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ため池のある風景

「ため息のでる風景」ではない。
「ため池のある風景」である。

子どもの頃はそこら中にあるため池も
当たり前の風景のように見ていた。
うどん県は全国でもため池の多い県として知られる。
兵庫県、広島県に次いで第3位らしいが、
日本で一番小さな県なので、ため池密度は日本一だろう。
しかもうどん県はそのほとんどが讃岐平野なので
航空写真を見ればその点在するため池の多さを容易に
知ることができる。

言うまでもないが、ため池はそのほとんどが人工池であり、
農業用の貯水池である。そのため定期的に水が入れ替わる。
田畑に水を使わないときに水を貯め、田植えの時のように
水が必要なときに田んぼに水を引くわけだ。
讃岐平野にあるため池は堤を築き、底を掘り下げたタイプの
皿池が多く、人家の近くにあることから生活排水や
農耕地の肥料などが入り込むため栄養が豊富な水になって
おりそれが水田に供給されることとで土地は肥えた。
栄養豊富な農作物はここにも理由がある。

また人工池ゆえに人の手でつくられているから、
ため池の築造や補修を繰り返す歴史の中で
日本の土木技術が進歩してきたのは間違いないだろう。

さらに、ため池は生態系にとても重要な役割を担ってきた。
水辺の動植物が繁殖する環境が整っている。
水辺が好きな昆虫や水棲動物、水草も多くの種が生息して
ため池が豊かな生態系を作り維持する装置にもなっている。

人間は水のある風景にいると心が穏やかになるものだ。
いらぬストレスは溜まらない。これは経験上の実感だ。
おそらく風景に緊張感がないのが大きな要因だろう。
水のある風景は視界が広い上に常に緩やかな変化がある。
そのリズムが人間に心地よい心理的作用を施す。
それは一種の浄化作用ともいえる。

かように考えてみると子どもの頃から眺めていた
当たり前の風景が違って見えてくる。
「ため池のある風景」がいい意味で「ため息のでる風景」
であったことに感嘆するわけだ。
これもまたふるさとに感謝することの一つと言える。
ぼくはふるさとからできているのだから。


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