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「街のおもしろいこと!」を伝える地域文化誌


2013年の3月から発行をしてきた五反田(品川区)と蒲田(大田区)を結ぶ3両編成の池上線。その沿線の「街のあれこれ」を詰め込んだ小冊子『街の手帖』の最新号を3年ぶりに出版しました。
今回は「癒やし」をテーマにした一冊ですが、その前に少し、この冊子について説明していきたいと思います。

発行当初は、各月刊で年に6冊。その後、沿線書店の閉店にともなってその後季刊となり、コロナ期間中には思うように街での取材ができず、対面からリモートになったりと社会が変化する中で、誌面づくりを一新し「縦」から「横」の判型にした「街の手帖リーディング」シリーズを年に1回、あるいは2年に1度のスローペースで出版してきました。

そして、今回そろそろコロナも落ち着いたかな?ということで、通算32号目を出版するに至りました。判型もコロナ中の「横」から「縦」に戻しての出版です。

今回の特集は、私がコロナ期間中に過ごしてきた銭湯や温泉、整体・オステオパシーのほか、街で活動するアーティスト、店主、ライターたちに癒やしにつながる音楽やスポットなどを紹介いただいた賑やかな誌面になっています。

なぜ街の本を作ろうと思ったのか? という質問を発行当初からよくいただきますが、当時、妻と私で何の計画もなくそれぞれの勤め先を一緒に辞め「新しいなにか」をはじめようと池の近くのマンションを借りて仕事場兼住処にしたことからはじまりました。

お互いに会社を辞めたことで都心までの通勤がなくなり、住んでいる街で食事をしたりお酒を飲んだりしているうちに、さまざまなお店の店主や街の人たちとの会話から「この街って面白いな。これは何かできるかも」と思うようになりました。

また、20年前に一度メンタル不調になったことがきっかけで、1〜2ヶ月の間なにもせず暮らしていたことがあり、その時私が社会との関わることのできた「気に入ったお店に行くこと」から、それまで音楽やアート関係の本を作る仕事をしていたのですが、街をテーマにしたものを作ろう!と決心したのです。
そしてその「街」は、3両編成の池上線が走る沿線の街と決めました。

20代の頃から自費で(発行・編集・デザインともに)雑誌を作ってきた経験があるので(とはいえ、立派に経営している出版社からしたら「遊び」のように思われても仕方ないですが、その時に作っていた『salon』というシリーズは『20世紀エディトリアル・オデッセイ: 時代を創った雑誌たち』という本にも収録されています。)、さっそく持っていたパソコンに入っていたAdobeのインデザイン(レイアウトソフト)でA5判20ページのレイアウトを仕上げていきました。

なにげない街の風景をスマホで撮影(その後、カメラマンにお願いするようになりました)、そしてそれに見合うエッセイを添えていく。文章も自分の住んでいる街のことだし、よく行く店のことだからスラスラと書けました。それらを、さっとデザインして印刷し、まずは500部をつくり沿線の書店に営業していきました。

できあがった冊子を持って近くの本屋さんに持っていくと「面白いねえ」と好反応。五反田にある大型書店にFAXすると、担当者が取り扱いを即決してくれました。

そんな恵まれた出版から11年。
企画や編集でいろいろな試行錯誤がありました。
イラストレーターの方に蒲田にある手芸店に行って工作をしてもい楽しい街での過ごし方を提案したり、はたまた飲み屋のカウンターで隣になった話の面白い人を口説いて原稿をお願いしたり。
いまから思えば無謀だし失敗したら怖かっただろうなということもどんどん企画して記事にしていきました。
そして、この小冊子を介してさまざまな恵まれた出会いや機会をいただきました。

11年目に出版する今回の街の本は、前々からよく聴いていた音楽バンド、カーネーションの直枝政広さんによるエッセイ「一枚のレコード」のほか、沿線で長く営業を続けてきた書店の閉店インタビュー、そして蒲田の要注目スポット「蒲田温泉」の曲で知られる「バクザンの人生」などなど、小冊子ながらギュギュっと読み物を詰め込んでいます。

特に直枝さんの人生が街の情景と重なりあい滲みあって浮かび上がるエッセイには注目です。このエッセイは、人生をそれなりに過ごしていなければ書けない街のエッセイだと思いました。

またいつも料理の写真とともに短い文章を添えてSNSにアップされている落語家真打の三遊亭司さんによる「落語家の食卓」は、写真こそないものの文章からのぼりたつ食へのこだわりがみどころ。

詩人の服部剛さんの街をテーマにしたエッセイと詩、最近脅威の14万いいね!を獲得した小説家の小林大輝さんのエッセイ、ほかにもリトルクリーチャーズの栗原務さん、浅草橋天才百貨点を最近オープンしたほしぶどうさん、西小山のたいやき とさん、川崎のミュージシャンyoshiさんなど、街が好きで、街でよく会う人たちからもおすすめの「癒やし」スポットを紹介いただいています。

ぜひあなたの街で、この小さな池上線沿線の(小さなとは言っても、いまはテレビでも放送されるメジャーになりつつある?生活の)まちの本のページを開いてみてください。

あなたは自分の住んでいる街でどんな本をつくりますか?
ぜひ教えてください。

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池上線沿線書店、および都内の大型書店。全国の書店からも注文可


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