWA)という旅エッセイを出してます。こちらも、現地で食べた料理の再現レシピが読み応えあり。プロがどこに注目して味を決めていくかを感じることができておもしろいんです。

また、東京・世田谷の人気店「ニューハナイ」のオーナーシェフ、海老沢健太郎さんによるパスタとタパスの書も出ました。『ニューハナイのパスタとタパス おいしさの法則 』(KADOKAWA)です。
こちらはまだ実物を手にしていないので詳しいことは言えないのですが、公開されている目次を見る限り、日本のパスタとして極めている様子が伺えます。とてもおいしそう。


キッチンでの有り様をうかがい知る

では、日本で進化した日本のパスタではなく、イタリアの当たり前の家庭料理としてパスタを食べて育ってきたイタリア人はどういうパスタを本物というのか、あらためて確認したくなりますよね。
イタリア人シェフ、マクリ・マルコさんの『二つ星イタリアン元料理人のいちばん美味しいパスタの作り方』(KADOKAWA)があります。YouTuberなので、動画で見ていたアレを本にしているわけなので、とてもわかりやすく安心感があります。

それにしても、こうして並べただけでも、それぞれの作り手の背景や考え方の違いによるレシピの違いが露わになっています。やっぱり料理本っておもしろくないですか。

例えば、オーソドックスなトマトソースのパスタで全員のレシピを見比べてみるとかね。するとね、それぞれのキッチンでの有り様、情景まで浮かび上がってくる……んです。
私は「そこ」を探してレシピを読み、料理写真、タイトル、分量の違いや並び、作り方手順などを読んでは行間に潜んでいる「そこ」を見つけた時に小さな喜びを感じています。
そして、そんな楽しみ方をしている同士に出会えたら嬉しいです。

さて、ともあれ、今後出るのはどんなパスタ本でしょうか。楽しみです。

ありがとうございます。新しい本の購入に使わせていただきます。夢の本屋さんに向けてGO! GO!